7話 祈れクルオナ アガムートの卑怯な罠
当作品はフィクションであり実在の人物、団体とは一切関係ございません。また、作者の思想を表す訳ではございません。
朗読以下略
ネーケゲウェと死闘の末、勝って生還した放龍。しかし彼は何箇所か骨を折り、とうとう倒れてしまった。
「放龍さん!」
「アニキ!」
クルオナとエデアの二人は急いで放龍のもとへ駆け寄る。
「アニキ、しっかりしろよ!今安全なところに運んでやるからな。」
エデアが放龍を抱えあげようとしたその時、クルオナはエデアを睨みつけながら怒鳴った。
「触らないで!」
クルオナは憎悪の目でエデアを見ていた。彼女は何が起きたのか戸惑うエデアに対して疑うように問い詰めた。
「その人はあなたの仲間を殺したんですよ。どうして迂闊に助けようとするんですか?助けるフリをして何かしようと考えてませんか?」
自身を信用をしない彼女の問に対して、エデアは眉間にシワを寄せながら激し目の口調で言い返した。
「そんなやましい事は考えてない!俺は今捕虜だ。捕虜が捕らえてる側の気を使う事は珍しいものでもないだろ。それより今すぐ医者のもとへ運ぶんだ。」
エデアは出会って間もないとはいえ放龍に関心を抱いていた。
樹海で手合わせしたその時から一目で彼の強さ、逞しさにあやかりたい気持ちが芽生えていたのかもしれない。捕虜になる事もまた満更ではなかった。
しかし放龍の負傷で焦っている中、そのような胸のうちをクルオナが納得するように伝える方法など彼にはなかった。
彼の気持ちを知るよしもないクルオナにとっては優柔不断なコウモリに見えた。どうせ強い敵が現れたら簡単に寝返る、そんな軽い奴なんだと思ってしまった彼女はきつい言葉で返した。
「捕虜になった?そのくらいで仲間の仇に手を施すのですか?でしたら余計あなたを信用できないです。囚われたくらいで仲間を見捨てる人を信用するわけないじゃないですか。彼のことは任せてください。時間はかかりますが怪我の手当くらいは治癒魔法で見れますのであなたは消えるかその辺で好きにしていてください。」
この発言によって場はより張り詰めた雰囲気となった。
エデアは言葉を返すことなく険しい表情でクルオナを見つめるだけであった。
二人とも放龍に付きそう身ではある。
しかし、片や激しい競争と多大なる努力を要して個人が富と自由を手にして全体を栄えさせることを目的としたウヨー自由主義皇国の民、片や全体の事より個人の権利と自由を保証し一人ひとりが生きやすい社会を作りあげのびのびと栄えていこうとするパヨン立憲主義国の民。
意見の食い違いにより分裂してしまった二カ国の民が簡単に交わる事などできたものではなかった。
少し間は空いたがここでエデアは開き直るかのように言い返した。
「わかった、治療はあんたが勝手にやればいい。だがここは道路だ、誰かが来た時いろいろと大変だからせめて脇に寄せよう。」
「お気遣いありがとうございます。ですけど一人でやれますので後はご自由になされては如何です?」
クルオナは塩対応で返す。彼女もエデアを信じない姿勢を崩さなかった。
結局、二人が相容れる事はなかった…。
その様子を遠くから眺める者がいた。シンジェロ参謀だ。
参謀はアベル総統の命を受けネーケゲウェの監視に来ていた。
「皇国屈指の拳豪、ネーケゲウェも破れたか。しかし、召喚獣の方も尋常でない怪我をした模様。流石は拳豪と呼ぶべき逸材かな…」
満月の夜、冷ややかなそよ風を浴びながら彼は悟るように独り言を呟いた。
そんな中、彼は草木の靡かれる音に隠れながら何者かが近づいてくる足音を聞き取って振り返った。
「どちら様かと思えば、シバゲル中尉ではございませんか。」
シバゲル中尉とはウヨー自由主義皇国の重役ではあるが意見をコロコロ変え露骨に利権ばかり狙うため両国民から嫌われている。なお皇国内の与党、自由主義党内でも人望が薄い。
「何故ネーケゲウェを助けぬのだ?仲間を見殺しにするのか?」
シバゲルの問にシンジェロは微笑を浮かべながら答える。
「私の任された事は監視と情報伝達です。彼の手助けなど任されておりませんよ。」
