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冷血女王様は踏まれたい  作者: りりぃこ
第三章 配信編
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番外編 加美爽香の収録日誌


 番外編 ☆加美爽香の収録日誌☆



 某月某日。


 今日の日誌は私、LIP−ステップの愛すべき末っ子、爽香がお送りします。



 今日は、花水木組がレギュラーを務めるバラエティ、『ハナミズキの種』の収録日。


 ゲームあり、トークあり、そして歌ありのバラエティ。ゴールデンじゃないし30分番組なんだけど、ネット配信の再生回数も多くて、若い子に人気の番組。


 私達も、ファンから『LIP−ステップもハナミズキの種みたいなバラエティやってほしい』ってよく言われてたから、今日の収録は気合が入っちゃうんだよね。


 私達がゲストのを2週連続でやってくれる、って言ってたのに、ギリギリになって、なんか早川結音と一緒のゲストって事にされたんだよね。なんか、目論見がわかりきってて嫌な感じがするけど。


 ま、でも前に一緒に配信ライブして、早川さんとは仲良くなったし、ちょっと安心感もあるから、いっか、みたいな。



 楽屋入りして、それからすぐに花水木組の8人に挨拶に行く。早川さんにも挨拶に行く。


 皆にこやかに挨拶を返してくれた。特に直居千奈ちゃんなんか、ほわほわしながら「前はありがとう。頑張ろうね」と笑いかけてくれた。すっごく可愛い。私もメロメロになっちゃう。



 収録が始まった。


 トークではチョロっとだけ、配信ライブの時の早川結音と花水木組の仲直り話をする。あまりバラエティで話をしないことにしているけど、このメンツで一切しないのは逆に不自然だ。


 その後、いくつかのゲームに興じて、そして一旦休憩に入る。



 楽しい。



 何これ超楽しい。そりゃ勿論、トークとかゲームとか必死にやった。でも何か、同性同世代が集まって収録するのって、超楽しい!!



