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9話 嘘か?真か?クルオナ、両親の仇

この作品はフィクションであり実際の人物や団体とは全く関係ございません。

またこの作品は著者の思想を表したものではありません。

 アガムートとの交戦を終えて共和国に帰った一行はクルオナ曰く彼女の故郷と言う町に着いた。


その町はお世辞でも都会とは言いづらい。古代欧州のような雰囲気である世界…というか国ではあるが、現代の日本で例えてみると近場、あるいは町内にイオンができて数個の商店が並ぶ中心部がシャッター街になっていそうな規模の町だった。


クルオナを先頭に一行は中心街に差し掛かる。案の定、看板だけ残した空き物件が建ち並んでいた。そんな中、ビラ配りでもしてるのかある人を中心にして町民が集まっていた。


 町民に囲まれ中心にいるその人は演説をしていた。見たところ所属は違えど魔術師のようだった。


「見てくださいこの廃業した店舗ばかりの商店街、これもすべてウヨー皇国の仕業です!」


「何言ってんだ、イオスコのせいだよ!」

「なんでもかんでも皇国のせいにするな!」

「責任も取れないのか、あんたら政府は?」


町民は政府に不満を抱えていた。なんせこの町は廃業続きで彼らの生活は逼迫ひっぱくしている。それに対し政府は対応が遅れてしまい信用を落としていた。


やっと代表が来たと思ったらやることは責任転嫁の演説。町民は怒りを爆発させ投石を始めた。


「帰れ帰れ!」

「無駄なこと言いに来たなら失せろ!」

「何が国民の生活を守るだ、守りたいのはフトコロだけだろ!」


魔術師と思われる人物に向かって町民は溢れ出る怒りを石に込めてぶつけた。

演説してた魔術師は両手で顔を隠しながらしゃがむ。


「ちょっと、おやめなさい。この方はあなた方を守るために政治活動しておられるカッツォダーヤ議員です。無礼な真似はおよしなさい!」


クルオナは思わず大衆の前に飛び出し両手を広げて投石をやめるように諭した。


しかし町民は聞く耳を持たず、クルオナに罵声を浴びせながら投石を続けた。


「クルオナか?ガキは引っ込んでろ!」

「魔術師学校のエリートかなんだか知らねーがでかい口を叩くな!」

「世間知らずの子どもが首突っ込むな!」

「権力者の犬が!」


クルオナも両手で顔を覆い隠し膝を付いた。


町民の気持ちは理解しつつも、彼女への仕打ちにあまりにも心が痛むんだエデアも止めに入ろうとした。その時である…


光の壁がクルオナを包み込んだ。

カッツォダーヤが険しい表情を浮かべながら厳しめな口調で町民たちに言い放った。


「おやめなさい!あなた方の不満はこの少女を傷つける事で晴らされるのですか。そのような非人道的な所業をする者の店に誰が来ようか?」


その声を聞いた大衆はふと目を覚ましたかのように我にかえり、そのまま帰っていった。


「怖かったねお嬢さん、でも君の勇気で助かったよ。」


カッツォダーヤはクルオナが庇ってくれた事をお礼しに近寄ってきた。


「大丈夫、怪我はないかい?かすり傷程度でも治してあげよう。」


彼はクルオナの顔についた傷に手をかざし治癒魔法を使った。

クルオナは彼の親切に礼をした。


「あ、ありがとうございます…。」


 突如、放龍はカッツォダーヤを睨みつけながら敵意を見せるように訪ねた。


「誰だオメェ?」


突然の怒号に困惑するカッツォダーヤ。初対面にこんな事されたら当然の反応である。


クルオナは危険を感じ冷え切ったこの場を和ませようと割り込んできた。


「す、すいません。この方は放龍と言うのですが、この世界に召喚されたばかりでまだ慣れていないんです。ご無礼お許しください。」


