表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冷血女王様は踏まれたい  作者: りりぃこ
第四章 好きな人編
46/77

44 反省会



「さて反省会といこうかしらね」


 雪名さんのマンションに着くなり、怖い顔で私に言い放った。


「えーっと……怒ってらっしゃいますよ、ね?」


「あら偉いじゃない。わかってるみたいね。何が悪かったかもわかってる?」


 雪名さんはフン、と鼻を鳴らす。



「えっ、あの、その、雪名さんのものである足を、勝手に触らせたから、ですよね」


「あとは?」


「あ、あと?」


 その他にあるのだろうか。私は首を傾げる。


 雪名さんは、ハァと大きく呆れたようにため息をつくと、私のほっぺを軽くムニュリとつねった。


「アイドルが、不用心に男の人に身体を触らせるんじゃありません。どこで誰に見られてるかわからないのよ」


「あ、あ、そういう事……」


「まあ私が口出すことじゃないかもしれないけど。赤坂さんに叱ってもらって頂戴」


「ああ、ごめんなさい」


 意外にも私の為の事だったので、申し訳なくなってしまった。でも……。


「で、でも、雪名さんも、いくら怒ったからって、今川龍生に手を絡ませて、それを私に見せつけるなんて……そんなイジワルをしなくても」


「イジワル?」


 雪名さんは冷たい目で見てくるので、私はビクッと身体を縮こませた。


「イジワルなんかしていないけど。あれは……」


 雪名さんは、ふと言葉を止めて、少し考えるように黙り込んだ。


「……まあいいわ。これで反省会終了」


 何も良くない。あれは、何だったんだ。でも、これ以上追求する気力は無かったので、私は口を尖らせたまま黙るしかなかった。


「さて、反省会も終わったし、今日のメインにしましょう」


 急に反省会をぶつ切りさせた雪名さんは、いそいそと棚から真紅のピンヒールが入っている箱を取りだした。



 多分、怒ってはいたんだろうけど、それ以上に早く踏んでもらいたくてムズムズしていたのだろう。だからサッサと反省会を切り上げたに違いない。


「あ、すみません雪名さん、ちょっと踏むの待ってもらっていいですか」


 私がふと言うと、雪名さんは今日イチの怖い顔をしてきた。私は慌てる。


「違うんです。また焦らしプレイとかじゃなくて!あの、さっきの会場暑くて……汗かいたので、足だけでも少し洗わせてもらいたくて」


「………………まあ、そうね。そう言えば私も髪に匂いが付いてるわ」


 雪名さんは仕方なく、といったギリギリした顔になりながら、バスルームに向かった。


 そして、ふわふわのタオルを手に戻ってくると、私に渡してきた。


「湯船にお湯も入れてきたから先に入りなさい。足だけじゃなく全部洗っちゃいなさい」


「え、雪名さんからで大丈夫ですよ」


「先に入りなさい。私は靴の準備をしてからにしたいから」


 有無を言わせぬ口調に、私は大人しくタオルを受け取った。


「それでは、お言葉に甘えて……」


 いそいそとピンヒールを箱から取り出し始めた雪名さんを背に、私は急いでバスルームへ向かった。




 雪名さんをお待たせするわけにはいかないので、私は急いで全身を洗う。足は丁寧に洗う。


 英語のパッケージのボディソープは、ほんのり雪名さんの匂いがした。


 キレイにした身体を、真っ白なバスミルクが溶かされている湯船に沈めると、お酒も入っているせいか、何だか眠くなってしまう。


 寝ちゃう前に上がらなきゃ、と立ち上がろうとした時だった。



 ガチャ、と音がして、真っ裸の雪名さんがバスルームに入ってきたのだ!


