4話 決めろ魔断拳!アンカーギー師団長決死の対決
※当作品はすべてフィクションであり、実在する人物、個人、団体とは一切の関係はございません。また当作品は作者の思想を表したものではございません。
「元帥閣下、この絆創膏は敵軍の召喚獣にやられたものです!」
「馬鹿者、そんな話は聞いてはおらん。何故神殿一帯を取り戻せなかったのだ?ベーカス帝国軍の駐屯基地建設まで時間がないんだぞ!」
アンカーギー師団長が会話している相手は軍部の上層部たるニケェ元帥である。ニケェ元帥はウヨー自由主義皇国の民からは自国を開放しすぎと嫌われている。そしてパヨン立憲主義国の民からは銭ゲバで国民を軽く見ていると嫌われており両国民からの信用は低い。
しかしながら軍部や政府からの信用は厚く一言で総統すら意見を変えかねない程の権力を持っている。
ニケェはアンカーギーと遠隔伝言魔法で連絡を取り合い、今回の任務失敗について派遣されたシンジェロ参謀の3人で会議していた。
会議する程に重大な任務とはクルオナが放龍を召喚した神殿周辺を奪還し同盟国たるベーカス帝国の駐屯基地を建設する予定であった。
まず、ベーカス帝国(以下ベー帝)について説明しよう。ベー帝はウヨー、パヨン2カ国から大洋をはさみ西側に位置する世界第一の経済国である。ウヨー皇国とは固い同盟関係にあり皇国では足りない戦力の応援としてベー帝の軍を派遣する事になった。しかし良き立地が現状のウヨー皇国内には少なく正式な独立が認められてないパヨン立憲主義国から土地を奪い返し建設する事になった。その理想に叶った土地こそ神殿周辺であった。
ベー帝としても近隣の国々に警戒すべき国もあり事は急いでいた。
つまりアンカーギーの作戦失敗は今後の外交にも多大な影響を与える大失態なのだ。ニケェは苛立った表情でアンカーギーとシンジェロを咎めた。
「アンカーギー、お前の失敗は重い。何が召喚獣だ?一人相手に部隊半壊とは何事だ?命に代えてでもあの土地を取り戻せ!」
「ははっ。」
「それにシンジェロよ、お前もいて何という体たらくだ?説明してみろ!」
「お言葉ですが元帥閣下、私は総統閣下に偵察してこいと言われたのであって手助けしろとは言われておりません。」
「バカモン!総統閣下は説明を端折っただけだ。身内に危険があれば真っ先に助ける意図もあるとなぜ分からん?」
煮えくり返りそうなほど腹立てているニケェの説教に割り込むように何者かがログインした。
「これはこれは、タローア僧正ではございませんか。」
シンジェロはここぞとばかり話をすり替え挨拶する。
タローア僧正は僧侶ながら軍部や政府に口出しできる地位にいる。また彼は南部に鉱山をいくつか構え一つの都市を事実上支配している金持ちのボンボンなのだ。お城のような屋敷に住んでおり、その敷地は無関係者が立ち入るとセンサー魔法陣が作動し即座に警察が駆けつけるようになっているのだ。
「シンジェロ君も召喚獣のミゾウユウな強さに驚いたんだろ?しょーがないじゃないかニケェ君」
「恐れ入りますが僧正、未曾有の正しい読み方は『ミゾウ』であります。」
養護されているにも関わらず揚げ足を取るように誤読を指摘するシンジェロに対しても僧正はにこやかに対応した。
「これはこれは失敬、私も最近誤読をゾウハンにするんですなハハハハハハハ」
「わきまえろシンジェロ、今は誤読指摘する場合か?」
ニケェは緩い二人に呆れるばかりであった…。
その頃、放龍たちはこの世界の事を把握できてない放龍にクルオナはこの世界の事を色々と説明していた。
「…つまり、この世界はいくつか国家があって、その中で一番軍事、経済で世界をリードしているのがベーカス帝国なんです。現皇帝はオー=パイデン皇帝。前皇帝ミッキーハナフダは保守的すぎて不信任で更迭されたんです。」