「いやいや、こちらこそ自己紹介がまだだったね。私はカッツォダーヤ、この国を良くするために政に携わる魔術師。以後よろしく。」


カッツォダーヤはクルオナの苦労に気を遣い自己紹介するも放龍は知らん顔で見つめていた。


もっとも彼は簡単に他人を信用しない性格、ましてやこの世界の魔術師なんぞ話すのも嫌になるほどだろう。


「フン、握手の間際にマイクロチップを植え込むつもりだろう。俺は魔術師おまえらとは手を組まないし取り合うこともしない。」


放龍はそう吐き捨て、その場を去って行っていった。エデアも慌てて後を追っていった。


「アニキ、流石にこれは失礼でっせ。」


クルオナも最後に頭を下げて非礼を詫び、続いて去った。


「とんだご無礼お許しください。きっと必ず、彼を説得しパヨンの平和のために役立ててみせます。」




 放龍一行が去り、カッツォダーヤ一人となった時、彼は背後に隠れていたある魔術師を呼び出した。


「要は済んだ。セーバ=ラマージ、出てこい!」


すると、素早く物陰から何者かが飛び出した。パヨン立憲主義共和国の政に関わる組織"パヨン十天君"が一人、セーバ=ラマージである。


彼はパヨン、ウヨー両方の中でも屈指の剣豪と言われている。彼の二刀流サイキックセイバー非常に強力で一人で複数人の歩兵を始末でき、他の魔術師よりも刃が強固なのだ。


しかし、彼は戦争をゲームのようにしか捉えない程の戦闘狂である。利権のために反戦主義を語るパヨンについただけで内心、戦闘を待ちわびている。


「あやつは中々食えない性格のようだ、ウヨーに渡ることもないだろう。だが、こちらの味方にもなることはない。どうする、処すか?我が腕を馴らすには程よい、早急に奴と手合わせしたいものだ。」


戦の時はまだかと疼きながら首長くして待っているセーバを前にカッツォダーヤはまた待ったをかける。


「待て、十天君たる我々が迂闊に出るものではない。まだ彼が敵となったわけではないし、お前も目測が外れ拍子抜けしたら嫌だろ?然るべき時に然るべき役職が行けば良いのだ。」


カッツォダーヤはセーバを焦るでないと諭す。頑なに不動を貫く彼にセーバは問いた。


「さては貴様、召喚者の女の方を気にかけてるな?黙っておけば事は起こらぬというのに…。」


「いや、それは満身創痍だ。あの夫婦のことだ、クルオナにしか気づかぬ場所に我らの思惑を証明する物を隠してるかもしれん。」


慎重なカッツォダーヤに対し、激しく苛立ったセーバは口調を荒立てながら豪語した。


「ならば、その女ごと奴を斬ればいい。あと付き添いのガキ一人もな。皆を倒せば全て表沙汰になることはない。」


「いや、まだ敵と決まったわけでない者に手出しは控えるべきだ。監視はつける。その監視に何かあった時、我々が出るか判断すべきだ。」


カッツォダーヤはこの姿勢を崩す事はなかった。セーバは結局、彼の意思を受け入れる事にしたのだが最後に


「そうか、だが敵意を感じたら問答無用に斬り捨てる。それだけは覚えておけ。」


と言い残し去って行った。




その頃、放龍達は…。


「ところでクルオナ、イオスコってなんだ?」


「…それ、今聞きます?」


突然、放龍はイオスコについて聞き出した。何か関心を持ったようだ。

クルオナはさっきまできつい態度だったにも関わらずいきなり質問しだす彼の能天気ぷりに呆れながら答えた。


「広い敷地に城のように大きな建物を建ててその中に多くの商店を招き入れて経営してるお店です。自前の売場もあるんですけど招かれるお店が品揃え良くてサービスも充実しているチェーン店が多いのですよ。まるで街を一つの建築物に詰め込んだようです。全国に何店舗かありますよ。」


