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冷血女王様は踏まれたい  作者: りりぃこ
第六章 モデル編
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61 仲良し


「好葉ちゃん、今日はこのまま帰るの?」


 美里ちゃんがスタジオを出ながらたずねてくる。


「うん、今日はあと仕事も無いし、帰ります。マネージャーにも今日の残念な結果を報告しながらね……」


 私はズンと凹んだまま答えた。


 そんな私の背中を、美里ちゃんはバンバンと叩いてくる。


「残念な結果じゃないよ!まだチャンスあるでしょ?ほら一緒にマックでも食べて帰ろうよ」


「美里、牧村さんは今キテるアイドルなの。マックなんか行きません!」


「そんな事無いけど……結構行きますよ」


 私が言うと、美里ちゃんは、ほらねーと声を上げた。


「でも、好葉ちゃんのファンとかにバレちゃうかな?じゃあテイクアウトしよう。お姉ちゃん、好葉ちゃん送っていって、マックテイクアウトしてよ。車で食べる」


「あんた、マック食べたいだけでしょ」


 紗弓さんは苦笑いする。


「じゃあ、牧村さん、うちの美里のワガママに付き合ってもらえませんか。帰り送りますので」


「そ、そんな。むしろいいんですか?」


 私は恐縮しながらも、有り難くお誘いに応じることにした。



 まだチャンスはあるとはいえ、ボロクソに言われたのがあとをひいて、このまま一人で電車で帰るより、誰かと一緒にいたかったのだ。




 赤坂さんに、今日の結果を報告する電話を入れたあとで、素直に紗弓さんの車にお邪魔する。



「マネージャーさんに連絡終わりました?」


「はい、まだチャンスあるんだから凹んでられないよ、と叱咤激励されました」


 私はそう笑いながら、紗弓さんの大きなワンボックスカーに乗り込んだ。広い後部座にはすでに美里ちゃんが座っていた。


「ありがとうございます、じゃあお邪魔します」


「ハイハイどうぞー。ほら、お姉ちゃんに是非花実雪名さんの事教えてあげてよ。プライベートどんな感じ、とか?」


 美里ちゃんはニヤニヤと私に言う。



 ははん、さてはこれが目的か。



 美里ちゃんなりに、お姉ちゃんの為に私を引き止めたのだろう。


 紗弓さんは、美里ちゃんの言葉に、顔を赤くした。


「やめてよ。そんな、雪名様のプライベートなんて……そんな」


『様』がついている。さすが雪名さん。



 紗弓さんは車を出発させながら、キッパリと言った。


「牧村さん、気にしないでください。私はそんなプライベート暴きたいとかそんな目的ありませんから」


 紗弓さんは顔を固くしている。せっかく少し雰囲気が穏やかになったと思ったのに、また緊張してしまったらしい。


「そんな、暴く人なんて思ってませんよ」


 私は急いで紗弓さんに言った。



 それよりも、ちょっと気になることがある。



「あの、私と雪名さんが仲が良いって噂、どこから出たんでしょうか……私初耳なんですけども」


 確かに、何度もマンションにお邪魔させてもらったり、ご飯食べに行ったりしてるけど、一緒のところをSNSに上げたりしたこと無いし、配信やバラエティで言ったことも無い。雪名さんが言うはずもないし。


 私の疑問に、紗弓さんは何でもないことのように答えてくれた。


「前に、雪名様のドラマの共演者……今川龍生だったかな?彼がトーク番組で言ってたんですよ。雪名様は、事務所の後輩アイドルの牧村好葉って子をとっても可愛がってるって。いつもはとっても明るくて和やかで優しいのに、その子をからかったら凄い怖い顔で手を握り潰されそうになったとか」


「は?」


 何そのエピソード。よくわからない謎エピソードに一瞬混乱したが、ふと思い出した。



 以前私が雪名さんと一緒に参加した飲み会。今川龍生が、私の足を触ったと知った時。そう言えば雪名さんは今川龍生に手を絡ませていた。私はてっきり当てつけで絡ませてたんだと思ったけど、あれもしかして、手を握り潰そうとしてたの?え?潰……?



