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冷血女王様は踏まれたい  作者: りりぃこ
第六章 モデル編
69/77

67 顔色


 それでも次の日はやってくる。



 大きなステージのある映画館。


 私達は映画のスタッフや出演者の楽屋へ挨拶に回っていた。



「久々だねぇ。最近結構売れかけてるんじゃない?」


「おかげさまです」


 高屋敷監督は、私達をみて上機嫌に笑っていた。


「君達が結構活躍してくれたみたいだからね。いやあ起用してよかった。君達の前に決まってたグループが失言してくれて良かった」


 なかなかシビアな事を言ってくれるので、私は少し苦笑いする。



 その時、コンコン、とノックの音が聞こえた。


 高屋敷監督の楽屋に、また挨拶の人が来たようなので、私達は失礼しようと立ち上がった。


「失礼します」


「失礼しまぁす」


 そう言って入ってきたのは、雪名さんと結音だった。


 私は思わず雪名さんから顔をそらす。


「おー、二人とも、今日もよろしくね。おや、雪名なんか疲れた顔してない?」


 高屋敷監督が雪名さんに声をかける。


 その言葉に、私は雪名さんの顔を見た。


 高屋敷監督に苦笑いして見せる雪名さんは、確かにほんのり顔色が悪い気がする。


「そんな事無いですよ。こういう映画のプロモーションのときは、いつも緊張しちゃうだけです」


 雪名さんが笑って見せる。


 それを聞いて隣にいた結音がふふ、と微笑む。


「でも花実さんはこういうプロモーションとか好評ですよね。演技で悪い女演じてる人はちょっと明るくするだけでギャップで好感度上げること出来るから羨ましいなぁ」


「ふふ、さすが別アイドルの配信ライブで高感度上げることに成功した人は言う事が違うわぁ」


 うふふ、あはは、と火花を散らす二人の美人。


 相変わらずちょっと怖い。


 なのに、高屋敷監督は「相変わらず仲良しだねー」と上機嫌だ。




 挨拶を終えて、私達は雪名さんと結音と一緒に楽屋を出た。


「LIPのみんな、もう全部挨拶終わった?私、花実さんともう少し挨拶回るんだけど一緒に行く?」


「私達はこれからライブシーンの再現のリハがあるから」


「そ。じゃ本番でね」


 結音は手を振って、私達に背を向けた。


 チラリと私は結音の隣の雪名さんを見る。


 雪名さんもチラリとこちらを見た気がした。やっぱりちょっと顔色が悪い。



 雪名さんは、ちょっとだけ口を開いた。


 私は、何か言うのかと思って少し身構えた。



「好葉!早く!スタッフ呼んでる」


 爽香に呼ばれたので、私は雪名さんの言葉を待つことなく、その場を離れてしまうことになった。





 スタッフと一緒にステージの確認を終わらせ、衣装に着替えて本番まで少し待つ。


 SNS用の写真を皆で撮っていたその時だった。


 楽屋のドアがコンコンとノックされた。


「ごめんね、本番前に。こっちに雪名来てない?」


 白井さんだった。


 何だかいつも冷静な白井さんが、珍しく慌てたような顔をしている。


「来てないですけど。いないんですか?」


 赤坂さんが言うと、白井さんは困ったように頷いた。


「いつもはこんなギリギリにいなくなることなんて無いのに。うん、まあトイレとか長いだけかもしれないけど」


 そう言って、急いだように白井さんが出ていこうとしたので、私達は慌てて止めた。


「待って下さい。私達も探します」


「いや、そんな皆も今から準備とかあるし……でも、うん、ごめんね、手伝ってもらえると嬉しい」


 遠慮しながらも、白井さんは頭を下げた。


 切羽詰まっているのだろう。


「どこに行ったか心当たりは……」


 私が白井さんにたずねると、白井さんは首を振った。


「全然わかんないの。スマホも出ないし」


「そうですか」


 私はちょっと心配になる。


 あの、顔色が良くなかったのは何か関係があるんだろうか。



「ねえ、牧村ちゃん」


 白井さんはそっと小さな声で私に声をかける。


「なんか、雪名と喧嘩とかした?」


「えっ」


 私はドキリとする。


「2、3日前からなんか様子がおかしくて……昨日オフだったはずなんだけど、夜に電話したら更に何かおかしくて。好葉ちゃん呼び出して踏んでもらう?って聞いたら、『だめ』ってだけ言って切っちゃったの。口調が、前に好葉ちゃんに失礼な事言って凹んだ時に似てるから、てっきり喧嘩したか、また好葉ちゃん怒らせて凹んでるんじゃないかと思ってて」


「喧嘩はしてないと思います。あと、私は怒ってないです」


 私はすぐに答える。


 私は怒っていない。ただ、自分の思い上がりに、自分に失望しているだけだ。


「そっか。変な事聞いてごめんね」


 と白井さんは微笑んだ。



 でも私は少し心配になった。


 昨日の件が、今雪名さんがいなくなっていることに一切関係ないとは言い切れない。


「もし、私のせいなら……」


 私は思わず呟いた。



「牧村ちゃん」


 私の呟きが聞こえたのか聞こえなかったのか、白井さんは優しい声で言った。


「ごめん、さっき変な事聞いちゃったけど、何があっても牧村ちゃんのせいっていうのは絶対に無いからね。仕事の事は全部雪名自身の責任。もしくは私の責任だから」


「……はい」


 白井さんの言葉は私の気持ちを軽くしてくれる。



 それにしても一体雪名さんはどこへ行ったんだろう。



 私達は手分けして会場内を探し回った。


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