つまり、この世界のショッピングモールとい考えれば良いだろう。

ショッピングモールに客が集中し、かつて栄えた商店街がシャッター街になる社会問題はこちらの世界も同じようだ。


「そうか、いつか行ってみよう…。少しジョギングしてくる。」


そう言って放龍はトレーニングのためクルオナの元から離れた。


「アニキ、厳格そうだけど意外とマイペースな所もあるんだね…。」


「召喚してあなたに会うまでは、いつもあんな感じでしたよ…。」


放龍の見慣れない姿に戸惑うエデア。

クルオナはその様子を苦笑いしながら見つめていた。



……………翌朝………………



 クルオナの実家は皇国が攻めてきた時に全焼したと言われている。立憲主義共和国政府が念入りに対応したため国内ではあまり燃やされた建物は少なかったらしい。


そう、彼女の家は不運であった。それに同情した近所の町民がみんなで寄付してクルオナ一人で住むには大きすぎる程の家を用意してくれたのだ。


エデアはクルオナに遠慮して民泊に泊まる予定であったが民泊はお一人様専用部屋が一つのみ空いている状態だったため、そこを放龍に譲り結局クルオナの家に泊まった。


二人はリビングで朝食を取りながら雑談をしていた。


「ところで、どうして昨日はこちらに泊まる事に遠慮したのですか?」


「あのさぁ…、少女が家に男連れてくる絵面を見てアンタはなんも思わんのか?」


「それは…確かに傍から見たら色気ついたなとか、青春だなぁとか思います。ですけど今それ関係ありますか?」


「大アリだわ、あんたは気にしないかもしれないけど俺は周りからそんな風に思われる事がイヤなの!」


「まぁそう言わずに…、それとも私に欲情して恥ずかしくなりましたか?やだぁ!」


「年下にそんな事するまで飢えてねぇよ!」


「あら、失礼ですわね。そこはお世辞でも『麗しきクルオナお嬢様にたまらないであります。恥ずかしながらエモーションが止まりません。今にも抱きたくなるほど魅力的です。』くらいは言ってもよろしくては?」


「そんな趣味はないし言ったら言ったでケダモノ呼ばわりするだろ?」


「まぁ可愛くない、無粋な人。これだから童貞は…」


「お前いい加減にしろよ?」




 変な話が盛り上がったところで唐突にクルオナは話題を変えた。


「そろそろいい時間ですわね、お墓参り行きましょう!」


「突然すぎるだろ…、ご両親のお墓だっけ?」


「そうです。8年前に皇国に攻められた時、亡くなったんです…。エデアもついてきてくれます?ボディガードは必要ですし、天国にいる両親にも貴方を紹介したいので。」


「いや、娘が男を連れてきたらご両親が驚かれるよ!それに侵犯行為と見なされたら厄介だから皇国はここまで来ることはないと思うけど…?」


「皇国が来なくても万が一な事がありますし…駄目ですか?」


クルオナがいたいけない表情で見つめながら話すと、エデアはその言葉に折れてしまい結局ついて行く事にした。


 墓地へ向かう途中、エデアは思い出したように気になった事をクルオナに聞いた。


「なぁクルオナ、そういえばさっき8年前に皇国の兵隊に襲われたと言ってたよな?」


「ええ。」


「襲ってきた奴らの身につけていた防具の色とか覚えてないか?」


「赤色…そう、エデアが放龍さんと対面した時つけていた防具と色が同じだわ!それが、どうかなさいました?」


「いや、俺のような端くれでも軍の記録は確認できるんだが8年前にこの辺一体を攻めた記録はないんだ。隠蔽の可能性はあるけど隠蔽するほど重要であるなら二等兵なんて出撃させないと思うんだ。なんせ赤い防具は二等兵用だからね。」


その言葉を聞いてクルオナの表情は一気に固くなり雰囲気も重くなってきた。

彼女はエデアが出身の皇国政府を庇い彼女自身の記憶を疑っているのではないかと不安に感じはじめ、それを確かめるように聞いた。


「まさか私の記憶が間違っているとでも言うのですか、私の言う事はウソで皇国を貶めたいデマとでも言うのですか?」


エデアは彼女に誤解している事に気づき、すぐさま補足をする。


「待ってくれ、決してクルオナを疑っている訳ではない。当然、皇国の隠蔽を否定するつもりはない。ただ、愉快犯が皇国から防具を盗み出し疑いを皇国に向けて難を逃れた可能性もありそう。そう思っただけなんだ。悲しませるような事を言ってしまったなら申し訳ない。」


「そうですね。その可能性も完全に否める証拠がないにも関わらず、あなたを少し疑ってしまいました。こちらからもをお詫びします。」


エデアの考えを理解したクルオナは彼の言葉を素直に受け取めた。


 そうこうしている内に墓地についた。二人はクルオナの両親が眠る墓の前に花を添えた。


「お父さん、お母さん、天国で仲良く過ごしておられますか?私は元気に一人で過ごしておりますからご安心ください。」


合掌しながらお墓参りをするクルオナ。エデアも手を合わせしゃがみ込みお参りした。


「ご両親方、私はエデアと申します。この度、クルオナのボディガードを務めさせて頂きました。あくまでボディガードであり決してやましい関係ではございません。今後ともよろしくお願いします。」