これ聞いたシバゲル、青筋立てて魔導剣サイキックセイバーをシンジェロの突きつけ怒鳴りつけるように激しい口調で彼に問い詰める。
「貴様は何を考えている、さては召喚獣に加担し国家制服でも考えてはないだろうな?」
しかしシンジェロは態度を変えず冷静に聞き返した。
「おやおや、そのような計画をお考えなのは貴方なのでは中尉?貴方は総統選に二度も挑戦し総統の案を幾度も否定したではございませんか。」
それを言われ返す言葉のないシバゲルの手を振り払い去ろうとする直前にシンジェロは作戦を伝えた。
「そうです、私は今から総統の元へ出向きアガムートをかの一行の元へ向かわせるよう伝えます。怪我人相手に策士と呼ばれた彼を向かわせる、これは鬼に金棒と思いません?」
「アガムート!?北部開発担当だが献金問題で干されたあいつを使うのか、あいつはもうニートも同然だぞ?」
「ニケェ元帥の元、親衛隊として働いてますよ。私は元帥と総統に策を伝えますので、ここで…」
「待て、待たぬか勝手な奴が!」
シバゲルの質問に軽く返しシンジェロは去っていった。後を追うようにシバゲルも去った。
一夜が過ぎ朝を迎える。野宿をするように茂みの中でクルオナは寝ずに放龍の手当をしていた。
エデアは二人を見守っていた。彼もまた、放龍の様態が気になって寝れなかった。
快晴の空、燦々と照らす日光が二人の落ちそうなまぶたを刺激し暖かいそよ風が身を包む。寝不足には容赦ないほど心地のよいぽかぽか日和であった。
そんな中、皇国方面から何者かが近づいてくる。アベルの命を受け放龍を討ちにきたアガムートとその手下たちである。
エデアは放龍のいる場所近くにその一行が近づいた事に気がついた。
向こうには気づかれまいと物陰に隠れ様子を見ることにした。
しかしアガムート伍長の目的は放龍であり、彼のいる場所も知らされているためエデアを配慮は意味を持たなかった。
「ここの茂みだ、出てこい召喚獣一行!」
皇国の集団が訪れたことに気づきいたクルオナは真っ先にエデアを疑った。
「エデア、やはりあんたが呼んだのね?なんで隠れたのに突き止められてるの?」
「俺じゃない、きっと刺客が隠れてたんだ。信じてくれ!」
こう話している内にもアガムート一行は放龍の元を探ろうとしていた。
エデアはクルオナを信用させる前に自身が囮となりお茶を濁そうと考えた。誤魔化せたら運がいいものであるが…。
「これはこれは、アガムート伍長!ごきげん麗しく。」
「なんだお前、どこの部隊だ?」
攻め寄るアガムートに対してエデアは妙ににこやかな対応で接する。伍長には気味悪く思えた。幸い、伍長の元には負傷した召喚獣がいるという程度の情報しかなくエデア自身の話はされていない様子だった。
そのように思えた…。
「フン、貴様さては召喚獣の在り処を誤魔化そうとしてるな、裏切るつもりか?エデア二等兵!」
それを言われたエデアもせせら笑いながら返答した。
「おっと、これは自己紹介も省けますな。俺は裏切り者と言われても怪我人と少女に手を出すクズにはなりたくないからな。」
それ言ったエデアはサイキックセイバー、魔法のエネルギーを固めた剣を構えた。
当然エデアを裏切り者とみなした囲いの兵隊もサイキックセイバーを構える。一同の緊張感がピークに達した。
「決まったな裏切り者よ、皆の者…かかれ!」
「おぉ!!」
「フン、俺も行くぜぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
エデアは威勢よく敵陣に突っ込んでいき一人で複数人を数的不利ながらも一人づつ倒していった。
「安心しろ、ミネだ…。」
奇跡か二等兵ながら格上の一等兵もいるアガムートの手下を殺めない程度に負傷させ全滅に追い込んだ。まさに桶狭間の戦いのような奇跡的形勢逆転とも言えよう。
「なるほど腕はあるようだ、だが所詮は二等兵よ。このアガムートをクズ呼ばわりした罪は重い。二等兵の分際で伍長に楯突いた事をあの世で後悔するがいい!」
アガムートは青筋立ててエデアに勝負を挑む。そしてここでアガムート伍長の必殺魔法が放たれる。
「行くぞ…プレッシング•パジェロ!」
