parasite
◇初挑戦の長めの小説。SF味が強いかなと思います。R18Gにするほどではないのですが、人によってはグロさを感じるかもしれません。グロ系が苦手な方はブラウザバック推奨。
◇pixivの方にも作品名、作者名ともに同名で投稿しております。
最近どうも頭痛がする。20数年生きてきたけど、特に頭の怪我はなかったし、片頭痛もなかったのに。
ここ最近の研究室に寝泊まりする生活が響いたのかもしれない。
とにかく、今日で一旦研究も一段落するし、早めに帰って寝ようかな。そう考えながら、資料をまとめている時だった。
『それ、私のせいかもね♪』
突然、誰かの声が聞こえた気がした。
「えっ、誰!?」
驚いて周りを見渡しても、誰もいない。2、30年前からここで数多の人を見守り、実験をサポートしてきた研究器具があるだけだ。
『まぁまぁ、そんなに慌てなくても、私はずっとここにいるよ~。頭のほうに意識を集中させて、考えてみて!』
困惑しながらも、言われた通りにしてみる。
『これで・・・いいのか?』
『うんうん、いい感じだよ。あなた、なかなか飲み込みが早いね』
『じゃあ、私に3つまで質問をしていいよ。三つまでだからね!ちなみにさっき、私に誰なのかを質問したから、残りは2つだよ。』
『誰なのかは教えてくれないんだね・・・』
少し納得がいかないが、向こうがそういうのだから仕方ないだろう。
(なんで質問は3つまでなんだ?)
そう思いつつも、この正体不明の声に対しての質問でこれを聞いてしまうのは勿体ない気がしたので、実際に聞くのはやめておいた。
『ざんね~ん、考えただけで私には伝わっちゃうんだよ~。これで2つ目だね!それで、なんで3つなのかって?それは・・・ほら、こういうのってだいたい質問の数制限してくるじゃん?』
理由適当すぎるだろ。
謎の声の主は、笑いを堪えきれない様子だった。いや、姿は見えないんだけど、俺にはそういう風に聞こえた。
『じゃあ、3つ目は?』
悩む。正直聞きたいことはたくさんあるし、既にくだらない質問で2回も回数を消費してしまったので、最後の一個は慎重に決めたい。
『えーっと・・・じゃあ最後はこれで』
『ん、なになに?』
『君の名前を、俺に教えてくれないか』
『えぇ・・・?ほんとにそれでいいの?』
謎の声は怪訝そうに聞いた。
『だって、俺の意識の中からそう簡単にいなくなるつもりはないんだろ?』
『そりゃまぁ・・・そうだけど・・・・・・
・・・・・・私の名前はリネ。まぁ、今度から名前呼んでくれたら出てきてあげる。』
「山吹、どうした。疲れたか?」
実験室の先輩のKさんが心配そうに尋ねてくる。リネと会話をするのに必死で、先輩にはボーっとしているように見えたのだろう。
「あ、はい。少し頭痛がするような気がして」
「そうか、まぁ今日でしばらくは急ぎの要件もないし、ゆっくり休んでくれよ」
Kさんはそう言いながら、薬品の検査を始めた。
「はい、ありがとうございます。お先に失礼します」
俺はそう言うと、研究室を後にした。
早く帰って寝たい気持ちはやまやまだったが、今日はあいにく病院の予約と食材の買い出しが残っている。
太陽が沈み始めた頃の待合室は、予想よりも多くの患者が自分の番を待っていた。
(この時間帯はこんなに混んでいるのか・・・)
俺がよく受診する病院ではあったが、普段は研究の合間の休憩時間を使って受診することが多いため、ここまで人が多いとは思っていなかった。
『ここはなんの病院なの?もしかして頭痛?』
『うわっ、急に話しかけてくるなよ。さっきまでおとなしかったじゃないか』
リネはもう一時間ほど現れていなかったため、すっかり存在を忘れかけていた。
『ひっどーい、もう私のことを忘れちゃったの?』
リネはわざとらしく落胆してみせる。
『来週の夕飯はなにを作ろうか、とか考えていたらすっかり記憶から抜け落ちそうになってた。それからここは耳鼻科といって、主に耳や鼻、喉なんかの不調を診てくれるんだ。今日はただ、花粉症の薬が切れたから貰いにきたんだ』
