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2/11 その2


 メンタルが荒れている。

 何か無心になって作業をしたい。

 小説を書くにも今の気分では、ラブコメのテンションではない。

 以前書いた「いじめの復讐は~」という短編の続きを書いてもいいかもしれない。

 あれなら、荒れていた気分でも書ける。

(18禁が認められたサイトでしか、投稿していません。ショタ、ゲイ? BL?ものです)


 あの、また作業所の話をここで書いてもいいでしょうか。

 不快に思われたら、ごめんなさい。


 2020年の夏ごろ、僕は親父とのいざこざで半年間ぐらい床に臥せていました。

 んで、メンクリの先生と長期間のカウンセリング、投薬などの治療を経て、やっと回復しました。

 兼ねてから、先生のなかで話題になっていたB型作業所なるものを探していました。


 それをたまたまネットで見つけて、全く新しい作業所がオープンするとことになり、「見学してから決める」と作業所に電話して、予約しました。


 面接した時、以前書いたダッチーさんが出迎えてくれて、その他には所長がおり、あとオーナーさんの三人しかいませんでした。

 開所前だったので。


 んで、事前に質問をデータ化しておいた僕は、それで質疑応答を所長と繰り返し、最後にオーナーさんが僕のところにきました。


「味噌村さんはなにを志望していますか?」

 僕は社交不安だし、ビクビクして緊張しまくっていました。

「あ、あの……ら、ライトノベルです」

「小説ですか?」

「はい……」

 するとオーナーさんは顔をしかめる。


「味噌村さん、残念ですが、小説は今の時代、あまり儲からないんですよ。イラストとかの方が儲かる。あとはあれです。今小学生が一番なりたい職業のユーチューバーなんてどうですか?」

 僕はそれを聞いて苦笑した。

 齢40前のおっさんがそんなきらびやかな世界に、顔出しするのは……と。

「いや。僕は儲かりたいのではなく。あくまでも社会復帰。とついでに、小説の文章力をあげたい、ネット上で発表できるぐらいの描写力が欲しいだけです……」

 僕がそう言うと、オーナーさんはニッコリ笑ってこう言った。

「味噌村さん、小説なんてものはセンスです」

「センス……?」

「うん、だから特にどうこう教える必要はないでしょう。それにもっと夢をでっかく持ってください。責めて、『書籍化ぐらい』とか『アニメ化してやる』ぐらいの……」

 僕はそれを聞いて、言葉に詰まる。

「えぇ……」

「そんなに驚かれることはないでしょう。私はつい先日、味噌村さんと同じく小説家志望の方と約束をしました」

「約束ですか……」

「はい、芥川賞を必ずとろうと!」


 シーンと沈黙が続いたあと、僕は緊張がブッ飛び吹き出してしまった。


「ブフーーーッ!」

 近くにいた所長も苦笑いしていた。


 笑いを必死にこらえ、オーナーさんに謝る。

「す、すみません……そんな志が高い人がいるなんて知らなくて……笑っちゃっダメですね」

 と言いながらも、僕は笑いが止まらなかった。

「うん、そうです。味噌村さんもそれぐらいの夢を抱いて、この作業所に来てください!」

 オーナーさんは一切笑う事なく、真剣な目だった。


 で、話は変わり、僕の書いている小説の話題になる。

「ところで味噌村さんの作品はどんなものです?」

 ギクッとした。

 この頃、今書いている男の娘もののラブコメ「気にヤン」をまだ投稿サイト「小説家になろう」に発表して間もなかったからだ。

 あとは18禁を過去に息抜きで書いたぐらい。

 ブランクが20年ぐらいあったから、彼に見せられるのはこれだけだった。


 緊張で口がカラカラに乾く。

「あ、あの、ラブコメです……」

「ラブコメ? なんです、それは?」

 オーナーさんにそれでは伝わらなかった。

「えっとなんていうか……」

「今見せてくれるなら、作品を読ませてください」

「うっ……」

 参ったなと思いつつ、僕はスマホで自身のサイトを開いて、彼に手渡す。


 すると何を思ったのか、オーナーさんは大きな声で僕の作品を音読しだした。


「ふむ。『気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!』」


 それまで黙っていた所長がタイトルを聞いた瞬間、吹き出した。


「ハハハッ!」

「……」

 多分、僕はもう顔を真っ赤にしていたと思う。


 だが、オーナーさんはあらすじまで読みだした。


(敢えて、あらすじを引用します)

「可愛ければなんでもいい……男の娘でも……?

 うむ。新宮 琢人はひょんなことから、通信制の高校に入学?

 入学式で出会ったのは琢人のどストライクゾーン、貧乳っ! 金髪っ! 緑の瞳っ! 色白っ! ハーフの美少女……。

 ……ではなく、ただのヤンキー……男の子ぉ?

 古賀 ミハイル。

 ミハイルを見つめていたことで、「ガン飛ばした」と因縁をつけられて、彼女いや彼から「なぜだ?」との問いに、琢人は純粋に答えた。


 かわいいとおもったから?


 その一言で、琢人とミハイルとの歪んだ出会いがはじまり、琢人との思惑とは裏腹にミハイルからのアプローチがすごい!?

 しかも、じょ、女装すると? 琢人のめっちゃタイプな女の子にだ、大変身!?

 口調まで琢人好みに変えてくれるという神対応……。

 でも、男装?時は塩対応……。

 あ~だから男の娘だとわかっていても、可愛ければいい?

 禁断ラブコメディー、ここに開幕……」


 読み終えるころには、所長が腹を抱えてゲラゲラ笑うし、お水を持ってきてくれたダッチーさんも聞こえていたのか、「ふふふ」と失笑する。

 当の作者本人の僕は、「もうどうにでもなれ」一緒に笑うしかなかった。

 社交不安なんて、このオーナーさんの前では、破壊されてしまうのだ。


 所長は、机をバンバン叩いて笑っていたが、オーナーさんは至って冷静な態度を保っていた。

 そしてこう言う。

「うん……掴みはオッケーて感じですね」

「は、はい……」

 というか、自分で読んだのだから、責めて笑ってほしいと思ったが、真顔で言うから、しんどかった。


「これはどこで読めるんですか?」

「あ、その『小説家になろう』で読めます」

「わかりました。あとで読ませていただきます」

「あ、ありがとうございます」

 ほぼ初めての読者と言っても過言ではないだろう。


 ガチガチに緊張していた僕は、羞恥プレイを食らって、心身ともに疲弊していた。


 まあ、この日にもう通所を決めたのだが。

 他の人も同じような面接をされたのかと思うと、僕はちょっと心配だった。


 でも、すごく良いオーナーさんでしたよ。


 ではまた!

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