プレッシング•パジェロとは敵の心臓、動脈、脳といった生命を保つ部位に直接、魔法圧力をかける恐ろしい技である。ただし、ルーレットのように狙いを定めなければ最悪外してしまいかねない集中力を要する魔法である。
ただ、皇国北部のカジノ開発を任される程カジノが得意なアガムートにとっては敵の弱点を狙う事など朝飯前の話であった。
「プレッシング•パジェロ、肺…貴様はもう録に呼吸もできん。」
「ぐはぁっ!!はぁ……うっ……。」
エデアは呼吸困難となり倒れ込んだ呼吸器が活動を弱めたのだ。これがプレッシング•パジェロの恐ろしさである。だが、まだ序の口…。
その頃クルオナは放龍の手当を続けていた。まだ完治せず意識も戻らない放龍を徹夜で看護した体は限界に到達するところだった。
「どうすれば、目覚めてくれるんですか…放龍さん。まさか、ここで…」
クルオナは重い瞼の隙間から大粒の涙を溢した。自身の力不足を感じ、行き詰まったと思ったのだ。
「私、どうすればいいのでしょう…。」
ふと意識が薄れはじめ、放龍の胸元に倒れ込んでしまう。
「オナ…クルオナよ…。」
「あ、あなたは…?」
朧げに何者かの姿を感じた。クルオナにはそれは誰なのかは分からない、思わず聞き返した。
「救世主を支えし者、クルオナよ…。目を覚ませ、その者を救うはこの世の救済ぞ…。」
質問には返さない様子、しかしこの言葉が聞こえた頃には彼女は誰なのかはっきりとわかった。
「ミネテナ様、我らが国の守り女神…ミネテナ様、どうか私の代わりに放龍さんを…」
彼女にはもはや限界、神頼みしかない。そう自身で思っていた。
「否、貴方に出来ない事はない。今、貴方は大切な物を見落としている。人を救うには心が必要。守る心、思う心、そして…信じる心。」
「信じ…る?」
ミネテナの言葉に一度は戸惑った。しかし女神はクルオナに伝えたい大切な事とは何か、たった今気がついたのだ。
「はっ!?」
クルオナは目を覚ました。そしてエデアの方を見つめた。
エデアはその頃、アガムートに止めを刺されそうになっていた…。
「どうだ、喉だ。苦しいだろ?」
「あ、あぁ…。」
プレッシング•パジェロが少しずつエデアの体を蝕む、エデアの命が危ない…。
「最後は…脳、運が悪いな。ここまで耐えたことは褒めてやろう。だが気が気でない状態で貴様は死ぬのだ。裏切り者には程よい。」
最後の魔法がエデアを狙う。その頃…
「誰だ、俺の顔に物理的に泥を塗ったのは!」
どこかから毟られた雑草が飛んできた。
「俺だ。」
放龍だ、放龍が蘇った。負傷をし、意識も失っていた放龍がそこに立っていた。
「貴様、重篤だったのでは?」
「寝ずに看護してくれた者がいてな、今はピンピンだ。」
割り込む様にクルオナは放龍に忠告する。
「まだ完治したてですからね、無理しないでくださいよ。」
「わかっている、クルオナ…そっちにはまた無理させるがエデアの看護を頼む。まだ死なずには惜しすぎるからな。」
放龍の要望に微笑みながらクルオナは答える。
「わかってますよ、人使い荒いんですから。」
クルオナはエデアのもとに駆け寄り手当を開始した。その前に、彼女はエデアにつたえることがあった。
「エデア、こんなになってまで私達のことを…。ごめんなさい、貴方を素直に信じてあげられなくて…もっと素直になれば貴方をこんな目に遭わせなかったのに。」
「なに、誰だってあの状況で簡単には信じることは出来ないもんさ…。」
クルオナは放龍を助ける事ばかり考えており、大事な事を忘れていた。共に戦ってくれた仲間を信じること、それを忘れてしまい治癒魔法を完全に発揮できなかったのだ。放龍、そしてエデアを信じる気持ちを思い出し、放龍を救う事ができたのだ。
放龍とアガムートは睨み合う、果たしてこの決着はいかに…
アガムートのプレッシング•パジェロが放龍を襲う、アルミホイルで凶悪な技を迎え撃てるのか?唸れ、龍の拳!巻け、アルミホイル!人権侵害を働く魔術師から世界を救うために、戦え放龍!
次回、「決着 拳VSダーツ」
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