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23話 畜生の制裁 放龍よ、闇に沈む悲鳴を聞け!

諸事情により一時連載見合わせをしてましたが連載再開致します。


 皇国内に潜伏する放龍の命を狙う政府の刺客オヤムダスが雑兵を連れて放龍の行方を追い皇国内を探り待っていた。


「草の根を掻き分けてでも見つけ出せ、アベル閣下の命は絶対だぞ!」


「おう!」


雑兵を散らばらせたオヤムダスの目の前に車椅子に乗った一人の青年が映りこんだ。


「ぬ、あいつは…」




 時を二人が子どもだった頃に遡ろう、オヤムダスは一人の少年を他の子供達とともにいじめていた。


いじめられていた少年は生まれつき障害があった。抵抗するにもまともに体を動かせず、されるがままであったのだ。


そのいじめの内容はただ暴力を振るわれる、暴言を吐かれるだけでは留まらなかった。


脅迫による金銭強奪、本人の持つ物品破壊、ありもしない悪い噂の拡散、他人の金銭入れを本人のかばんの中に入れて窃盗の冤罪をなすりつけ、複数で集まりリンチ、汚物や小動物の死骸を食べさせるなど下劣かつ卑怯な畜生にも負けずとも劣らない非道を働いていたのだ。


 その被害を受けていた少年こそ、今オヤムダスの目の前にいる車椅子の青年なのだ。


彼は大人になりオヤムダスのいじめを受ける日々から解放されてもなお、後遺症を患い強いトラウマによりまともに働けない体になってしまった。


オヤムダスは彼に死ぬまで解けることのない苦しみの呪縛をかけたのだ。幾度も幾度も日を越しても彼の心が完全に癒やされる事はなかった。



 ただ後遺症は時が経つにつれ軽くなっていった。長らくは外に出ることすら拒絶をしていた青年だったが、最近では軽く出かける事は可能になった。体も回復したら社会復帰も可能だろうと精神科からも言われた。


その矢先である。青年は不幸にも自身の人生を狂わせたオヤムダス本人と出会ってしまったのだ。



「よう、久しぶりだな。お前が相応しい惨めな格好になってまた出くわすとはな…」


「あ、あぅぁ………」


 青年は全身を震わせ恐怖した。なんせ自分を狂わせた恐怖の悪魔が目の前にいるからだ。子どもの頃に味わった辛い記憶が次々と蘇る、そしてその時に心に湧いた恐怖、悲しみ、苦しみ、そしてオヤムダスの行いに対する怒りと怨みが一斉に彼の頭によぎった。


言うまでもなく彼は発狂しそうな状態であった。


 その時、この場に放龍が通りがかった。 放龍はオヤムダスの様子を見て異変に気づく、仕草を見るに魔獣師が横暴を働いていると察した。 オヤムダスは放龍の方向を向いて顔を険しくして睨みつけた。


「貴様、さてはお尋ね者の放龍か?」


「その通りだが、やはりあんたは魔術師か?」


「如何にも、我が名はオヤムダス。 放龍よ、幾多もの魔術師を葬った罪は重い。 捌きを受けるがよい!」


 オヤムダスは宙を高く飛び滑空するように飛び蹴りを繰り出した。 しかし、俊敏性の高い放龍は瞬時に交わした。 目標を捉えられなかったオヤムダス、粘るように二の手三の手を繰り出す。 素早い手刀の連続打ち、放龍は一つ一つ避けて攻撃の機会を伺った。


「フン、小癪な奴め。 だが俺は手刀だけではないぞ!」


 オヤムダスは次に回し蹴りを連発した。 ボクシングでは普段使われない箇所から攻撃が来る。 慣れない方向から来る攻撃にも関わらず、放龍は避けきり御見舞にジャブを一発叩き込んだ。