「なんか、松屋で食い逃げしてそうな名前だな。」
「松屋は食券制ですよ?BAKAですか?」
話している最中に突然、放龍はシャドーを始めた。
クルオナにとってボクシングのシャドーは初見だ。そのため色々気になってしまい放龍に訪ねた。
「シュッシュッ、シュシュッシュッ!」
「…なんですかこれは、すごくキレッキレですけど?」
「これは、シャドーだ。ボクシングでは基本の技、常に練習していないと腕が鈍ってしまうのでなシャドーとジャブは定期的にやるのだ。シュシュッシュッ!」
追放されても彼はボクサーとしての練習を欠かさなかった。最も、過酷な戦いに身を置く事になったは彼には余計定期的にやらないと落ち着かないのであろう。
「シュッシュッシュッ!」
「はぇ〜…。」
突然、放龍はシャドーをやめた。何者かが近づいている事に気づいたからだ。それも複数、クルオナも気づいた。二人は警戒を強める。
「儀式はやめたんか?」
「オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイ!」
「死ぬわアイツ。」
それはアンカーギー師団長率いる軍隊であった。当然、師団長もそこにいた。
「ほう、イメージトレーニングですか?たいしたもんですね。では見せてもらおうか、そのイメトレとやらを!」
残念ながらウンチクまではたどり着けなかったものの師団長は放龍と決着をつけることにした。彼は顔の傷の事は決して許す事はないだろう。今こそ放龍と一騎打ちが幕をあける…。
「お前らは後ろで見ておけ。こいつは俺が潰さぬ限り止められぬ…来い、召喚獣よ!」
「ほう、ならば止めてみろ。姑息なマネはせずに勝負するというのだなストーカーの長よ!」
放龍は瞬時に兜と鎧、グローブをアルミホイルで作り上げ臨戦態勢に入った。
「ハハッ、何だそれは。紙切れのようなものを体に巻いただけで我と闘うと言うのか?」
師団長は見慣れない光景に鼻で笑いながら放龍に問う。
放龍は変わらぬ態度で答える。
「これはアルミホイル、5Gから身体を守り思考盗聴や電磁波障害の健康被害から身を守る道具。貴様らのなんちゃって魔法の電磁波攻撃にも耐えられ武器にも防具にもなる万能兵器だ!」
「兵器だとぉ?ふざけるなぁ!これでも喰らえ…光線魔法"崩滅一閃"!!」
光線魔法崩滅一閃とは身体の魔力エネルギーを一点に集め破壊エネルギーに変換して光線にして放つ戦闘魔法だ。一筋の光が素早く直線に放たれる姿に人々はその名で呼んだ恐ろしい魔法だ。
崩滅一閃が放龍目掛けて飛んでいく。
"パァァァァァォァァン"と爆音を立て放龍に直撃した。放龍危うし、死ぬな放龍…今ここで死んだらこの世界を悪魔の権力及び洗脳電磁波攻撃から誰が守るというのだ?放龍の運命やいかに…
「フハハハハハハハハハハハハハッ、他愛もない。皇国に楯突く者は皆こうなるのだ。地獄で後悔するがいい、もう遅いけどなフハハハハハハハハハハハハハッ!」
アンカーギーは勝ち誇った表情を浮かべ高笑いする。ウキウキな気分でクルオナを見つめ言い放った。
「小娘、次はお前がこうなる番だ。皇国に楯突く罪は重い。」
「ひ…だ、誰か…」
威圧する師団長にクルオナは怯える。今にも泣き出しそうになっていた。希望を失った瞳には溢れる寸前の大粒の涙を浮かべていた…。
「こうなるとは一体どうなると言うのだ?」
どこかしら聞き慣れた声が聞こえた。放龍だ、閃光による爆破で起こった煙の中から堂々と立っていた。彼はまだ生きていたのだ!生きていただけではない、なんと無傷であった。
「放龍さん…!」
