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冷血女王様は踏まれたい  作者: りりぃこ
第六章 モデル編
66/77

64 宣伝


 ※※※※


「やっほー、好っちー。写真見に来たよー。好っちが、可愛くないってボロクソ言われた写真」


 その日、私はモデルのマイカちゃんと喫茶店で待ち合わせしていた。



 昨日、モデルのテストはうまく行かないわ、何だか雪名さんのご機嫌を損ねてしまったわで、ペッコリ凹んでいた私にとって、マイカちゃんのあっけらかんとした言い方は、逆になんだか救われる。


「そうなの、私の可愛くない写真、何が問題だったか、プロのモデルのマイカちゃんにアドバイスもらいたくて」


 私は、早めに、とにかく再テストのことだけでもなんとか解決したいと思って、マイカちゃんに写真を見てもらう約束を取り付けたのだ。


 マイカちゃんは、「えーめんどい」と、大変正直に言ってくれた。それでも来てくれるんだから、やっぱりいい子だし、その正直さがとても信頼できる。



「まあ、私も子供服の事はよくわかんないよ」


 そう前置きしてマイカちゃんは、私が昨日撮った写真を見てくれた。


 参考までに、と、テスト撮影の写真を貰っておいたのだ。


 コーヒーが運ばれてきた。マイカちゃんはパラパラと写真を見て、ちょっと首を傾げた。


「え、好っち、ポージングとか超上手だよ」


「本当?一応勉強はしていったんだ」


「うん、上手上手ー。このスカートとか、レースがキレイに見える。上手いと思うけどねー」


 マイカちゃんが褒めてくれたので、私は凹んでいた気持ちが少しだけ戻った。


 しかし、マイカちゃんはちょっと意地悪そうな顔をして続けた。


「でもさ、今のモデルって皆勉強家でさ、ノウハウもある程度あるし。だから、これくらいのポージングは、ちょっと器用な子なら、新人モデルでも余裕でできちゃうんだよね」


「よ、余裕……」


 戻りかけた気持ちがまた凹みかける。


「つまり、ポージングを勉強しただけじゃだめだ、と」


「多分ね」


「マイカちゃんは、何が足りないと思う?」


 私が縋るように聞くと、マイカちゃんは、あっけらかんと「わかんなーい」と答えた。


「単にそのカメラマンが、好っちの事タイプじゃなかった可能性もあるし?ロリコンとか」


 ケロリと蜂屋さんをディスるマイカちゃん。


「ロリコンは、無いと思いたいけど」


「まあ、何が足りないかとかは無責任に、これだ!って、言えないかなー」


 あっけらかんとした言い方だけど、ちゃんと考えてくれているのはわかる。


「はぁー。じゃあ自分で試行錯誤しなきゃかあ……」


 私は喫茶店の机にうつ伏せた。



 マイカちゃんはコーヒーを一気に飲み干すと、いそいそとカバンを取り出した。


「そんな事よりさ、私のプロデュースの雑貨、新作出たから見て見てー」


 人の悩みを『そんな事より』で片付けるマイカちゃんは、相変わらず自由そうで羨ましい。


 まあ確かにウジウジしてても仕方ないし、せっかく来てくれたんだから、私はマイカちゃんの取り出した雑貨を見る。



 ブサカワなキャラの描かれたマスキングテープやら、使いづらそうな巨大な飾りのついたペンが次々出てくる。


「今回は文房具縛りー。見て見て。超使いづらそうでしょ」


 マイカちゃんは自分の物なのに、ちょっと不服そうだ。


「私はさ、ペンはせめてペンケース入るサイズにしたかったんだけどさ、オッサン共が、若い女子は使いやすさより映える方が好きなんだからこれでいいとか言い張るわけ。ムカつかない?いやいや、バカの一つ覚えみたいに映えなきゃ映えなきゃって。そういうの考えるのはこっちの仕事じゃん。お前らは機能性とか価格とかそういうの考えろよって。いくら映え重視でも、これじゃあ使ってもらえないでしょ」


 辛辣に愚痴るマイカちゃんは、意外に真面目に考えているみたいた。


「って言いたかったんだけど、私、媚売って仕事取ってるタイプのモデルだしさ。これ以上は長いものに巻かれなきゃなんだよねー」


「なんか、大変だね」


 私はうまく言えず、安易な感想になってしまった。



「そんなわけで、このままじゃ、売れなそうだし?また花実さんにSNSでチラ見せしてもらえないかなーって思ってて。好っち、お願いしてよ」


「えっ!」


 図々しいお願いに、私は驚いて素っ頓狂な声が出た。


「いやぁ、どうかなぁ……雪名さんあんまり宣伝とか好きじゃないし、庭の肥やしにされかねないというか」


「なにそれ、庭の肥やし?ウケるー」


 マイカちゃんは冗談だと思って笑っている。


「……ていうか、今ちょっと雪名さんを怒らせちゃって……」


 私はボソリと言う。



 昨日、明らかに私の失言で雪名さんを怒らせた。



 あの後、メッセージを入れたけど返事はない。



「えー、花実さんいい人そうだし、怒るとか考えられなーい」


 でも実際怒っている。


「てか、好っち仲良しさんなんだから、謝れば許してもらえるでしょ?友情ってそういうもんじゃん」


 そもそも仲良しだったんだろうか。


 仲良しかもしれないけど、多分世間一般の仲良しとは違うかもしれない。



「ごめんね、雪名さんにお願いはでき……」


 私は暗い顔でそうマイカちゃんに断ろうとした。しかしマイカちゃんは、そんな私の空気を読もうとはしなかった。


「イケるイケる、仲直りして宣伝頼んでよね。じゃ、うちこれから仕事だからー」


 そう言って、その巨大ペンを握らせて、「じゃっ!」とさっさと行ってしまった。



「え、ええ……」



 私は自分の問題が一切解決しないまま、巨大な使いづらそうなペンと一緒に取り残されてしまった。



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