無意識に少し説明を挟んでしまったが、そもそもリネはどこまで知っているのだろうか。最初にどんな病院かを聞いてきたということは、病院は知っていそうだが・・・
『ふぅん。人間は特定の物質に対して免疫が異常に反応を起こす個体もいる、って聞いてたけど、あなた花粉症だったのね』
いつもとは違い、なにやら関心している・・・ように見える。やはり姿がわからないというのは不便だ。
(それにしても、(おそらく)人間ではなさそうなのに、そこまで理解しているのか。こいつは一体何者なんだ。)
―32番の山吹 徹様ー、3番の診察室にお入りください。
思ったよりも早かったな。そう思いながら、俺はさっきまでの考察を終了して診察室へ向かう。
「お会計こちらになります。お大事にー」
診察と薬の受け取りを済ませ、病院を後にする。
(あとは・・・スーパーか。)
研究室に泊まり込む前に、冷蔵庫にある賞味期限が近い食品を軒並み消費してしまったため、いつもよりも多めに買っておかないといけない。帰るまでが多忙期の大変な所だと言う先輩の複雑な表情を思い出し、思わず(わかります・・・)とつぶやいてしまう。
『あんた達ってつくづく大変そうよねぇ・・・そこまでして研究とやらをするのね』
その声色に嫌味っぽさは全くなく、本心からそう思っているような口ぶりだった。
(・・・少し、リネのことがわかってきたような気がする。)
『そんなにすぐに理解できないよ、私は』
『・・・そういえば、俺の頭の中はこいつにすべて筒抜けなんだった。』
『クスクス』
最初に出会ったときのあの、悪意に満ちたような笑い声が聞こえた気がした。
用事をすべて終えて帰宅すると、すっかり陽が落ちていた。すぐに冷蔵庫へ向かい、要冷蔵の食品たちを滑り込ませる。
『へー、あなた、結構いいとこ住んでんじゃん。意外かも~』
『俺もここは勿体ないと思うよ。でも、取り扱いに注意が必要な薬品なんかを扱える物件がここしかなかったんだ』
『あなたってやつは・・・あれだけ研究室とやらで実験して、家に帰ってもまだ実験するわけ?』
その口ぶりから、リネが呆れたように首を振る姿を想像する。
『それに、今日は早く休めって、別の人間にも言われてたじゃない。実験のことも考えちゃだめだよ。私だって、あなたが活動してるときは活動しなきゃいけないんだから、疲れるんだよ?』
『知らないうちに居候されてた存在の都合を考慮する道理はないんだけどな。まぁたしかに、元々帰って寝る予定だったけどさ』
『じゃっ、そういうことで~またねっ!ばいばーい』
「どういうことで?」と言い終わる前に、リネは気配を消していた。なかなか自由なやつだな。
仕方なく、寝間着に着替えて横になる。明日は確か休みだったな・・・
翌日目が覚めると、壁の時計は午前8時をまわっていた。いつもより2時間ほど遅いが、休みにしては早く起きられたと思う。
『ふわぁ~・・・もう起きるの?せっかくの休みなんだから、もうちょっとゆっくり寝てなさいよ』
リネも起きたようだ。いつもよりも声量が控えめに感じる。まだ眠いのだろうか。俺の睡眠時間とリンクしているのであれば、もう10時間以上は寝ているはずなのだが。
『休日だからって、昼過ぎまで寝ているのは感心できない。休日であっても、普段とできるだけ近い時間には起きて活動すべきだ』
慣れないうちはなかなか大変だが、継続することで必ず健康に繋がる、と俺は思っている。
『あなたも真面目だよねぇ~・・・忙しいときは研究室に泊まり込んでまで作業してるくせに、休みができてもいつも通り活動するなんてね。むしろ体は悲鳴を上げてるんじゃないの?』
まだ眠そうな声の中に、いつもの嫌味っぽさがあるのがこいつらしいな、まったく。
『あいにく怠け者の戯言を聞いてやれるほどこっちも暇じゃないんでね。飼い主が休みだったとしても、ここにいる生き物たちには関係がないんだ。そもそもこいつらはそれも理解していないと思うけどな』
『こいつらは基本的に本能に従って生きてるだけだもんね。じゃあ私は仮眠するから、起こさないでよね。ちゃんと寝てるときと違って、仮眠中は目が覚めやすくなってるから』