クルオナの絶望の涙は安堵の感涙へと変わった。その瞳は失われていた希望を取り戻しキラキラと輝いていた。
当然倒したつもりになっていたアンカーギーには腑に落ちない事態である。彼は青筋立てながら取り乱した。
「何故だ、何故貴様が無傷で突っ立っている。お前はさっき我が魔法でくたばったのでは…?」
「どうやら、お前が魔法と思っていた物は単なる電磁波攻撃に過ぎなかったようだ。胸元を狙ったようだがこのアルミホイルが俺を守ってくれた。」
放龍の胸元には薄い焦げ跡が残っていた。アルミホイルを何重にも巻いている内の表面にのみ跡がついているだけだった…。
「そんな馬鹿な…あんな紙切れのようなものなのに?」
「同じ事は二度も言わん。貴様の電磁波攻撃なんちゃって魔法もなどもはや子ども騙しにすぎん、次は俺から行くぞ!」
放龍は数多ものジャブを繰り出した。
それを読み取ったアンカーギーは次なる魔法を唱えた。
「防壁魔法"真空防打"!」
真空防打は空気に圧力を加え個体のように固くする魔法である。一説には水蒸気を冷やして一時的に氷にしているという説もある。
「なんだぁ、そのパンチは?軽すぎて跳ね返されそうではないか、フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」
またも高笑いする師団長。しかし、次に放龍から言われたセリフを聞き表情をガラリと変えるのであった。
「お前、ジャブを知ってるか?もちろん聖闘士の名前ではないぞ。軽く威力も少ないがボクシングでは基本の攻め技だ。」
「だから何だというのだ?」
「つまりは、ただの小手調べよ。」
「なぁぁぁぁぁぁにぃぃぉぉぃぃどぉぉぉぉぃ!?」
放龍は敵の守り手段を探るためあえて威力の控えめな攻め方をしたのであった。その時に張り巡らせられた防壁の急所を探っていたのだ。
驚愕のアンカーギーを前にし放龍は使い古したアルミホイルの塊を取り出した。それを野球のピッチャーのように構え、師団長に向かってストレートを決めた。このストレートはボクシングではなぐピッチングの方だが塊が防壁に当たった後、防壁は粉々に砕け散った。
「…………………なっ!?」
「どうやらこの壁も5Gによるハッタリだったようだ。これでトドメだ、くらええええええ!!」
放龍の拳はアンカーギーを目掛けてスクリューをかけながら突き進んでいった。
師団長はもはや見つめる事しかできなかった。
「もはや魔法が通じない…これは、もしやあの魔法を封じる伝説の技"魔断拳"ではなかろうか!?どうやってかわすぉぉぉぁぁぁぃぁぁぁぁぉぁあま!!!!!」
放龍の拳がみぞおちに当たった。師団長は血を吹きながら突き飛ばされ爆散した。
長きに渡る因縁の試合は放龍のKO勝利で幕を閉じた。しかし皇国との争いはここから始まったのであった。
「やりましたね、放龍さん!」
「いや、俺は大したことはない。また俺はアルミホイルに助けられた。魔断拳か…これは今度からそう呼ぼう、勝手に名乗るがな。」
二人が喜びに浸っている間にシンジェロはニケェ、タローアと通信魔法によるリモート会議をしていた。
「シンジェロ、今度の敵はどう思う?」
「アンカーギーがやられました。これはとても警戒すべきと考えます。」
「ほう。」
「だからこそ…」
「だからこそ?」
二人がシンジェロの次なる言葉を待っている。そして二人は驚愕の答えを聞くことになる。
「警戒しようと思っている。」
アンカーギー師団長の仇を取ろうと雑兵達が放龍を襲う。しかしその中には臆病で今にも泣きそうな少年の姿が、なぜ彼は怯えつつも兵隊に加入したのか?そこにはウヨー自由主義皇国の下賤な体質があった。
次回「立ち上がれ少年よ 打ち破れ地獄の酔拳」にご期待下さい