表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/24

19話 恐怖、妖獣魔術師の怪

※当作品はフィクションです。実在する人物や団体とは一切関係ございません。また、この作品は作者の思想を表したものではございません。




当作品は動画サイトやSNS等でご自由に朗読できます。ただし当作品のリンク、作品名、作者名の掲示を必要とします。

 タガキィ大佐からの宣戦布告を受け皇国へ向かうべくオプサホスを去った放龍達三人は道中、同行したいと名乗り出たミュナンを連れて百万都市セムデイルへと向かった。


 その頃、セムデイルでは魔術師グーンブック=パインドラが派遣され、放龍を待ち受けていた。


「おらゃ!!わいどら客人じゃい、もっと丁寧に接客せんかい!」


「も、申し訳ありません…。」


パインドラは派遣先のセムデイル市長に暴行を加えていた。大衆もパインドラを恐れ見て見ぬ振りをすらばかりであったのだ。


「はっははー、謝って済ませねぇぜ。俺は南方出身で気が短えんだ!」



 そんな中、どこからか高笑いが聞こえてきた。パインドラは気になり周りを見渡す。


「ハハハハハ!オイオイ、気の短さに出身は関係ないだろう?己の醜さを周りのせいにするな小童こわっぱめが!」


 放龍だ、放龍一行はセムデイルに辿り着いていたのだ。市長に理不尽な嫌がらせをするパインドラを小馬鹿にするように嘲笑い、放龍はやってきた!


「貴様、俺を笑い物にしたと言う事は命を捨てる覚悟があると見ていいのだな…?」


「フッ、死を恐れてプロボクサーになるか。いいか脳筋野郎、人をぶっていいのはリングの上だけだ。それ以外で人を殴るやつはただのクズって言うんだ。」


「ほう、俺を愚弄するとは死ぬのが怖くねぇって事だな?」


放龍は悟った、この世界はリング同然の修羅場であると。ルールがあるだけリングの方が安全である…。放龍は全身全霊を持ってパインドラの言葉に答えた。


「この世界で力と力をぶつけ合う、それ自体がリングに上がったと同義とするならば…俺はお前の挑戦を受けよう。リングで死ぬのはボクサーの本望だからな!」


 放龍とパインドラ、激しく睨み合う二人。死闘を始めるゴングは今、鳴らされた!


「有見放龍、俺は貴様を潰す事を命に派遣されたのだ。死ね、放龍!」


パインドラの攻撃をすばやく左に交わし、放龍は大胆に見せびらかされたパインドラの左横腹に右ストレートをかました。


「ぐほぉ!」


パインドラは痛そうに振る舞う。しかし放龍はその事に違和感を抱いた。


『おかしい、こいつの体は並々ならぬ程に鍛えぬかれている。今のストレートはモロに当たったものの大して痛みは感じぬはずだ…。』


 野次馬大衆が歓声を上げて盛り上がっている中、敵の動向を放龍は伺う。


パインドラは痛がる素振りをしながら吐き捨てた。


「うおおおおいいてーじゃねぇか。お前許さねぇからなぁ!」


しかし放龍は冷静にパインドラを見つめ言い返す。


「フェイクはやめろ、貴様に通じてない事はわかっている。」


放龍に見透かされた事に苛立ちを顕にしたパインドラは、とうとう正体を現した。


「ぬおおおん、俺の嘘を見抜くったぁただもんじゃねぇ殺す!」


 そうして、パインドラは真の姿を見せつけた。人間態の頃より屈強な肉体にトゲトゲとした鱗を連ならせていた。


そう、彼の正体はリザードマンだった。立憲主義共和国の魔術師により魔術師の姿をした魔物である。


「俺はパヨン立憲主義共和国の妖獣ようじゅう魔術師、グーンブック=パインドラだ!」



 彼がそう豪語した瞬間、野次馬となっていた大衆は冷えついた。その中からちらほら声が聞こえていた。


「妖獣魔術師?そんなデタラメな…。」


「実在したのか…。」


「ビョリー神話に出てくる伝説の生き物ではなかったのか…?」


このウヨーとパヨン両方に伝わるビョリー神話では、妖獣ようじゅうと呼ばれる魔物が魔術師の皮を被り人間の世界で悪さをする存在がいた。その名を妖獣魔術師と呼んだ。多くの市民は、それを存在しえない伝説の生き物として認識していた。そのためか今回、目の前にいないはずの存在が現れた事により大衆はパニック寸前だったのだ…。


