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冷血女王様は踏まれたい  作者: りりぃこ
第二章 映画編
19/77

19 負けん気

第26話 負けん気


 雪名さんが案内してくれたイタリアンは、とても高級そうな所だった。値段に怯える私に、これも必要経費だから気にするなと雪名さんは言い放ち、サクサクと勝手に注文していった。


 必要経費の意味を考える間もなく、目の前には可愛い前菜や綺麗なパスタが並んでいく。


「好きなお酒も頼んでいいわよ。大丈夫、ホテルだって取ってあるんだから」


 ナンパ男のようなセリフを言いながら微笑む雪名さんの意図を何となく感じとって、私も負けずに言い返す。


「いえいえ、絶対に記憶をなくさないように飲ませて頂きます。せっかくの雪名さんとのディナー、ご迷惑かけるわけにはいきませんので」


「あら、そう?まあ……もう少し好葉が油断した頃の方がいいわよね……」


 雪名さんのボソリと言ってる企みははっきりと聞こえている。絶対に雪名さんの前で油断して酔わないようにしなければ。



「ところで、映画の役作りの方はどうですか?」


 ふと私はたずねた。あれから雪名さんは本格的に撮影に入り、他の仕事も忙しくなったらしく私たちの現場にも来れなくなっていた。


 雪名さんは不敵に笑いながらパスタを勢いよく巻いていく。


「まあ、監督を何とか黙らせてやったわ。ちょっと思ったキラキラと違って泥臭いキラキラだけど、地下アイドル感が出てきて悪くないんじゃないかって言われたからね」


「泥臭いキラキラ感……」


 雪名さんは私達のライブから泥臭いキラキラ感を学んでしまったらしい。私達の何の辺が泥臭かったんだろうか。まあいいけど。


「まあ、私がアイドル役なんて、似合わないって世間も言ってるらしいからね。目にもの見せてやるつもりでやるわ」


「似合わないって、誰か言ってたんですか?」


 確かに、ネットなんかの口コミでは、雪名さんがアイドル役なんてミスマッチもいいところだと書かれているのを見た。でも、雪名さんってエゴサとかするタイプでもなさそうなのに。まさか本人に直接言った勇者でもいたのだろうか。


早川(ハヤカワ)結音(ユネ) っていう今回共演する元アイドルの娘が、教えてくれたのよ。『花実さんより私の方がこの映画の主演に向いてるって皆言ってるんですよぉ〜』ってね」


「わぁー凄い……」


 女王様に対して何で恐ろしい事を……。怖いもの知らず?いや。違う。


「早川結音なら、わざと言ってますよね。あの子、アイドル時代から、気が強いことで有名でしたから」


「でしょうね。演技力はクソだけど、あの負けん気の強さ、嫌いじゃないわ。演技力はクソだけど」


 クソって2回言った。


「まあそんな堂々とした喧嘩売られて、負けられないわよね。そうだ、LIP-ステップの名前を出した時、あの子はっきりと鼻で笑ったわよ」


「それ、別に聞きたくなかったです」


 私は呻いた。



 早川結音の所属していたグループ「 花水木(ハナミズキ)組」と私達のグループは結成がだいたい同じ時期で、昔はよく同じ現場に出てライバル扱いされていた。しかし花水木組が早くに売れてからは、ライバル視どころか意識すらされなくなっている。



「何言ってるのよ。あなた達だってチャンスがあったらあの小娘喰ってやるつもりで頑張りなさいよ。この私が名前を出してあげたんだからね」


「……そう、ですよね」


 多分私達に圧倒的に足りないのは、この雪名さんや早川結音のような負けん気なのかもしれない。


「頑張ります。私も」


 そう言って、眼の前のワインを思いっきりあおった。


「あら、いい飲みっぷりね。どんどん飲みなさいよ」


 突然雪名さんか期待に満ちた目をしたので、はっと我に返った。


 やばいやばい。飲みすぎないようにしないと。





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