リネはそういうそばから気配が消えかかっている。ここにいる微生物たちほどではないが、こいつも結構単純だな。考えてることは全くと言っていいほどわからないが。
生き物たちの世話が終わると、さっきリネに言ったことに反して暇になった。今の脳内を読まれていたらまた馬鹿にされそうで焦ったが、幸いまだ寝ているようだった。こいつが俺をからかう隙を見逃すはずがない。俺は内心ホッとする。
「そういえば、この前買った本、読んでなかったな」
久しぶりに、静かな時間を過ごした気がした。
それからしばらくは、リネの意外な我儘に付き合わされてばかりだった。
海を見たことがないから行ってみたい、と言われて2時間も車を走らせて海を見たり(最終的には俺も結構楽しんでしまったが)、科学博物館で行われた特別展を見に行こう、と誘われたり(これはなかなか参考になったし面白かった)、ちょっと通りかかった国立天文台主催の天文学についての講演会にリネが夢中になって最後まで聞いてしまったり(天文学や宇宙の話は専門外なので、リネの疑問はほとんど俺から伝えて先生に教えてもらった)。
なんだか理系の科目に興味を持ち始めた中高生みたいだな、と苦笑いがでる。
未だにこいつの正体や考えてることはよくわからないけど、ここまで接してみて、リネには俺たちくらいの知能はあるんじゃないか、と思い始めてきた。
次はどんなことに興味を持つんだろう。
―「患者の概要は」。
「山吹徹、22歳。11時25分頃、研究室で意識を失っているところを発見されました。外傷はなし」
「となると病気だろうか・・・」
頭が猛烈に痛い。実験の準備をしていたのは覚えているが、どんな実験だったのか上手く思い出せない。そもそも何日だったんだろう。ぼんやりとした記憶しか出てこない。
『・・・リネ、いるか』
『どうしたの』
『・・・・・・俺はもうじき息絶えると思う。もういつだったか思い出せないが、君と出会ってからしばらく経って、なんだか少しづつ・・・愛着が湧いてきた・・・とでもいえばいいのかな。とにかく、君を気に入りつつあったんだ。もしここで俺がいなくなったら、君はどうなる?』
『・・・・・・詳しくは言えないけど、あなたがいなくなった後も活動する手立てはある。』
『そうか・・・よかった。これでとりあえず安心だよ。それから・・・この花、ダイヤモンドリリーって呼ばれてるんだっけか。とても綺麗だ。』
『・・・まったく、こんな時まで自分は最優先じゃないんだね。もっと自分に目を向けなさいよ』
――――
『おーい、そこのあなた~、そう、あなただよ。他に誰もいないでしょ?えっ?なんだか頭が痛い?』
『それ、私のせいかもね♪』
あとがきというか裏話です。
まずは最後まで読んでいただき、ありがとうございました。未熟な文章ですが、楽しんでいただけたなら幸いです。
さて、ここからは「parasite」の裏話となります。
リネの正体は寄生虫で、主人公の最初の頭痛から、衰弱の原因の一つである頭痛まで全部リネの仕業です。(直接の死因はリネに栄養を取られ続けたことによる栄養失調)
どうやら徹はそのことを考えたこともなく、最後までリネの行く先を案じていたようですが・・・
リネは徹に、「あれを見たい、ここにいこう」と誘っていましたが、彼女は脳に寄生していたため、考えを口に出さなくても全部わかるし、徹の五感を通じてリネも世界を見ることができたんですね。
それから、最後にリネが話している相手はこれを読んでいる読者の皆さんです。(ということになっていますが、このお話はフィクションですので、ご安心ください)
この作品は読み切り作品ですが、まだまだかけていないところ(例えば、リネがどうやって寄生したのかや、徹が謎の声の存在を受け入れるまでの過程などなど)は、リネの回想という形で短編か、「parasite2」をもし書けそうならそこで書いてみたいなと思っております。
最後になりますが、「parasite」お楽しみいただけたでしょうか。また別の作品でお会いしましょう。