「フン、体の割に屈強な肉体を持ってるなと思えば、こう言う事か?誰が相手であろうがデスマッチを挑まれたら、俺は命をかけて受けて立つのみよ。慌てるな野次馬ども、俺がこいつを仕留めて見せる!」


放龍もまた、決して屈することなく豪語してみせた。パインドラと放龍、二人の命をかけたデスマッチはどちらかが倒れるまで終わる事はないのだ。例え、いかなる不測な事態に見舞われても…。


「覚悟はしかと受け取った、口先だけとは言わせんぞぉぉぉぉぉうおおおおおおおおお!!!!!!!」


「受けてみろ、雷鳴百連打ァァァァ!!!!!」


雷鳴百連打、それは両腕から素早く放たれる無数のストレートを連打する技。その拳はいかづちのように走り、その衝撃は稲妻を受けたような物だと言う。世界にプロボクサーは数多いるものの、この技を打てる者は限られると言われる。


しかし言うまでもない程の頑丈さであるパインドラの身体には、全くと言っていいほど効かなかった。


「無駄だ、無駄なのはお前も分かっているだろう?やられたフリも見透かしたお前なら今の行いは無意味だということくらい…。」


 だが、まだ放龍は一発を残していた。連撃のフィニッシュとなる一撃、その名も魔断拳!


「まだだ、この一撃を受けてみろ、魔断拳!」


空気を切り裂くように、周りの物をなびかせる風を起こす勢いでパインドラの腹に、その一撃は直撃した。


これもパインドラを突き飛ばしつつも、パインドラが立ち上がって話す事も容易くできる程に効き目が薄かった。


「魔断拳、聞いたことあるぜ。伝説の拳豪が使う神話の技だな。だが、このパインドラ様には通じない、それは何かわかるか?お前には神話の再現などできやしないのだ。大人しく降伏したらどうだ?命だけは助けてやるぞ、ハハハハハハッ!」


しかし放龍は得意な事をやってのけるかの様に、清々しい表情を浮かべ自信満々に言い返した。


「残念ながら、これまでの行いはすべて動作確認に過ぎない。これまでの攻撃を無傷で耐えたことは褒めてやろう。だがお前の弱点は見破った。雷鳴百連打を受けて俺に勝った者はいない、お前もその例に漏れない。お前の負けだ。」


「何を強がりをおぉぉぉぉぉおおおぉ!!!!!」


怒りに身を任せ、飛びかかるパインドラ。放龍はそんなパインドラに正面からワン・ツーをぶちかました。


ワン・ツーとはボクシングにおける基本的な技であり、まず最初に左手からストレートを放つ。(この際に放たれるストレートの事をジャブと呼ぶ。)その後に左手を引っ込めると同時に右手からストレートを放つのだ。多くのボクサーは右ストレートの方が威力が高いため、相手との適度の間合いを左手で取り右手から強烈なストレートをかまして奇襲をかける技なのだ。

雷鳴百連打は、このワン・ツーを短時間で多く繰り返す技である。


「ぐぶはぁっ!」


ワン・ツーを食らい突き飛ばされたパインドラ、よろめきながら体勢を立て直す。しかし、その隙まみれなパインドラを見て容赦なく放龍は間合いに入り込んだ。


「行くぞ、アッパーカット!」


「ぬぉはっ!」


放龍が繰り出した左アッパーカットがパインドラの顎を直撃する。パインドラは突き飛ばされてもなお、フラフラになりつつ立ち上がりつつも立ち上がる。


「パインドラよ、何度打たれても立ち上がる姿勢は評価に値する。だがお前は重心が後ろに偏っている。いくら立ち上がっても、それでは隙まみれなのだ。ボクシングでは致命的すぎる弱点だ。プロボクサーどころか、ダイエット目的でボクシングをしている一般人すらお前は勝てん。所詮お前は格闘技をしていない者にしか強がれない、下だけを見て粋がる事しか能がない弱虫なのだ。」