「ほう、武術の方は立派だな。 だが、お前はまだ先天性の運動神経に頼り切っている。 これでは己より弱い者にちょっかい出す程度しかできん」


 放龍はオヤムダスをおちょくるように囁いた。 負けじとオヤムダスも言い返す。


「フン、アンタは中々の経験を積んだというのか? 素人では避けきれない技を躱すくらいはしてくれるが如何ほどに立派と言うのだ?」


「俺も侮られたものだな。 確かに俺は立派ではないかもしれない、親に無理やりボクシングの世界に入れ込まれた身分。 キックボクシングではないからお前のような蹴り技を使う奴はいない世界だ。 だが、その世界の者共は貴様らとは覚悟が違う。 心の持ち方が違う、技の磨き方が違う、体の鍛え方が違うのだ。 いつ死んでもいい、そんな心を持ち合わせている。 利権に甘えて生きてきた貴様なんかより遥かに恐ろしき存在と言えよう!」


「何を小癪なぁぉぉぁぁぁぁぉお!!!!れ!」


「甘い、雷鳴百連打!!!!!」


 放龍の言葉が癪に障り、闇雲に突っ込んできたオヤムダスの隙を付き放龍は雷鳴百連打を叩き込んだ。 雷鳴百連打とは素早くジャブや右ストレートを打ち出し相手の体勢を壊す技だ。 これを使えるボクサーは世界でも素早く強いストレートを繰り出せる放龍だけと言われている。 受けたものは雷にでも打たれたような程にショックを受ける事からそう呼ばれるようになった。


「ぐおっ、小癪な奴め覚えてろ!」


 どうにか躱したオヤムダスはそそくさと急いで逃げ出した。 オヤムダスを退いた放龍が車椅子の青年の元に近寄った途端、彼は大声で悲鳴を上げた。






「ウワァぁぉァァァァァァァぉ!!!!!!!!」




「最近は落ち着いて引きこもりから立ち直ってきたのに、本当に運の悪い子……」


 その後に青年の家に戻り、一行は彼の母親に過去の話を聞かせてもらった。 クルオナは気分悪そうな程に眉をひそめながら話した。


「なんて酷い話、人生を潰す程にまで身勝手な事をするなんて……」


 青年の家族に同情するようにエデアも囁く。


「こんな奴が政府とつながる身分になるなんて、この国はイカれてやがる!」



 少年の頃から抱いた野外への恐怖が蘇り、部屋にこもって悲鳴をあげ続ける青年の声を聞きながら放龍は悟ったのだ。 この世の権力者に善人なし、いつも恥もなく他者を蔑む人間ばかり出世をして真面目な者は搾取される。 権力者になった者は、その権力を己の利益のみに使う。 誰ひとり救うことなく……。 理不尽極まりない世の中で我が身を守れるものはただ一人、自分自身のみ。


 放龍はオヤムダスと決着をつけることを心に誓うのであった。 そして青年の無念を晴らし、彼が立ち直り安心して外出できるようになる事を祈った。



 そして翌日、オヤムダスが来るであろう場所を予想し単身でその地に来た。 オヤムダスの狙いは放龍の命ただ一つ、言われなくても放龍の元へ訪れるだろう。 寧ろ狙いのものが自らやってきたら本人には好都合といえよう。


「オヤムダス、来るなら来い。 貴様の狙いは俺だろう? 正々堂々と相手になってやろう!」


 そうすると、吹く風が起こした砂埃をかき分けるようにオヤムダスが姿を見せた。


「よう放龍、飛んで火に入る夏の虫とは貴様の事だったんだな。 しっかりと首は洗ってきたか?」


「言われなくても毎日、風呂に入らないと気が済まないタチでな。 貴様こそ返り討ちにダウンされる気でここに来たのだろうな?」


「ほう、大口だな。 そんな事より、お前はあいつの家族にあったのか?」


「そうだが、何だ?」


「マヌケな奴らだよな、俺の事が怖ければさっさと引っ越せばいい。 この地にこだわるばかりに愛する我が子が臑齧りの穀潰しになるんだもんな。 親子愛のつもりか能無しの為に親子共々人生を無駄にするなんて馬鹿は遺伝する物なんだな、蛙の子は蛙とはよく言ったもんだ」


