表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冷血女王様は踏まれたい  作者: りりぃこ
第一章 ライブ編
8/77

8 動画


 ※※※※


 今日は夢見パレードの収録日だ。


「花実さん収録も見に来るんですか?」


「まあ別な仕事でこのスタジオ来るらしいから、ちょっと寄るくらいだけど」


 赤坂さんがスケジュールを見ながら答える。


 あの日からすっかり雪名さんの虜になった爽香と奈美穂はキャッキャとよろこんでいる。


 私だって、あの裏の顔を知らなかったら二人と一緒にキャッキャ出来たんだろうけど。



 それにしても、今日は少し収録が押しているようだ。私はトイレに行こうと楽屋の外へ出た。近くのトイレが清掃中だったので、少し離れたところへ向かおうとしたその時だった。


 誰かに腕を引かれ、別な楽屋に引きずり込まれた。



「な、何っ!?」


「しっ!静かに!」


 目の前には雪名さんがいた。


「え?どうしたんですか?」


「好葉に用事があってね。ちょうどいいところに来てくれたから、思わず捕まえちゃったわ。」


 雪名さんは女郎蜘蛛みたいな言い方をする。


「あれ?でも今日私達の収録に寄るって言ってませんでした?別にこんな捕まえなくても普通に来てくれたら……」


「普通に行ったら、仕事モードで行かなきゃだめじゃないの」


「……つまりプライベートの用事……てことは用があるのは私の足ですね」


「あら、察しがいいじゃない」


 雪名さんは微笑む。私はため息をついた。


「踏むんですね?今から収録ありますのであまり時間は取れませんのでさっさと……」


「違うわ」


 雪名さんはそう言うと、スマホを取り出した。


「動画が欲しくて」


「動画?」


 私は目を丸くした。



「前にあなた達のレッスンに見学に行ったじゃない?本当になかなかダンスが良くて感心したの」


「あ、ありがとうございます」


 素直に褒められて、素直に嬉しい。


「あれから自分のダンスレッスンも始まって、全然上手くできなくて、さらにあなた達の凄さを実感してね、何度かレッスンの時に取らせてもらった動画見てたの」


「そう、なんですか」


「それでね、私は大変な自分の過ちに気づいたの」


「過ち?」


 私は首を傾げた。雪名さんは真剣な顔で言った。


「仕事の事に夢中で気づかなかった。好葉のダンス中の力強い踏み鳴らし……どうして、アレを私はアップで撮っておかなかったのかしら……って」


「……は?」


「あなた達のダンス動画は役作りで活用させてもらってるわ。でも、好葉の足のアップを取っておけば、仕事以外のプライベートのオカズにも出来るのに……」


「オ、オカズって下品な言い方、止めて下さい!」


 私は思わず顔を赤くして口を挟んだ。


 雪名さんは無視してスマホを私に向けた。


「さあ好葉、また踊って。ここじゃ無理なら別なスタジオ借りてもいい……」


「雪名さん……」


 私は思わず雪名さんの言葉を切って言った。


「すみません。私は、そういう目的でダンスしてるんじゃありません」


 そう言って私は深く頭を下げると、雪名さんに背を向けた。


 そして、「収録がありますので」とだけ言って、楽屋を出ていった。




 私が自分の楽屋に戻ってしばらくしてから、雪名さんがよそ行きの顔で訪ねてきた。


 赤坂さんとメモを片手にいくつか喋って、その後爽香と奈美穂とと話をした。私には一切話しかけなかった。


 ――さっきの、怒ったのかな。


 ちゃんと丁寧に断ったつもりだけど、やっぱり女王様のご機嫌は損ねてしまったみたいだ。目も合わせてくれない。



 結局雪名さんは、収録の冒頭だけチラリと見学して、次の仕事の為に帰って行った。


「どうしよう。後で謝っておいたほういいかな」


 私はボソリと呟いた。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