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冷血女王様は踏まれたい  作者: りりぃこ
第六章 モデル編
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72 キラキラ


「衣装はもう着てるからこのままで。でも髪が。馬鹿みたいに派手なヘアピンついてたんだけどどこかで落としちゃったみたい。何も無いのは物足りないわよね」


 雪名さんは走りながら髪をまとめている。



「ねえ、キラキラ女子になれてる?」


 雪名さんは心配そうに私にたずねる。


「なれてると思いますが、確かにちょっと物足りないですね。あ!そうだ!」


 私も並走しながら自分の鞄を漁った。


 そして、ちょうどいいのを取り出した。


「雪名さん、これ、まとめた髪に刺しててください」


「あら、いい感じに派手なかんざしね」


 雪名さんは私から受け取ったモノを頭に刺す。


 走りながら鏡を確認して頷いた。


「一応スポンサー抵触しないように確認するけど、これどこのブランドのかんざし?」


「これ、ペンです」


「は?」


「ペンです」


「こんな馬鹿みたいなペンがあるはず無いでしょう」


 雪名さんは辛辣だ。


「実際ペンなんです。あとで確認してください。モデルのマイカちゃんのプロデュースした文具です」




「花実さん!好葉!ようやく来た!こっちこっち!」


 赤坂さんが手招きしている方へ走っていく。



 ステージでは笑い声が響いている。


 監督や共演者達が盛り上げて時間稼ぎしてくれているようだ。


「もう高屋敷監督には頭が上がらないわ。今後はハゲとかクソ監督とか言わないようにする」


 雪名さんが珍しく素直に言った。




「ここでようやく、主演の花実雪名さんが登場です!」


 司会者の人の声が響いて、雪名さんがステージに登場した。


 会場はワッと盛り上がる。


「申し訳ありません。皆様のせっかくの貴重なお時間を」


 雪名さんは観客に丁寧に謝る。。


「仕方ないよー。なんか、トラブルに巻き込まれたって聞いたけど。もうネットニュースなってるみたいだよー。早いねー。大丈夫だった?」


 ステージ上で、高屋敷監督が雪名さんに話しかけた。


「でも一応遅刻だからさ。共演者とお客さん達と一緒に、雪名におねだりを考えてたんだよねー」


「そうそう、お客さんにサービス的な」


「何でもしますよ」


 雪名さんは張り切ってみせている。



「あのね、雪名、LIP‐ステップのライブで役作りしてたんだよね?その時のダンス、今ここでLIPの皆と一緒に披露して貰えないかな?」


「……え?」


 高屋敷監督の、突然の要求に、雪名さんは一瞬固まる。


「ほら、LIPの皆も今日一緒だし。さっき歌ってなかった牧村さんも出番ほしいよね?」


 突然話を振られて、ステージ袖にいた私は、あわててひょこっと顔を出す。


「え、えっと。出番は欲しいです」



 私の言葉に、会場は沸く。



 完全に雪名さん踊る流れだ。ごめんなさい。



 雪名さんはそんな空気を読んで、にっこりと笑ってみせた。


「やだぁ。もうずっと踊ってないから下手くそですよ〜。変な空気になったら責任取ってくれるんですかぁ」


「責任取るよー。大丈夫大丈夫」


 共演者達が盛り上がる。


 空気は絶対に読む雪名さんは女優魂を発揮し、一切嫌そうな顔をせずに終始笑顔でちょっとノリノリの様子をみせた。


「よーし、決定だね」


 高屋敷監督がそう言うと、会場が再度沸いた。



 そんなわけで、雪名さんと私達LIP‐ステップの、あの日のライブが蘇ることになった。



 あの日は、雪名さんはカバ子だったし、途中で乱入者があったりして散々だったけど。


 正直、私は楽しみだ。あの時ちゃんと見せてあげられなかったキラキラの世界をみせてあげたい。


 まあ、雪名さん的には嫌なんだろうけど。



 案の定、一旦舞台袖にはける瞬間に、「あのハゲクソ監督め」とボソリと呟いたのだけは聞えた。



「あの、雪名さん、大丈夫ですか」


 私は心配になって、雪名さんに問いかける。雪名さんはちょっと仏頂面しながらも言った。


「いいわよ別に。私のせいで好葉の出番奪っちゃったし」


「いや、あれは私の判断なので雪名さんのせいでは……」


「それに、私はあなた達と一緒に仕事するの、嫌いじゃないわ」


 そう言って、雪名さんは目線を私の後ろに向けた。私も後ろを振り向いた。


「好葉!花実さん!」


「大丈夫でしたか?」


 爽香と奈美穂が駆け寄ってきたのだ。


「何か情報錯綜してて。花実さんがヤクザに捕まったとか、花実さんがヤクザのアジト探し当てたとか、アジト崩壊させたとかよくわかんなくなってて」


「概ね、正解」


 そんなわけ無い噂なのに雪名さんは適当だ。



「ありがとう、二人も。時間稼ぎしてくれたんでしょう」


 雪名さんは爽香と奈美穂に微笑みかける。


「本当は3人でやりたかったわよね。ごめんなさい」


「大丈夫です!」


「むしろステージ広くて良かったです!」


「ちょっと、どういう事」


 私は口をとがらせてみせた。



「雪名、LIPの皆、早めに準備してねー。雪名がヤクザのアジト崩壊させてたからイベント時間押してるんだからねー」


 高屋敷監督が能天気に舞台から声をかける。


 雪名さんは小さな声で「あのハゲ監督が」と呟くと、私達に向き合った。


「じゃ、サポートしてね。皆」


「はい。頑張りましょう」


「あの時は中途半端になっちゃったリベンジですね」


「雪名さん」


 私は雪名さんの手を取った。


「一緒に、キラキラの世界見ましょうね」


「ええ。ちょっといじってやろとか思ってる監督達の鼻を明かしてやりましょうね」


 雪名さんはニヤリと笑った。




 音楽がかかって、あの日と同じ曲が流れる。


 私達の後で踊っているのは、カバ子ではない。



 思いがけず雪名さんは上手に踊れて、監督も共演者も観客も皆驚いていた。私達もちょっとビビった。



 イベントは盛り上がった。


 雪名さんの遅刻事件も相まって、SNSでもかなり話題になったようだ。



 いい宣伝になったと、高屋敷監督はホクホクしていた。




 あと、次の日マイカちゃんから、あの巨大ペンの問い合わせがなぜか凄いんだとの電話が入った。


「でも、皆なんか、かんざしっていうんだよね。あのペンのこと。なんでだろう」



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