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冷血女王様は踏まれたい  作者: りりぃこ
第六章 モデル編
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69 結局出禁


「よくわかんないけど、トモさんはじゃあ雪名さんがどこに連れて行かれたか知ってるんだよね?その、専門家?だし」


「いや、まあ専門家っていうか。心当たりは何箇所かあるので若い衆に問い合わせれば」


「連れて行って」


 私はすぐにトモさんに言った。


 しかしトモさんは少し迷った顔をしている。


「それは、正直オススメしません。完全に任せてもらえることはできませんか?」


「どうして」


「万が一、誰かに好葉さんが僕と一緒にいるところを見られたら。アイドルがヤクザとつるんでるなんて思われたら、芸能生命終わります」


「いいから!」


 私はトモさんの肩を掴んで揺さぶる。


「時間無いから早く。プロモーションもだけど、ヤクザみたいなのに関わっちゃったらヤバいのは雪名さんも同じ。知られたら生かしちゃおけねえってシメられてたら大変。早く行かなきゃ!」


「好葉さん、花実雪名の為にそこまでの覚悟が?」


「覚悟とか無いから、その件はあとで考える!ともかく早く」


 私は必死になって言うと、トモさんは少し眉を下げた。


「真面目な好葉さんが、そんな無鉄砲な事言うなんて……好葉さんらしくない」


「幻滅した?」


「惚れ直しました」


 それだけを言うと、トモさんはスマホで電話をかけ始めた。



「おう、俺だ。テメエんとこのシマのあのバス停、今日誰か乗せなかったか?ああ?知ってる奴出せ。時間かかるようならぶっ殺すぞ」


 突然豹変したトモさんに、私はすぐに我に返った。


 ――わあー、ホンモノだぁ。



「花実雪名を乗せたタクシーわかりました。ここからすぐの事務所なので。ただ、時間に間に合うかギリギリです。先にライブシーンやるとしても。若い衆の迎えを待つより、タクシー捕まえて行きましょう」


 盗聴器のおかげで色々と話が早いトモさん。


「場所教えて。白井さんにも知らせるから」


 私はすぐに白井さんに連絡を入れる。


 その間に、トモさんはタクシーを捕まえてくれた。



 タクシーにトモさんと一緒に乗る瞬間、ほんの一瞬だけ躊躇した。


 この人は、ヤクザで、私へのプレゼントに盗聴器仕掛けてた人で。二人で乗り込んで大丈夫?信用できるの?白井さんとか赤坂さんを待ったほうがいいのでは。



 しかし私はとりあえず自分の直感を信じることにした。


 大丈夫。この人は私の大事なファンなんだから。


 ……まあ正直、盗聴器かつヤクザなので多分今後出禁だけど。



 タクシーに乗ると、すぐにトモさんは運転手さんに行き先を告げる。


「代金倍出すからよぉ、スピード違反しても構わねえから、特急で行けや」


「だ、駄目です!安全運転でお願いします」


 私は慌てて運転手さんに訂正してから、トモさんを少し睨む。


「好葉さんの、そんな顔、あんまり見られないから少し興奮します」


 だめだ、トモさんにはあまり効いていない。



 タクシーの中で、私は何度か白井さんや赤坂さんと連絡をとった。


 その合間に、ふとトモさんは私と目を合わせずに言った。


「盗聴器なんてつけて、ヒきましたか?」


「それは、うん。ドン引きしました」


 私は正直に言う。


「私、いつもトモさんの感想に救われてた。言われたいことを言ってくれるっていうか。頑張ったところを褒めてくれて。……それって、盗聴器で、私達の打ち合わせとか練習とか聞いてたから?だから、私が何を言えば嬉しいと思うかわかってたってこと?」


「すみません」


 完全に、同意の謝罪である。


「その、プライベートの音聞こうとか、そう言うんじゃないんですよ。だから、玄関で脱いでしまう靴にしたっていうか」


 言い訳がましくトモさんは言う。


 まあ確かに、スニーカーは玄関で脱いじゃうから、生活音をあまり聞かれてはないか……ん?



「もしかしてトモさん、雪名さんの、その、 (へき)の事も聞いて……?」


「ええ」


 トモさんは怖いくらいに無表情になっていた。


「驚いたし、許せなかったです。僕達の好葉さんの足を、そんなふうに使うなんて。立場が上なのを利用して……パワハラじゃないかって思って」


 パワハラの代名詞みたいな仕事しているトモさんが憤慨している。



「パワハラじゃないよ」


 私は静かに否定した。するとトモさんは真剣な顔をしていた。


「わかってます。だって、好葉さん、楽しそうだったから。困ったような声をしながらも、楽しそうに花実雪名と話してたから。本当に嫌だったら、あんなに楽しそうにしていない。今日だって、こんなに心配してる」


「……うん、確かに楽しかった」


 トモさんの言葉に、私は頷いた。



 私は雪名さんと一緒にいると楽しい。


 踏むのは……ちょっと困るけど、踏みたいわけじゃないけど。でも嫌なわけじゃなかった。



「私は、雪名さんのそばにいたいの」



 ポロリと言葉が溢れた。


「雪名さんはたまに性格悪いけど、優しい。キツくて辛辣なくせに、可愛い。美人女優のくせにお肌の手入れが適当で。ドSのくせにドMみたいな性癖持ってて。そんな雪名さんを知ってるのは自分だけだって。そんな雪名さんのそばにいれるのは自分だけだって思い上がってて恥ずかしかった。でもそばにいたいの」


 私が仲良しなんて雪名さんの格を落としちゃう、とか思う一方で、心のどこかで雪名さんに、一番の仲良しだと認識してもらいたかった。


「仲良しだから。私は雪名さんと」



 私はトモさんに言っているのだろうか。


 それとも自分に言い聞かせているのだろうか。



 私の言葉を聞いたトモさんは、優しい顔で微笑んだ。


「きっと、花実雪名も、好葉さんの素直な気持ち、嬉しいと思います。だから、昨日の靴屋さんでの事も、ちゃんと話し合えば解決できるはずです」


「トモさん……」



 ……あ、そっか。盗聴器のおかげで、靴屋での件も知ってるんだね。



 私は急に冷静になって、さっきまでのちょっとエモい気持ちが一気に萎んでいくのを感じていた。



 ごめんね、やっぱりトモさん今後ライブ出禁だ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 雪名さんのそばに居たい……好葉ちゃんの心からの言葉、泣けちゃいますね……! でもまだ泣きません!雪名さんとの仲直りがまだですから!どうか上手く行きますように……!!
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