「あと、そのアイドルの子のことになると、ドS演技駆使して攻めてくるとか」


「ド、ドS演技……」


 あの今川龍生に謝らせた時のエピソードだろうか。あれは演技、では……。



 私があ然としているうちに、紗弓さんは早口で続けた。


「だからそれを聞いて、どんな子を雪名様は囲っていらっしゃるのかって、我々ファンは皆調べてね。

 元々、映画の役作りで牧村さんたちのグループに出入りしてたのは有名だったから、それ関係だとは思ってたけど。

 よく見たら、雪名様のSNSと、牧村さんのSNSに、同じトリートメントオイルがあったり、雪名様のご趣味でなさそうなキャラクターハンカチが写ってたと思えば、それが牧村さんが友人からもらったものだったって発覚したりして……。

 あ、本当なんだって思って。雪名様の熱心なファンの間では、牧村さん有名なんですよ」


「知らなかった……」


 私はぽかんとした。まさかそんな事になってたなんて。


「で、本当に仲良しなんですか?」


 紗弓さんは真面目な顔で、おそるおそる、といったふうに聞いてくる。


「うん、まあ……」


 仲が良い、と言いそうになって、私は一瞬息をのんだ。


 仲が良い。確かに、私は雪名さんの素を知っているし、雪名さんがリラックスして食事するのも私か白井さんくらいだという自覚はある。


 雪名さんが、私に色々してくれているので、好かれている自覚もある。八割が足を好いているのだろうけど。


 私も雪名さんの事は人としてとても好きだ。たまに辛辣だけど。


 でも、私みたいな未熟なアイドルが、雪名さんと仲良しなんて、雪名さんの格を落とす事にならないだろうか。可愛くないってボロクソに言われてこのままじゃ不合格と言われた私が。



「……仲良しっていうか。私は雪名さんを芸能界の先輩として尊敬してるし、雪名さんもよく指導してくれてるんです」


 私は仲良し、と言い切ることができず、当たり障りの無い返事をすることしか出来なかった。


 私の言葉を聞いた紗弓さんは、また更に何かを聞こうと口を開いた。



 その時、私のスマホが鳴る。


「お気になさらずに、出てもらっても大丈夫ですよ」


 紗弓さんが言うので、お言葉に甘えてスマホを見ると、噂をしたらで雪名さんからだ。


「お疲れ様です」


「お疲れ様。ベイビーベイビーのテスト終わった?」


「終わりました……」


 よいご報告ができないので、無意識に暗い声になる。


 私の声の様子に、雪名さんはため息をついた。


「その様子じゃ駄目だったようね。まあベイビーベイビーは素晴らしいブランドだから、なかなか難しいでしょうね。次頑張りなさい。今日ご飯でも奢るわ」


「ありがとうございます。でもまだ再チャレンジあるんです」


「そんな暗い声出してるんじゃないわよ!てっきり駄目だったかと思って無駄に励ましちゃったじゃないの!奢りは無しよ。今日は割り勘ね割り勘」


 雪名さんは一人でプンプンしているようだ。


 ていうか、知らないうちに食事の予定は決められちゃっている。


 せっかく美里ちゃんからマックのお誘いがあってこうして送ってまでもらっているので、申し訳無いけど後日にしてもらおう。


「すみません、今日一緒に撮影した子とこれからマックに行く約束をしているので、申し訳ありませんが後日にしてもらえませんか?」


 恐れ多くも断らせて頂いた私に、雪名さんは「そう」とあっさりと承諾してくれた。


「仕事帰りにマック?子供みたいね……子供……子供……?えっ、一緒に撮影した子と……?えっ?好葉、今日誰と一緒に撮影したの?」


「森野美里ちゃんっていうキッズモデルの子です。ベイビーベイビー専属の」


「も、森野美里ちゃん!?」


 雪名さんから聞いたこともない声が発せられた。


「ど、どうしたんですか!?そんな声出して」


「……好葉、マックは中止して」


「へ?」


「森野美里ちゃんに、好きな料理聞いて頂戴。いいお店予約するから」


「えっと……?」


「小学生だからあんまり遅く帰らせないようにするから、保護者の方にも連絡しておいて」


「あ、あの話が飲み込めないんですが」


「お願い、私、森野美里ちゃんに一度会ってみたいの」


 雪名さんから、必死なおねだりの声がする。踏んでほしいとおねだりするときとはうってかわって、ずいぶんと可愛らしい声だ。



 雪名さん、こんな声も出せるんだ……。初めて聞いた。いや、違う。一度どこかで聞いたことあるな。『……して……欲しい』って。いつ、どこで言われたんだっけ。思い出せない。まあいいや。



 ちょっと聞いてみます、と私は言って、美里ちゃんと紗弓さんに声をかけた。


「あの、雪名さんが、美里ちゃんのファンみたいで、一緒に食事したいと言ってるんですが……」


「え?」


「えええっ!?」


 美里ちゃんのびっくりする声と、紗弓さんの失神しそうなほどの悲鳴のような声が車内に響いた。



 紗弓さんは後日、あの時動揺のあまり事故を起こさなかった自分を褒めたい、と言っていた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 雪名さん、まさか小学生の女の子に興味が!?どどど、どうなっちゃうんでしょうか!? 続きが気になり過ぎる展開でワクワクドキドキです!!
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