法律施行 抵抗激化
帝国歴1903年8月20日 ヴィクトル新聞社 朝刊
政府通達
植民地政府より長官考案の以下の法令が施行されることが発表された。
統治改善法
価値観などによる政治的摩擦低減のために以下の両都市を虎族人が統治する。
南部都市アウターラント・ペリル
北部首都アイザンブルクは直接政府が統治する。
議会設置法
植民地政府に意見を出す議会を設置する。
各都市から3人を議員として8月31日までに選出する事。
虎族人のみに立候補の権利を与える。
投票権は爬虫類種族を除く全ての人に与えられる。
国家調査法
全国民を調査し戸籍の作成、犯罪摘発を行う。
武装規制法
銃器、弩、火薬兵器の所持を8月31日付けで全面禁止する。
本日のニュース
行政府に国民調査局を設立する事を発表
国営企業『ゴンゴ総合商社』設立
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昨日発行された新聞を読み。
「順調に行くと思うか?」
遥か東方バラト産の紅茶を飲みながらタニエットに聞く。
「いえ、爬虫類種がかなり反発しそうです」
「そのために我が社の陸上防衛部を設立したんだからな」
「上手くいくのでしょうか?」
「上手くいくさ、必ずな」
陸上防衛部、2500名から構成された本国の最新式兵器で武装する実質的にはビクトル家の私兵部隊。
しかし中身は本国の刑務所や飲み屋からかき集められた元密猟者やら素行の悪い元軍人で構成されている。
島内の一角、鰐族の集落に続く道にその姿が見えた。
海岸沿いに茅葺き屋根が立ち並ぶ集落では一段と目立つ。
彼等の目的はただ一つ暴動の鎮圧、目の前に人影が見える。
「何しに来た!」
現れたのは一人の男、鎧のような肌に粗末な衣服を身につけて滑腔式銃を突きつける。
「武器の差押えを命じられている、直ちに差し出せ」
サーベルを手にカーキ色の軍服を着た将校が冷静に命令した。
「断る!」
怒りで真っ赤な顔で答えるとフリントをコッキングし銃を構える。
「それは村の総意か?」
「そうだ!立ち去れ!」
「そうか」
背後に居た兵士に目配せをすると。
三十発の銃弾が臓物をぶち抜いて脳漿を撒き散らした。
「作戦開始!」
号令と共に千名の歩兵4個中隊が木々生い茂るジャングルに潜入して行く。
兵士達は集落を半包囲するように潜伏した。
軍馬に乗った将校が一人軍使として集落内部に派遣された。
「村長は居るか?」
粗末な家の影からこちらを怪しげに子ども達が見ている。
「私が村長です」
腰がほぼ90度に曲がった老人が一段と大きな屋敷から出てきた。
「単刀直入に申し上げる、先程路上でこちらの戦士とみられる男が銃を我々の指揮官へ向け発砲を企てた」
老人はギョッとした表情で。
「それで、その男は?」
「我々は先制攻撃を行い死亡させた」
血塗れの布袋に包まれた遺骸をドサッと落とした。
「そんな……馬鹿な!息子よ!目を開けてくれぇ……」
「どうやら武装解除の意思は無いようだな」
「当たり前だ!こんな事しやがって!」
信号弾を放つと軍馬は駆け出した。
途端、地鳴りのような音が鳴りしばらくすると手のひらに収まるサイズの大量の伝単が天を覆う。
日に照らされ輝く紙吹雪にはこう書かれていた。
(直ちに武器を捨てて降伏せよ)
「着弾確認!」
集落から5キロ先、後装式砲20門が天を仰ぐようにして砲口から青白い煙を出していた。
横では騎兵隊が駆け出す。
「直ちに降伏せよ!」
ジャングルから歩兵隊が家屋に突入した。
「ひっ、やめてくれ!」
「一人残さず拘束しろ!」
老若男女問わず手錠をかけて行く。
「行け行け!」
室内に突入したその瞬間。
「食らえ!」
鰐族の男がライフルをこじ開けられたドアに向け撃った。
「があっ」
先頭の兵士がドアを開けた瞬間に崩れ落ち、首根っこを掴んで後方へ後退される。
「撃て!」
負傷兵を後退させながら発砲を命じると正確な射撃で頭部は吹き飛んだ。
間も無く騎兵隊が到着した。
彼らの任務は方々へ逃走した住民の捜索である。
カービン銃を肩に掛け道沿いを軍馬が走る、時々銃声が轟くが弾が飛来する気配は一向に無い。
しばらく走らせると丘が見えてきた。
只の丘ではない、木の塀や石垣で防壁を作った砦である。
頂上にポツンと見える石造りの円形塔までは目測で100mほどであろうか。
「引き揚げろー!」
砦からは罵声と鉛玉が飛んでくる。
「集落まで退却!」
指揮官の号令と共に引き返して行った。
捕らえた女に集団で暴行を働き少女の服を剥がしている最中にその報が来た、総指揮官たる元死刑囚ヘンリー・ホープ部長は毛むくじゃらの体を少女に打ち付けながら吼える。
「おい!砲兵!男しか居ないんだろ?皆殺しにしろ!」
すすり泣く少女の声と男達の笑い声が木霊する。
側に控えていた砲兵課長が指示を出す、集落内に展開している五門の75mmカノン砲がジリジリと仰角を付け兵卒が慌ただしく装薬と砲弾を運ぶ。
「装填よし!」
「方位、角度共によし!」
「撃て」
ヘンリーの一声で放たれた砲弾はそのまま弧を描き時代遅れの砦に直撃し打ち砕いた。
「進め!」
近くに展開していた別動部隊の歩兵が丘を駆け上がり廃墟化し砂煙漂う中を進んでゆく。
時々銃声が轟き残存兵に止めを刺す。
「ここが本丸か、よく出来てるな」
塔の瓦礫を退かすと地下へと続く扉が現れた。
「おーい!集まれ、地下室があるぞ」
銃剣で刺していた配下の兵を呼び戻し慎重に開けると中から。
「助けてください、お願いします」
艶のある鱗の少女!それも見た事のある姿である。
「コイツ!爬虫類種の姫様ですよ!」
「後ろにも何人か女がいやがる、おい!姫様だけ捕まえて長官閣下に送ってやれ」
「て事は他は?」
ニヤついた顔で言う。
「好きにしていいぞ」
「ひゃっほー!待ってました!」
男達は組み伏せると『コト』をやり始めた。
悲鳴が響く、どこまでも響く
「ご主人様電報です」
風呂上がりに酒を飲んでいるとタニエットがやってきた。
「用件は?」
「武装解除の件で今日の分を報告するそうです」
「言ってくれ」
「被害は軽微、村3ヶ所の制圧に成功との事です」
「よくやってくれたと伝えてくれ」