「貴様ァ!もう許さん。お前は俺の逆鱗に触れた。地獄で後悔させてやる。」


パインドラは放龍に向かって口から溶解液を吐いた。

その液体は皮膚に触れると大やけどをし、ひどい場合は骨が見える程に肉体を焼けただれさせる。目に触れれば失明する事は言わずもがな。


その溶解液が放龍の顔に当たってしまった、勢いのあまり放龍はしゃがんでしまう。


溶解液が当たるとボクシングどころか生命に関わる。果たして彼の運命は…。


「フハハハッ、前もろくに見えまい。ざまぁみろ!」


勝ち誇るかのように高笑いを見せるパインドラ。


「放龍さん!」


クルオナ達は大衆の中から一連の試合を見ていた。あの溶解液を受けてしまってはいくら放龍でもひとたまりもないことはクルオナもわかっていた。


急いで駆け寄ろうとするクルオナ達3人。しかし放龍は3人に言った。


「近寄るな、お前たちの出る幕ではない!」


クルオナ達は固唾を飲んで立ち止まる。


放龍は体勢を整え立ち上がる、なんと彼は無傷だった。


「フン、ダーティな事してくれるには生易しい物だな。」


「何故だ、何故貴様は今ので平気でいられるのだ?」


「教えてやろう、お前の溶解液はアルミホイルには効かなかったようだ。それが全てだ。」


そう、放龍は溶解液攻撃をブロッキングしたのだ。溶解液は偶然とはいえ、アルミホイルには効かなかった。溶解液そのものはアルミホイルの部分にしか付着せず放龍は無傷で済んだのだ。


ブロッキングとは、ブロックという言葉でわかる人がいると思うが相手の攻撃を防ぐ戦術である。腕を曲げて顔を覆うスタイルが一般的だ。


「貴様この野郎ぉぉぉぁぉぉぉぉおぉぉぉ!!!!!!!!」


もはや冷静さを捨て、自暴自棄となり飛びかかるパインドラ。そんな隙まみれな特攻も放龍には通じない。


「見えた、飛昇龍アッパー!」


飛昇龍アッパー、それは天に昇り天を翔ける勇ましき龍を描くように、天へ向かい拳を突き上げて繰り出すアッパーカットである。魔術師も絶命させる程に強力なこの技はプロボクサーでも多大なダメージを受ける。半端な実力のボクサーでは十分な受け身もできず大怪我をしてしまう危険なアッパーカットだ!



 放龍はパインドラの隙きを突き、そのアッパーカットで遠くまで吹き飛ばした。

流石のパインドラも顎は粉々に砕け、地面に叩きつけられた時には泡を吹いて絶命していた。


放龍は勝ったのだ、薄汚いトカゲ野郎の横暴からセムデイルの街を守ったのだ。


勝利を称えるかのように、大衆から歓声が湧き上がった。


「やったぞ武闘家!」


「あんたはセムデイルを守った英雄だ!」


「ありがとう、立憲のクソ共をぶちのめしてくれた!」


パインドラからタコ殴りに遭っていた市長は放龍の元へ駆け寄り感謝の意を述べた。


「ありがとうございます。我々セムデイル市民は日々立憲政府の横暴に苦しめられてきました。政府の刺客を討ち取ったあなたの健闘にはセムデイル市民のすべてが感謝をしている事でしょう。」


クルオナ達も駆け寄った。


「心配しましたよ、お怪我はありませんか?治療しますよ。」


「兄貴!最後の一発すごかったぜ〜!」


「流石です、放龍。」


放龍は皆を見つめながら言った。


「あぁ、そんな事より急ごう。エデアの家族が危ない。」


背後に沈む夕日に向かって振り返り、再び歩みだした放龍一行。この道の先にある国境へ向かい一歩、また一歩と進んで征くのであった。


唸れ、龍の拳!巻け、アルミホイル!魔術師による横暴から市民を救うべく、立ち上がれ放龍!




その頃、立憲政府では一連の流れを伝えられたカナトーンとカッツォダーヤが対話していた。


「何!?妖獣魔術師だと?」


「そうなのだ、妖獣魔術師がセムデイルに現れたそうなんだ。」


「知らん、そんな物騒なもの送った記憶はない!」


「あんな物を送れる奴らは限られる、まさか…。」


「あの男が活動再開したというのか!?」


「あぁ…。臭い金問題で政から消えたはずのあの男、オザワルド=イチェロエラだ!」

国境近くへと辿り着いた放龍たちは、なんとしてでもウヨー自由主義皇国へ入り込もうとする。しかし、そこに待ち受けていた恐ろしい魔術師とは…。


次回「心霊傀儡魔術師、混沌の幻影」にご期待ください。


君は、真のポリコレを見たか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