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冷血女王様は踏まれたい  作者: りりぃこ
第五章 繁忙期編
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55 ロックナンバー



 ライブハウスに観客が入ってきた。


 いつも来てくれているファンもいたが、やはり初めてのファンも多そうだ。


 年齢や服装的に、明らかにオオタカさんのファンもいる。


「よし!やるよ!」


 私は二人に声をかける。赤坂さんは心配そうに私達に話しかける。


「ねえ、本当に大丈夫?好葉なんて、風邪の病み上がりだし、喉の酷使は辞めたほうが」


「酷使なんかしません」


 私はキッパリと言う。


 スタッフも全員集めて円陣を組む。オオタカさんも誘って、全員で大きな円陣を作る。


「いくぞー」


 オー!!という声を合図にそれぞれの持ち場につく。



 さあ、ツアーも中盤。


 慣れない地方でのライブハウス。負けなられない戦いが始まる。



 一曲目、二曲目。何となくいつもと盛り上がり方が違う。やはりファンがいつもと違うようだ。


 それでもついてきてくれるし、こちらも合わせて盛り上げていく。



 ゲストのオオタカさんの出番だ。


 ゲストとはいえ、明らかにファン層が違う。


「持ち時間、好きなようにやってもいい?」と言われていたが、どうするんだろうか。


 オオタカさんは登場してすぐに、何も言わずにエレキギターをかき鳴らした。


 このギターのイントロ、聞いたことがある。


 私達のデビューシングルだ。


 オオタカさんのファンは勿論、私達のファンも大盛り上がりだ。


 格好いいロック調に編曲された私達のアイドルソングをサビまで演奏仕切ると、大きな歓声が湧き上がる。


 その勢いのまま、オオタカさんは自分の曲を歌い出した。


 さすがベテラン、演奏テクニックは勿論言うまでもないが、観客を引き込む手法も凄い。


 全員を自分のファンのように盛り上げていく様は、さすがだ。


「相手にとって不足なし、だね」


 私と爽香は顔を見合わせて不敵に笑う。でも奈美穂なんかは不安そうな顔だ。


「失敗して下手くそに歌っちゃったらどうしよう……あんなベテランの次に……」


「できるできる。私達だって、ちゃんと練習はしてたんだし」


 そう言って、奈美穂を励ました。

 そうしているうちに、オオタカさんの曲が終わった。次は私達の出番だ。


 元々、オオタカさんの曲を歌うことにはなっていたので、それを歌う。彼が地元の商店街の為に作詞作曲した歌いやすいバラードだ。


 勝負はその後だ。


「オオタカカズハル、デビュー曲『LOCKS・Days』!」


 私は叫ぶ。


 オオタカさんのデビュー曲、練習してはみたものの、ゴリゴリのシャウトがあって、私達の声質に合わなくて無理そうだし、やめよう、となっていた曲だ。オオタカさん自身も、今は声が出なくてほとんど歌わないらしい。


 でも歌ってみせよう。私達は本番に強いんだ。


 オオタカさんのファンは、滅多にライブで歌われない歌に興奮しだした。


 メンタルが弱いだけで実力はある奈美穂からの歌い出しで、低いシャウトをしてみせると、私達のファンも盛り上がった。


 オオタカさんが少し驚いたような顔をしているのを後目に、私と爽香も歌い出す。


 私達のセトリに滅多に無いロックナンバーに、会場はいつもとは違う空気にもなったが、私達が信頼するファンはついてきてくれている。



 間奏に入ると、私はステージ横にいるオオタカさんに叫ぶように声をかける。


「オオタカさん!カモン!一緒に歌うよ!」


 一瞬、参ったな、という顔をしたがさすが一流、すぐさまステージに出てギターをかき鳴らした。


 歌は歌わない。やっぱり声が出ないのは歌わない主義なのだろう。失礼だったかな。あとで怒られたらどうしよう。ま、いっか。


 ゲストタイムはとてもいい手応えで終えた。



 オオタカさんは、ステージ裏に帰ると、私達に向かって笑いかけた。


「やるね。いや、やられたよ」


〜〜〜

 喉の酷使はするな、と赤坂さんに注意されていたが、やっぱりあのロックナンバーはかなり疲れた。あれは何度もやったら多分喉に良くない。


 ステージは成功だった。


 アンコールも2回やったし、最後までやりきった。



「お疲れ様でしたー」


 私達はスタッフに叫ぶ。スタッフから拍手がきて、気分を高揚させたまま一旦楽屋に戻る。


 疲れた。本当に疲れた。


 汗を拭きながら水分補給をしていると、楽屋のドアがノックされた。


「みんなーお疲れ様ー」


「オオタカさん!」


 私達は立って挨拶する。


「いいよ、疲れたでしょ。座って座って」


 そう言いながら、自分も椅子を持ってきて座る。


「いやぁ、若いっていいね。僕もよくイベントで若い歌手の子と一緒に出ること多いけどさ。若い子には敵わないって思う事多いよ」


 始まる前とはうってかわった態度のオオタカさんに、私達は戸惑ってしまった。


「いえ、オオタカさんのステージも、とても勉強になりました」


「はは、そう言ってもらえると嬉しいね。僕も昔は先輩からいっぱい勉強させてもらったよ」


 オオタカさんは水を飲みながら笑った。


「本当に君達の事は全然知らなくて、突貫工事で曲聞いて今日演奏させてもらったんだ。正直、まあネットニュース賑わせてる話題作りだけしてるタイプのアイドルかと思ってナメてたんだ。ごめんね」


「いえ……」


 正直ちょっとショックだった。ナメられてるかな、とはちょっと思ってたけど。


「でも、すごいね。君」


 オオタカさんは奈美穂を指さした。


「歌上手いね。いいシャウトだ。そして君」


 次に爽香を指さす。


「いい表情してた。客を煽るのがとても上手い。そして君」


 最後に私を指さした。


「君、僕にバチバチの敵対心があったでしょ?」


「え、いやぁ……その」


 バレてた。ヤバ。


「僕があの歌、最近歌ってないの知ってたんでしょ?それでステージに上げようとするなんて、失礼だし根性が悪いね。でも最高にいい。敵対心の無い芸能人なんて面白くない」


「あ、えっと」


 えっと、怒られてる?褒められてる?私は疲れていたので混乱した。


「君達がもっとこれから売れても、是非またゲスト呼んでほしいね。またここにツアーきてよ」


「はいっ!勿論です」


 私達は立ち上がって大きな声で返事をする。


 オオタカさんはそのまま黙って笑顔で楽屋を去っていった。



「くそー、結局いい人かよー、最後まで老害でいてくれよぉ」


 爽香は褒められて嬉しいのが隠しきれなくて、口角を上げたまま文句を言う。私はぼんやりしたまま二人に確認してみる。


「ねえ、私って褒められた?」


「好葉はねえ、根性が悪いって褒められてたよ」


「そっかぁ、えへへー」


 疲れてよくわからないけど、褒められてたならいっか。



 着替えと片付けを終えて、今日泊まるホテルに向かうためにバスに向かった。


 バスに乗り込む前にスマホを確認してみると、なんと雪名さんから着信が残っていた。


 体調は良くなったのだろうか。もう時間が遅いけど返していいだろうか。一瞬悩んだけど、疲れとライブ終わりの興奮で判断力が鈍っていたので、勢いよく私は雪名さんに電話をかけた。


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