「もういい、喋るな。 貴様は人の痛みを知らんようだな。 ならばその身に直接教えてやる!」


 放龍は高笑いするオヤムダスを激しく睨みつけた、そしてオヤムダスを討つ決心のファイティングポーズを構えるのであった。


 オヤムダスは以前と同様に素早く回し蹴りを連打して仕掛けてきた。 それも先日よりも鋭く早い物だった。 何発か放龍に当たる。


「フン、食らってばかりではないか。 よくそれで大口を叩けたものだ」


 あいも変わらず何発も繰り出される回し蹴り。 しかし一発だけ半端な形で放龍の左半身に当たる。 これは絶好のチャンスであった。 その勢いで放龍は身をかがめ、その反動で素早いカウンターの右ストレートを繰り出した。


 しかし、オヤムダスはその動きを読めていた。 瞬時に左手を開き放龍の右ストレートを受け止めたのだ。 


「この程度で反撃のつもりか? 下らない、その緩い手でやられるほどヤワではないわ」


 だが、オヤムダスは気づいていなかった。 これも放龍のし掛けた罠だったのだ。 オヤムダスが言葉を放った瞬間に目にも留まらぬ素早さで左フックを打ち出した。 その拳はオヤムダスの頬に当たり、何本もの歯をへし折ったのだった。


 オヤムダスは5メートルほど吹っ飛ばされた。 意識朦朧の中やっとこさ立ち上がるオヤムダスの瞳に映るのは、威風堂々とファイティングポーズを構える放龍であった。 もはや彼は戦術を考える余裕もない。 ただ目の前の男を倒す、それだけしか考えられない程であった。


「貴様許さねぇぞ!!!!!」


 無鉄砲に殴りかかろうとするオヤムダス、しかし鳳龍は左アッパーを仕掛ける。


「うわぁぁぁぉぁぉぉごぁ!!!!!!!!!!」


 見事にそのアッパーカットがオヤムダスのチンに直撃する。 放龍が拳を突き上げた時、風に吹かれた紙切れのようにオヤムダスは吹き飛ばされた。


 その後、オヤムダスは近場の肥溜めに落ちた。 刺激の強い臭いを漂わす糞尿の沼に一人、沈んでゆくオヤムダス。 偶然に通りかかった二人の兵士を見つけ大声で助けを呼びかけた。


「頼む、助けてくれ! 臭い、臭くて死にそうだ、早く!!」


 しかし日頃の行いが故か、兵士達は助けるどころかそっぽを向き去っていった。 後に一人が大きめの石を持って戻ってきたが彼は助けるつもりもなく、その石をオヤムダスの顔に向けて投げつけた。


「ぐわわあわあわおわおわあ、お前許さないからなぁ! 覚え……て……ろ……………」


 石の重みに耐えられず肥溜めの底に沈んでいったオヤムダスは糞尿を喉につまらせて窒息し、そのまま息を引き取った。 非常に無様な死に様だったと言えよう。 一人の人生を潰し、更には権力を乱用して数多の人を苦しませた彼には相応しい死に方であった。



 戦いを終え、皆の元へ戻った放龍。 一人の基本的人権を蔑ろにした畜生が一人、世を去った所で政府の陰謀は終わらない。 また次の戦いが放龍達を待ち受けるのであった。


 唸れ、龍の拳! 巻け、アルミホイル! 明日の命を守るために、勝利のゴングを響かせろ!!

大気中の魔素と体内の魔力を混じらせ放たれるミサイルのような攻撃魔法プリュース、それは時速60〜140kmの速さで鉄の塊がぶつかる程の衝撃があった。 伝説の大元帥コムゾ=イッガの魔の手が放龍と市民を襲う


次回「誤射の隠蔽 悪魔の上級軍師」にご期待ください

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