47 厄日
だめだ。ファンと二人きりで食事なんて。絶対に問題になる。でもあの写真もなんか駄目だ。ネットに上げれたら面白おかしく言う人もいるし、幻滅するファンもいるだろう。
今が大事な時だ。なのにこのままじゃヤバい。爽香や奈美穂にも迷惑がかかる。
私はこれからどうするべきか必死で頭を働かせた。
「そんな怖い顔しないで」
シュウヘイさんは優しい顔をしてみせるが、とても怖い。
「とりあえずここ出ようか。本も見ないでいると怪しまれるしね」
仕方なく私はシュウヘイさんについて外に出る。
「あの、本当に約束があって。ドタキャンしたら心配されて大事になっちゃうかもしれないので、メッセージだけ一つ入れさせてもらっていいですか?」
私は、必死になって言った。するとシュウヘイさんは、少し考えて頷いた。
「そうだね。心配かけちゃダメだもんね。いいよ」
私はホッとしてスマホを取りだした。
すぐに赤坂さんにヘルプのメッセージを送ろうとしたときだった。
「あ、変なメッセージ送らないか、一応見せてよ」
「えっ」
私は慌てて赤坂さんへのメッセージを取り消す。
「そんな、変なのなんて送らないですよ」
「じゃあ見せられるよね」
そう言われて仕方なく、私はシュウヘイさんに見せながらメッセージアプリを開く。
そして、雪名さんへメッセージを送った。
『すみません、たった今友達とばったり会って、今から飲みに行くことになりました。すみませんが、今日持ってきてもらうのはキャンセルでお願いします。後日持ってきて下さい』
「約束のキャンセルのメッセージです」
私はシュウヘイさんに見せながら送信する。シュウヘイさんは満足げに頷いた。
「じゃあ、行こうか」
「どこへ行くんですか?」
私はなるべくどうにかする時間を稼ぎたくて、立ち止まったままたずねる。
「シュウヘイさん、この辺に住んでるんですか?この辺いいお店いっぱいありますよね。詳しいんですか?」
「そうだね。知ってるよ。どこ行こうかな。好葉ちゃん最近ちょっと出てきてるから個室は必須だよね?あ、そうだ。俺の部屋は?」
「はっ!?」
私は思わず変な声が出た。ヤバいヤバい。部屋とか絶対にヤバい。どうにかしなきゃ。
「部屋、は、ちょっと……あの、さすがにダメかな。事務所NGが出てるので……」
「そう?こっそり行けばバレないでしょ?だって、こーんな写真みたいなこともしてるんだしね」
シュウヘイさんはニコニコとスマホを振って見せる。
だから、そんないかがわしいことしてないのに……。今になって、雪名さんから注意された「不用心に触らせるんじゃありません」という言葉の深みが身にしみる。
「さて、タクシー捕まえるからちょっと逃げないで待ってね」
シュウヘイさんが私の腕を強く掴んだ。
その時だった。シュウヘイさんに、ドシン、と黒い服の男性二人組がぶつかった。
「おい、テメエ!!痛えなぁ!!」
黒い服の男性は、シュウヘイさんに圧をかけながら怒鳴ってくる。
「いや、そっちがぶつかってきたんじゃ……」
「ああ??俺達が悪いって言うのか?おいおい、女連れだからって調子乗ってんのか?」
黒い服の二人組は、どうやらヤクザ屋さんだったらしい。
ああ、もう、泣きっ面に蜂……。めちゃくちゃだ……何今日厄日なの?私は力が抜けてしまうのを感じた。
シュウヘイさんはオドオドしながらヤクザ屋さんたちと話をしている。
「ほら、お嬢ちゃんはこっちに来な。俺はこの兄ちゃんと話があるからよ」
ヤクザ屋さんのうち、短髪の一人が、私をシュウヘイさんから引き離した。
そして、もう一人のオールバックのヤクザの方へ引き渡される。ガクガクと震えていると、オールバックは私に顔を近づけた。
そして、思いがけない事を囁いた。
「今のうちに、事務所の誰かに連絡を」
「え」
「早く」
オールバックはそう急かすように言う。
私は震えながらも必死でスマホを出して赤坂さんに連絡した。
オールバックは心無しか、私を隠すように立ってくれているような気がする。
それに、どこかで見たことがあるような気が……。
その時だった。
私の近くに見覚えのある車が停まった。
「牧村ちゃん!!」
「し、白井さん?」
白井さん?何で?
「雪名から、牧村ちゃんから変なメッセージが届いたから様子見てきてって連絡が。私、さっきまでこのすぐ近くのスタジオにいたから」
そう言って、白井さんは周りを見渡す。
「何があったの?ヤクザに絡まれてる?」
「ヤクザよりも……あの背の高い男の人のスマホの写真が……」
「よく分からないけど、わかった」
白井さんはそう頼もしく言うと、ヤクザとトラブっているシュウヘイさんの方へ突撃していった。
「ねえ、ちょっとそこのあなた、スマホ見せてもらえる!?」
シュウヘイさんはすごい勢いの白井さんを見て、慌ててヤクザを振り切って走って逃げていく。
それをまたすごい勢いで白井さんが追っていった。白井さんのポテンシャルがヤバい。
「くそ、逃げられたか。お嬢ちゃん、もう行っていいぞ」
オールバックはそう言い捨てると、私の顔を見ずに短髪ヤクザと一緒に立ち去ろうとした。
後ろ姿を見た瞬間、ハッと私は彼に気づいた。
やっぱり私は彼を知っている。いつも心の支えになっている……。
「トモさん……ですよね?」
私の言葉に、オールバックは一瞬だけこちらを向いて、しっ、と人差し指を口に当てた。
「気づかないほうが、お互いの為です」
そう言って、オールバック、多分トモさんは立ち去って行った。
確かに、これは気付かない方がいいのかもしれない。とりあえず助かった。それだけで、それ以外の事は忘れることにしよう。私は心にそう決めた。




