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冷血女王様は踏まれたい  作者: りりぃこ
第二章 映画編
17/77

17 靴


 ※※※※



 あのライブの日から数日。


 あれから、危ないからと言うことで、ライブなど直接ファンの前に立つ仕事はしばらくはお休みというとこになってしまった。


 握手会は勿論のこと、ライブも出来ない。


 とりあえず動画配信などのオンラインイベントを増やす事で活動している。


「このタイミングでこれは悪手だと思うの」


 今日の配信動画を撮った後、ブスッとした顔で爽香が言う。


「せっかく世間からちょっと注目されるチャンスなのに、ライブしないなんて勿体ない!」


「そうですよね。せっかく雪名さんがくれたチャンスなのに」


 奈美穂も同意する。



 雪名さんがキラキラ女子のアイドル役をやる映画「スターライトブーケ」の情報が解禁された。その役作りで同じ事務所のLIP-ステップと一緒にレッスンを受けたと雪名さんが記者会見で言ったことによって、私達のホームページやSNSにアクセスが殺到したのだ。


 更にそれが、先日莉子ちゃんの爆弾発言ライブの時に、莉子ちゃんのファンに襲われかけたニュースも相まって、私達は今までにない注目をされている。



「ふふふ、事務所だって手を拱いてなんかいなよ」


 そう言って、赤坂さんが意味ありげに笑いながらやってきた。


「セキュリティの予算確保しました!そして決めてきました!!」


 そう言って赤坂さんの取出した企画書に、私達は目を丸くした。


「ツアー!?」


「ええそう、ライブツアー。そんなに数も多くないけど、やりたかったのよ」


 ライブツアー、その魅惑の言葉にドキドキする。


「で、でもお客さん来るかな?」


「一応、今注目されてるうちに、オンラインライブも何回かやるわ。無料のと有料のと。あと、少ない出演でも、テレビの仕事もねじ込んできた。今本気で知名度あげて、ツアー成功させるわよ」


 赤坂さんは気合が入っている。


 そうして見せてもらったスケジュールには、レッスンが増えた他、細々とテレビラジオ、配信など地味に色々入っている。


「凄い、ちゃんと忙しい……」


 なんだか感動してしまった。




 帰り道、スマホが鳴った。雪名さんからだ。


「お疲れ様。ところで今週の金曜日午後暇かしら」


 突然の予定確認。また踏んでもらいたいのだろうか。


「ええっと……ちょっとまってくださいね」


 私はさっき赤坂さんからもらったスケジュールを確認する。


「金曜日は夕方からしか空いてないのですが……」


「ふうん」


 雪名さんは一瞬何かを考えているかのように黙り込んだ。


「あ、えっと……踏む件でしたら……」


「踏む件じゃないけど」


 え?違うの?


「勿論、好葉が踏みたいっていうならいつでも歓迎するわ。好葉の欲望がちゃんと目覚めるならいくらでも協力してあげる」


「あ、しなくても大丈夫です」


 私は丁重にお断りする。あの日以来、私に踏みたい願望があると雪名さんは決めつけてしまっているようだ。


「靴。前に注文したオーダーメイド、完成したから取りに行くわよ」


「ああ、あの時の靴!」


 そうか、完成したのか。私も実はあの靴の完成を地味に楽しみにしていた。


「金曜日、夕方なら6時に迎えに行くわ。それじゃあ私はまだこれから仕事だから」


 雪名さんは要件を短く言うと、私の了承も取らずにすぐに電話を切ってしまった。


「忙しいんだな……」


 ぼそっと呟いて、そして私は自分の足を見つめた。



 あの時注文した、大人っぽいパンプス。


 あれが履ける、そう思ったらちょっとワクワクしてくる。



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