「フフッ、なにそれ?」


エデアの話にクルオナは思わずクスリと笑いなが反応した。


 何かを思い出したかのようにクルオナは荷物を漁りだした。


「どうしたんだ急に?」


「いつもお墓参りの時、ここで形見のオルゴールを持ってきて鳴らすのが日課なんです。」


そのオルゴールはクルオナの両親が殺される前に彼女に託された物である。幼い頃からお墓参りでこれから音楽を流していた。辛い事があった時もこの音楽に癒やされていた。クルオナにとって心の支えともなるとても大切な宝物であった。


クルオナはオルゴールから音楽を鳴らした。とても心地の良い音色であった。疲れや怒りも忘れ、穏やかな気持ちになれる。そのくらい癒やされる優しい音色だった。


しかし、そんな音楽に包まれながらエデアには何かしら声が聞こえた。


「なぁクルオナ、今何か言ったか?」


試しにクルオナに聞くも、身に覚えなさそうであった。


「いいえ、気のせいでは?」


しかし彼にははっきりと聞こえ始めた。


「…ゴール…オルゴール…オルゴールに手をかざせ…」


この声の言うとおりエデアはオルゴールに手をかざした。するとオルゴールが光だしホログラムのような物が映し出された。

そこには男性の顔が映し出された。


「お、お父さん!?」


そう言ってクルオナはこじ開けたかのようにバックリと目を開き驚愕の表情を浮かべた。




 クルオナの父親は政治学者、母親は魔術師であった。二人は結婚して数年後、クルオナを授かった。


クルオナの成長を見届けつつ、二人はある事の研究をしていた。詳しくはクルオナの父親が話す以下の通りだ。


「パヨン政府による『国家転覆占領論』、彼らが国家を分断したのはその魁にすぎない。もとい、彼らの思惑をウヨー皇国が阻止した形が国家分断になったんだ。彼らはもっともらしい言葉を並べてウヨーの体制を悪く言い、それに市民達を同調させ国を占拠しようとしたんだ。しかし問題はそこからだ、妙な禁止事項を増やしたり気に入らない人を差別だなんだと言いがかりをつけ揚げ足取りしたり活躍の場を奪い去ろうとしている。そしてトドメを刺すように国民を騙して事業への削減や誤った金利政策を施し経済を混乱させ国家転覆をはかっている。それでも国民の良心や不安につけいり洗脳させこれらを正当化する事も企んでいる。」


つまりこの国家は国民を利用し人権侵害を正当化し、皇国とは違う形で国民から富を搾取し利権を貪る。共和国を信じていたクルオナは自分が騙されていた事を知りショックのあまり崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。その瞳からは涙がこぼれ落ちていた…。


彼女の父親は次にホログラムを見つめている視聴者へのメッセージを残していた。


「このメッセージは魔導探知チップに詰めてオルゴールに隠しておく、娘のクルオナにそのオルゴールをプレゼントする。奴らも到底気付くまい…。視聴者がこれを見ている頃、私はもうこの世にいないだろう。しかし、もしかしたら娘の方は無事かもしれない。その時は…娘を頼む。」


そして最後に娘のクルオナに向けてのメッセージであったが…


「最後に。クルオナ、もし生きていたら…」


「おとおとおっとっと〜、これ以上はいけねぇなぁ!!」


何者かが攻撃魔法を仕掛けオルゴールを壊した。


クルオナは残念ながら一番聞きたいであろう所を何者かに妨害された。親の形見であり父親のメッセージも込められていた大事なオルゴールが壊され、彼女はとてつもなく大きな悲鳴をあげた。


「お父さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


あまりにも突然の出来事にエデアは驚きながら声のした方向を向く。その時、隣の墓石の上に何者かが立っていた。


「何者だぁ!!」


エデアにとってもこの所業はとても許せず憤る程の事であった。


クルオナもエデアが怒号をあげながら睨んだ方向を向いた。

すると、彼女の口から衝撃の一言が飛び出してきた…。


「あの人、私の両親を殺した人だ…。なんでこんなところに…?」

突如現れた謎の魔術師とは別に、大剣豪セーバ=ラマージまでもエデア達を襲う。するとエデア達を傷つけない身勝手な条件を魔術師達は言い渡した。その選択権はクルオナに託された。どうするクルオナ?


次回「立憲の虚言 クルオナ、涙の嫁入り」ご期待ください。

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