「せ、雪名さん!!何で!?」


「もう靴の準備出来たから」


「そういう事、聞いてるんじゃないです!」


「一緒に入れば時間短縮じゃない」


 その言葉を聞いて、私は慌てて立ち上がる。


「すみません、もしかして私遅かったですか?すぐに上がります」


「ゆっくりしてなさい」


 雪名さんはそう言って、平然とシャワーを捻った。


 スタイルのいい白い身体に、お湯がが勢いよく流れていく。


 私は上がるに上がれなくなって、再度湯船に身体を沈めた。


 雪名さんは髪を洗い、何やらいい匂いのするオイルを頭に塗りながら、私をジッと見つめてきた。


「さっきチラッと見たけど、好葉、案外筋肉ついたシッカリした身体してるのね」


「セクハラです」


 私は赤くなって、顎まで湯船に身体を沈める。


「あら、今川さんは触ったのにセクハラじゃないのに、私のは見ただけでセクハラなの?」


「あの人はちゃんと許可取ってましたし」


 私は湯船でブクブクと言った。話の流れとはいえ、今川龍生の肩を持ってしまったのがちょっと悔しい。


 雪名さんはちょっとだけ笑った。


「今川さん、気遣いの鬼だから」


「気遣いの鬼?」


 私が首を傾げると、雪名さんは笑った。


「そう、ああいう場とか、現場でも、演技でも、相当気を遣う人なのよ。だから、実力派俳優やっていけてるの。あの人天才型じゃないから。監督とか、観客とかが何を求めているかをシッカリ見極めて演技する人なの。昔はそうじゃなかったみたいで酷かったみたいだけどね。昔の今川龍生の出てるドラマ見てご覧なさい。クソよ」


 雪名さんはいつものようにひどい口調で言い放った。でも表情は楽しそうだ。


「昔、留美さんにこっぴどくやられたらしくてね」


「ああ、溝端留美さんも、凄く気遣いしてくださる人でしたね」


「そうでしょ。留美さんのことも私好きよ。努力の人で、尊敬している。だから、今川龍生も尊敬しているの」


 そう言い切ると、雪名さんは私に向かって軽く微笑んだ。


「納得した?別に私あの人の事恋愛対象じゃないって」


「……一応」


 私は再度ブクブクする。


 確かに、今日の飲み会での雪名さんを見れば、相当周りに気を遣っているのがわかる。


「だいたいね、前に私が好葉を初デートに誘った時は、『イケメン俳優と一緒に行けばいい』って冷たく突き放したくせに」


 雪名さんは、私の顔に向かって軽くシャワーをかけてくる。私はぷるぷると顔を振った。


「だって、デートするだけなら別にいいじゃないですか。なんか、女王様とお付の人って感じでイメージつきやすいですし。でも雪名さんが誰かを『好き♡』ってなるのはイメージできないんですもん」


「やっぱり、好葉は私の事何だと思ってるの?」


 雪名さんは、呆れたような目を向けると、シャワーで髪のオイルを流していく。


「ところで、いつまで入ってるの?私も早く入りたいんだけど」


 さっきはゆっくりしてろといったくせに、雪名さんは冷たい。仕方なく私は湯船から身体を出した。


 雪名さんは、私とは入れ替わりに湯船に入り、スタイルのいい身体を沈めた。


「やっぱり好葉、いい身体してるわよ。グラビアとか依頼来ても大丈夫そうね」


 湯船から上がる私を見て、雪名さんは再度セクハラしてきた。


「グラビアかぁ」


 私には想像もつかない。


「グラビアするなら、足は隠した方がいいわ。靴下とか、ブーツ履いて」


 雪名さんのグラビアプロデュース案に、私は思わず吹き出した。


「そんなの、水着着てブーツとか、かえってエッチじゃないですか?」


「そんな事無い。隠すべきよ」


 雪名さんは真面目な口調だった。


「雪名さんは、グラビアの依頼とかあったんですか?」


 ふとたずねると、雪名さんは遠い目をしながら答えた。


「昔、あったわ。『この私が水着になると思うの?』って、その当時のマネージャーに問いかけたら、それから二度とオファーは無くなったけど。不思議よね」


「なるほど、不思議ですね」


 私は、深く頷いて見せながら、優雅に湯船に浸かる雪名さんを背に、バスルームを出ていった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 身体を隠すでもなく、正真正銘、完全に裸の雪名さんが一緒のお風呂に!?鼻血がーーーー!! 雪名さんのマンションで一緒にお風呂……しかも2人ともお互いの裸をバッチリ見てるという事実!! そんな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