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冷血女王様は踏まれたい  作者: りりぃこ
第六章 モデル編
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68 ドン引き


「あと30分くらいで始まっちゃうね。皆は一旦戻って。怒られちゃうから」


 白井さんが私達に言う。


「私はギリギリまで探すけど。見つからなかったらとりあえずスタッフとかお客さんに平謝りしなきゃ。とりあえずあと30分、頑張って探してみます」



「40分です」


 私は思わず言った。


「予定では、出演者の挨拶をしてから、私達のライブシーン再現があります。その順番を変えてもらいましょう。先に私達のライブシーン再現をやります。少しでも長く、雪名さんを探しましょう」



 私の言葉に、赤坂さんが、「監督とかスタッフにお願いしてくる!あとで探すのも一緒にやりますから!」と走っていった。



 白井さんは丁寧に頭を下げる。


「あ、ありがとう牧村ちゃん。じゃあ皆の作ってくれる10分も使って、ギリギリまで探してみるね」


「私も探します。一人でも多いほうがいい」


「は?」


 私の言葉に、白井さんはキョトンとする。


「え、でもライブシーン先にやるって……」


「大丈夫です。二人でやります。ね?二人とも出来るよね?」


 私が爽香と奈美穂に問いかけると、二人はしっかりと頷いた。


「うん、出来る!」


「好葉がインフルエンザの時に、万が一ライブまでに好葉が回復しなかった場合を想定して練習していたダンスが、ここで生きることになるとは思いませんでしたけど」


「だ、駄目よ!LIP‐ステップは3人でしょ?雪名の為にそんな事、させられない!」



 慌てる白井さんに、私は早口で言う。あまり時間が無いのだ。


「今日の仕事は、映画のプロモーションです。一番大切なのは、私達じゃなくて主演の花実雪名さんです。そして、今日パフォーマンスするのは、LIP‐ステップじゃなくて、映画の主人公、オノサクラが憧れたアイドルです。それは二人でも再現できるはず。いえ、します。

 だから、早く主演女優を探しにいきましょう!」



 私の言葉に、白井さんは一瞬だけ目を泳がせたが、すぐに頷いた。




 会場の中にはいなそうなので、外も手分けして探すことになった。


 すでに派手なステージ衣装だった私は、ここ数日持ち歩いていたベイビーベイビーの服の中から地味で大きめのパーカーを選んで羽織った。




 外に出ると、今日のプロモーションを見に来たお客さんが並んでいる。


 私は見つからないようにそっとその横を通り過ぎようとした。


 その時だった。



「好葉さん」


 後ろから呼ばれて、ビクッと飛び上がる。


 振り向くと、ファンの一人、トモさんだった。



「あ、こんにちはぁ」


 思わずにこやかな営業スマイルを浮かべる。でも今は正直対応している暇は無い。


「もしかして今日見に来てくれたの?ありがとうー。でもごめんね。今忙しくて……」


「花実雪名ですか?」



 思いがけず、雪名さんの名前か出て、私は思わず素の表情になった。


「な、何で知ってるの」


「時間が無いんですよね。僕に心当たりがあります」


「待って!何で知ってるの!?」



 私の強い口調の問いに、トモさんはとても悲しそうな顔をした。


「信用、できませんか」


「時間が無いから、正確な情報じゃないと動きたくない」


 私はきっぱりと言う。



 トモさんは、バツの悪そうな顔をした。そして、小さなイヤホンのようなものを取り出した。


「これは?」


「盗聴器です。僕が好葉さんにあげたスニーカーに入っています」


「はっ!?」


 私は勢いよくドン引きして、トモさんから離れた。


「だ、だって、プレゼントされたものは全部、事務所が細工とか無いかチェックしてからこっちに届けられてるのに」


 トモさんは慌てていう。


「すみませんでした。あの、ちょっとうちの組のモンにバッタモン作るのが上手いやつがいて……。そんな事よりともかく、時間がないようなのでドン引きするのは後にして下さい」


 後にしてって言われても。



 トモさんは続けた。


「好葉さん達が、衣装に着替えてから、SNSの写真撮りに行くってステージの方に行ってしまった時に、花実雪名が楽屋に訪ねてきたようなんです。そんな音がしました。皆さんがいないって気づくと、『仕方ない』って呟いていたみたいでした」


「……それが、スニーカーに仕掛けた盗聴器から聞こえたの?」


 私がちょっと嫌味ったらしく言ったが、トモさんはあまり気にせずに続けた。


「何だかぼーっとしたような声でした。『タクシー使えばまだ間に合う……』とか、『確か乗り場が会場の裏に……』とか言ってました。多分、この会場の裏にあるタクシー乗り場からどこかに行ったんだと思います」


「どこかって……どこに……?あ、でもじゃあタクシー会社に連絡して、ここから乗せた人を聞けば分かるね!」


 私はパッと顔を輝かせる。


 しかし、トモさんは首を振った。



「その、困ったことにですね、実はそのタクシー乗り場……ダミーなんですよ」


「だみぃ?」


「その、うちの業界では有名な場所で……」


「うちの業界……」


 そういえば、トモさんって確か……ヤク……。


「いわゆる闇バイトの応募者を乗せる為の、ダミータクシー乗り場で」


「やみばいと……だみいのたくしーのりば……」


 あまり聞きたくない単語の羅列に、私はクラクラしてきた。


「えっと、じゃあ雪名さんがもしそのタクシー乗り場に行ったんだとしたら」


「闇バイト応募者と勘違いされて乗せられて行っちゃったかもしれません」



 何と……。



「何でそんな紛らわしいとこに、ダミーのタクシー乗り場作ってるの!間違えて乗っちゃう人いっぱいいるよ!」


「すみません、たまにアホなヤクザがいるもんで……。あとでヤキ入れておきます」



 あ、ヤキは入れなくて大丈夫です。



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