 楽屋に戻って好葉や奈美穂と一緒におやつと水を摂取していると、廊下から物音が聞こえてきた。


 覗いてみたら、 端田(ハシダ)(ミヤビ)ちゃんが何やらブツブツつぶやいていた。花水木組で一番年下で、一番大人しい娘だ。


「何してるの?」


 私がたずねると、雅ちゃんはビクッとした。


「あの、今からやる、歌の収録。LIP−ステップさんの歌の歌詞、実はまだ覚えれてなくて……」


「そうなんだ。大丈夫?」


「はい、ちゃんと前日に覚えてこなかった私が悪いので」


 まあ、そう言われりゃそうなんだけどさ。花水木組も忙しいし、ちょっと覚えたりするの、サボりたくなる気持ちもわかるな。


「そんな難しい歌詞じゃないし、いけるいける。あ、今邪魔しない方いいよね?じゃあまた後でね」


 雅ちゃんはコクコクと何度も頷いていた。あんなに頭を振ったら、覚えた歌詞出ていっちゃいそう。



 休憩が終わって歌の収録に入る。花水木組の歌と早川結音のソロ曲と私達の歌を交互に歌うから、あの時の配信ライブを思い出す。


「ちょっとストップ!誰か!今のところ歌詞間違ってる」


 スタッフから声がかかって、歌が止まった。


「すみません、私です」


 雅ちゃんがすぐに手を挙げる。あちゃ、やっぱり突貫で頭に入らなかったか。


「歌詞確認して、もう一回」


 収録は再開されたが、また雅ちゃんが間違えて再度止まった。


「ごめんなさい、一回ちゃんと確認してきます」


 真っ赤になっている雅ちゃんが、歌詞カードを持って、スタジオを出て行った。


「ごめんなさい。あの子、たまに事前準備サボるの。あとでキツく言っておくから。今ゆっくり休憩してて」


 千奈ちゃんが申し訳無さそうに私達に言った。


「ううん、落ち着いて覚えて来てもらって」


「私達なら大丈夫ですから」


 好葉と奈美穂が優しく答えている。


 でも千奈ちゃん優しそうだしな。ああいう子にキツく言っているところを想像できない。


 ふと横を見ると、早川さんが怖い顔になっている。


 あ、早川さんこういうの嫌いそうだもんな。


「ちょっと雅の様子見てくる」


 早川さんは雅ちゃんの後を追ってスタジオを出て行った。


「わ、私も見てくる!」


 私もついていくことにした。ヤンキーっぽい早川さんが雅ちゃんをシメたら大変。



 廊下に行くと、案の定、雅ちゃんが早川さんに壁ドンされながらメンチを切られていた。


「テメエ、昔からそうだな。サボり癖変わんねえな。どうせゲスト大物じゃねえと思って高括ってたんだろ?」


「そ、そんな事……」


「どんな時も手ぇ抜くんじゃねえよ。千奈とか優しいからナメてんだろ?私が脱退してから酷くなったってスタッフから聞いたぞ」


「す、すみません」


 完全に雅ちゃんが縮んじゃってる。あれじゃ覚えなきゃだめなものも覚えられない。


「ねえ!」


 つい、私は二人の間に割り行ってしまった。


「早川さんの言ってることは正論で、間違いじゃないかもしれないけど!サボっちゃった雅ちゃんが良くないのかもしれないけど!今じゃなくない!?今、皆待たせてるの分かってるでしょ!?叱るのは後!!今は雅ちゃんの邪魔しないで、歌詞覚えさせるのに集中させて!ほら雅ちゃん、あっちで集中して覚えて来な」


 私は雅ちゃんを早川さんから遠ざけた。



 あ、やば。つい出しゃばっちゃった。


 私はおそるおそる早川さんの方を振り向いた。そこには鬼のような顔をした早川さんが……いなかった。



「あ、あのぉ早川さん?」


「あっ……もっ……と」


 早川さんの様子がおかしい。


 てっきり怖い顔になってると思ったら、全く違う。


 顔を赤らめて、目もなんだかトロンとしている。息もなんだか荒い。あと、『もっと』って聞こえた気がしたのは気のせいだろうか。


「ご、ごめん、なんかつい。どうしたの」


 私が早川さんに近寄った時だった。



「あら。雅じゃくて結音が叱られちゃってるの?」


 後ろから千奈ちゃんが現れた。顔は笑顔だけどなんだか声が冷たい気がする。やっぱり私が出しゃばっちゃったのは良くなかったんだろうか。


「ごめん、私なんかが偉そうに口出しちゃって」


「ううん、爽香ちゃんは悪くないよ」


 千奈ちゃんがそう言いながら、早川さんに近寄った。


「結音、爽香ちゃんも可愛い声だもんね?」


「千奈、その、違う」


「どうだった?爽香ちゃんに叱られて。ねえ、どうだった?」


「違うんだよ。その」


 あの早川さんが怯えている。


 何だ?これは。何が起こってるんだろう。


 私が混乱していると、後ろからぽん、と肩を叩かれた。好葉だ。


 好葉は私の頭をムギュッと抱きしめた。


「爽香、見なかった事にして、行くよ」


「え?」


「彼女達の事は彼女達に任せた方がいいよ」


 そう言って、好葉は私の頭を抱きしめたまま、スタジオに戻って行く。



「だ、大丈夫かな、本当に」


「大丈夫。関わらないほうがいい。私は爽香に、変態の泥沼三角関係に巻き込まれてほしくない」


「は?」


 私は好葉の言ってる意味がわからなくて首をかしげたけど、あとは好葉は何も言ってくれなかった。



 少しして、雅ちゃん、そして早川さんと千奈ちゃんが帰ってきて収録が再開された。



 今度は難なく進んで、なかなかいい絵が撮れたと思う。



 収録が終わって、雅ちゃんからも土下座せんばかかりの謝罪を受た。千奈ちゃんもやってきてニッコリと言ってくれた。


「今回はうちのメンバーが失礼してごめんね。楽しかったよ。また一緒に共演したいね」


「うん、共演できるように頑張る」


 私達はそう決意しながら答えた。



 帰り際、楽屋を出ると、早川さんが待っていた。


「爽香、さっきは、その」


「あ、ごめんね。外部のモンが偉そうに言っちゃって」


 私は慌てて謝る。しかし、早川さんは首を振って少し上目遣いで言った。


「今後も、なんかあったら遠慮なく叱って欲しい」


「へ?」


 私がポカンとしていると、早川さんはサッサと行ってしまった。



「結音……平気で二股かけるタイプだ」


 後ろから、死んだような目をした好葉が現れた。


「びっくりした。急に後ろに立たないでよ。てか何?二股って」


「爽香……」


 好葉になぜか、御愁傷様、といった顔をされた。


「ねえ、なに?何なの?好葉!知ってるなら教えてよ!」



 私の声がテレビ局の廊下に響く。


 結局よくわからないままだ。



 まあでも、収録は楽しかった、ってことで日誌は終わります。



 おしまい。



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