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冷血女王様は踏まれたい  作者: りりぃこ
第六章 モデル編
72/77

70 時間がない



 そうこうしているうちに、古いビルの前にタクシーが着いた。


 トモさんに案内されて、二階の小さなドアの前に立つ。



 その時だった。


 中から声が聞こえてきた。



「すんません姐さん、もうちょい待っていただけますか」


「ええ、待つのは問題無いわ。どうせもう間に合わないしね。ただ、連絡だけ取らせてって言ってるんだけど?言葉通じる?」


「いや、変に連絡されるとちょっとこっちの立場が……」


「だからね。かえって連絡が取れないと、警察沙汰になる可能性が高いでしょう?あなた達もそれは嫌よね?」


「はい。困ります」


「だから、一言連絡させてって言ってるだけなの。通じてる?」


「いや、しかしうちの兄貴が……」


「お兄様に確認取らないと何もできないの?バカなの?」


「すんません姐さん……許して下さい。あ、何か飲み物でも買ってきますので」


「お菓子も買っています。それでご勘弁を」


「この私を、飲み物とお菓子ごときで懐柔させようっていうの?いい度胸ね」



 ヤクザの人達に姐さん呼ばわりされているのは、明らかに雪名さんの声だ。



「おう、テメエら、ちょっといいか」


 トモさんが勢いよくドアを蹴りながら入っていく。


 中にはヤクザさん3名と、その真ん中で偉そうに座っている雪名さんがいた。



 何でヤクザに囲まれてまであの人は偉そうなの?



「おい、時間がねえんだ。その人帰せ」



(トモエ)さんじゃないっすか。お久しぶりっす」


「すんません、ちょっと今うちの兄貴待ってまして」


 ヤクザさんが次々とトモさんに挨拶している。トモさん、巴って名前なんだ。



 トモさんは苛立ったように再度言った。


「テメエらの兄貴には俺から言っといてやるから。その人、女優なの知ってんだろ?闇バイトの応募者じゃねえよ。今から仕事なんだとよ」


「いや、知ってますよ。花実雪名っすよね。兄貴がファンなんすよ。一度会いてえからちょっと待たせてろって」


「はあ?んな仕事の邪魔するようなファンがいてたまるかよ。自分が会いてえとか、そういう私利私欲じゃなくて、ちゃんと仕事を応援してこそファンだろうが」


 私利私欲で盗聴器を仕掛けていたファンがマトモな説教をしている。



 ヤクザさん達とトモさんが言い合いをしているスキに、私は雪名さんにそっと近づく。


「雪名さん、帰りましょう」


「好葉、どうしてここに?あのヤクザは?」


「あの人は、まあ話すと面倒なのであとで。とりあえず帰りましょう。ちょっと今からだと遅刻だけど、間に合うかもしれません」


 私は、雪名さんをこっそりと立たせた。


「荷物ありますか?もしかして取られてたり……」


 私が辺りを見渡したその時だった。



「おい、ねえちゃん、何してんだよ勝手に」


「あっ!」


 ヤクザさんの1人に怪しい行動を咎められ、私は肩を掴まれた。


 トモさんはキツく怒鳴る。


「おい、好葉さんに手ぇ出すんじゃねえぞ。その人は俺の大事な女だからな」


 トモさん、お願いだから語弊のある言い方しないで!



「巴さん、すんませんが、こっちにも立場っつーのがあるんすよ。大体、この事務所が、知名度ある奴にバレたのもヤバいんすから」


 ヤクザさん達とトモさんはは一触即発で睨み合っている。



「時間が無いのに……どうしよう」


 私は頭を抱えた。そんな私に雪名さんが囁く。


「好葉、あなたの携帯で白井さんに連絡取って」


「白井さんにならもう連絡してあります。この場所も教えたので。でもこうなったら警察に連絡したほうが」


「白井さんに連絡してあるなら大丈夫よ」


「いや、でも……」



 その時だった。



「失礼します。うちの雪名、こちらに来てると聞いたので……」


 開いたままになっていた部屋のドアから、白井さんが顔をのぞかせていた。


 ヤクザ達とトモさんが一斉にそちらを向く。


「おう、また来客か。ねえちゃん、ちょっと待ってろよ」


 ヤクザの1人が威圧的に白井さんに近づく。



 しかし白井さんは一切動じずに言った。


「すみません、時間が無いので失礼しますね」



 〜〜〜〜


 その後の事はちょっと上手く説明できない。



 ふと気づくとトモさん含めたヤクザさん達は皆白井さんに怯えていて、私と雪名さんは、白井さんの車にポイッと乗せられて超特急で会場に向かっていた。



「白井さんって、何なんですか…」


「前にも言ったでしょ。白井さんは強いって」


 雪名さんは当たり前のような顔をしており、白井さんもケロリとした顔で運転をしていた。



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