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冷血女王様は踏まれたい  作者: りりぃこ
第六章 モデル編
62/77

60 可愛くない


 好葉はカメラの前に立った。隣には美里ちゃんがいて、「がんばろ」と口パクしてくれている。



「じゃ、適当に可愛くね」



 蜂屋さんが適当な指示を出す。


 私は頷きながら、動いてみる。


 えっと、ここ数日ちゃんと勉強したのだ。事務所に所属するモデルさんに話を聞いたり、見学させてもらったりした。


 確か、自分じゃなくて、服が主役だから、服を可愛く見せるように動くんだよね。



 私は、服の可愛いポイントを見せるように、何度かくるくる動いてみる。



「森野、森野も一緒に動いてみろ」


 蜂屋さんの指示で、美里ちゃんもわたしの真似をしてくるくる回る。



 しばらくパシャパシャと音が鳴っていたが……。



「あー、可愛くねえなぁ」



 ボソリと蜂屋さんが大声でつぶやいたので、私はギクリとした。


 か、可愛くない?


「うん、駄目だな」


「だ、駄目とは!?」


 私は思わず蜂屋さんに問いかけた。私の顔を見て、蜂屋さんは意地悪そうな顔を向けた。


「全然可愛くない。本当にアイドル?顔が可愛いだけじゃ、可愛くないでしょ。うーん、なかなか酷いね。これじゃそのへんの子供のほうが全然マシ。こんなレベルでよく売り込みに来れたね!あ、牧村さんと同じグループなら、あの加美爽香って娘の方が、笑顔も良くていいんじゃ……」



「蜂屋、ストップ!」


 部屋の隅で黙っていた蓮池社長が、苦笑いしながら蜂屋さんの言葉を止めた。



「言い過ぎ。見てよ、牧村さんペチャンコに凹んでるじゃない。そうやってわざと潰すの、時代に合ってないよー」


「すみません」


 蜂屋さんは素直に頷いた。


 私は、蓮池社長の言う通り、ペッコリと凹んでいた。


 蓮池社長は私に笑いかけた。


「ごめんね、蜂屋はあとでこってり絞っておくから。でもね、僕もあんまり今のは可愛くないと思ったよ」


「そう、ですか」


 テストは不合格なのだろうか。


「そのままだと不合格だね。でも、僕はチャンスはもう一回だけあげるタイプだから。来週のカタログ撮影の本番までに、一番いい写真を僕に送っておいで。それで君をベイビーベイビーのモデルにするかどうか決めよっかなあ」


「は、はいっ」


 首の皮一枚繋がったようだ。



「あ、美里ちゃんは良かったよ。もし牧村さんが駄目だったら、今回もソロでいこうか」


「は、はい」


 蓮池社長の言葉に、美里ちゃんは申し訳なさそうに私の方をちらりと見た。



「それじゃ、今日のテストはおしまいね。じゃ、写真待ってるよー」


 そう言うと、蓮池社長は部屋の隅のパソコンを片付けると、サッサと行ってしまった。



「ま、社長甘いからな」


 蜂屋さんは蓮池社長を見送ると、自分もサッサと片付けの準備を始めた。




「私は、好葉さん可愛いと思うよ。全然素敵だったし上手だったよ」


 着替えながら、美里ちゃんが言ってくれる。


「ありがとう……でも私が未熟なので……」


「凹まないで。蜂屋さん、いつも意地悪なんだよ。ね、お姉ちゃん」


「そうですね」


 紗弓さんが、私を睨んだままそう言った。


 うう、やっぱり威嚇されてるよな……。私は二重のショックでペッコリと凹みながら着替える。


「もー、お姉ちゃん怖い顔して、もしかしてまだ緊張してるの?」


「緊張?」


 私は思わず聞き返す。


「そうだよ。お姉ちゃん、昨日から好葉さんに会うのは楽しみにしてたんだよ。で、すっごく緊張しちゃってるの」


「やめてよ、美里!」


 紗弓さんは真っ赤になった。


 緊張?あの睨みつけは緊張だったの?


 それに……


「え、……私に会うの楽しみにしてくれてたんですか……。嬉しい、もしかして、私のファンで……」


「お姉ちゃんね、花実雪名さんの大大ファンでね。雪名さんと仲が良いって噂の好葉さんに会うの、とっても楽しみにしてたの」


「美里やめて!その言い方だと、牧村さんに興味無いみたいで失礼でしょ!!」


 うん、……そうでしたか。


 私は、さっきの自分の驕りにちょっとだけ恥ずかしくなった。



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