18話 少女の決意、走れ!統一への一本道
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火炎魔法を得意とする魔術師カエンダ=バリンとの死闘を終えた放龍にセーバの相方、ノーデスが渡した手紙は皇国がエデアの家族を襲撃するというコズミック=シンジェロ参謀からの知らせだった。
皇国は国内の有望な魔術師を招集しエデアの実家を狙うとの事であった…。
「大切な家族は誰一人失ってはダメ。エデア、先を急ごう!」
パヨン立憲主義共和国の魔術師ヒャラオホに家族を殺されたクルオナはこの事を黙って見過ごす事はできなかった。
彼女は家族を失う辛さを知っている。心の底で想いを寄せるエデアには同じ思いをさせたくなかったのであった。
一同はオプサホスを去り、何十キロも離れた南西のセムデイルを目指す。セムデイルとは百万人程の人が住むパヨン屈指の大都市である。
かつてはウヨーとパヨンの二カ国に分かれる前の国、その名もビョリーの首都であり現在は中立都市となっているトムキュンに拠点を置く財閥の支部を多く招致して北東部の経済を支える地方の盟主として栄えた都市だ。
オプサホスからそのセムデイルへ向かう途中、数人の政府からの刺客が瞬間移動したかのように突然と放龍たちの前に立ちはだかる。
その連中は顔を隠すため目元以外に長めの布を覆うように巻いていた。
「我らは政府より派遣された者、貴様らどこへ向かう?」
「フン、隠しても意味がないだろう。セムデイルだ。」
放龍は少しも隠そうとする様子もなく率直に刺客から聞かれた行き先を答えた。
隣で聞いていたエデアは放龍の動きを疑問に思い、割り込むように問い詰めた。
「待てよ兄貴、なんで言うんだ。行き先知られたら後先大変だろ!?」
「落ち着けエデア、どのみちセーバに知られているのだ。あいつは秘密を漏らすマネはしないように見えるが敵対勢力を信用するの危険だ。」
放龍がためらいもなく答えた事により求めていた情報を難なく手に入れた刺客たちは早急に去ろうとした。しかし、タダでは情報を渡さないのが放龍。素早いストレート数連打を決めて刺客を全滅させた。
「うわぁぉぉぁぉあまぉぁぁぉぁ!!!!」
「無償で報酬を得ると思っていたのか?世間知らずめ!」
しかし、何処からか高笑いが…。放龍達の後ろに生えた木の茂みの中にもう一人刺客がいたのだ。
「フハハハハハ、フハハハハハッハ!!!俺を殺しても無駄だ、通信魔法で貴様らの目的を政府に伝えたのだ。せめてお前らには地獄でお付き合いしてもらうぜ!」
その刺客は導火線に火のついた爆弾を抱え放龍を目掛けて突進をしかける、完全に同士討ちを狙うのであった。
しかし、その間に何者かが瞬時に爆弾をはたき落とす。素早い人影が茂みに入り爆弾をどこかへ投げ捨てた。
「何者だあぁぁぁ!!!!」
「そうね、もう誰も私の事なんて覚えてないわね…。」
投げ捨てられた爆弾の爆発を背景に、煙の中に立つ影が一人。煙が晴れ、その姿を表した…。
その者はミュナンであった。スワンパーバーにて放龍達と出会い、ヘムイ団によって人生を狂わされた、あの元アイドルだ。
現役時代、彼女のことを推していたエデアは衝動的に駆け寄って声をかけた。
「ミュナンさん、何故ここに?」
「ミュナンでいいわ、あなた達の事が気になって追ってきたの。」
「こちらも呼び捨てで構いません。ミュ…ミュナン。」
「うふ、ならば敬語も辞めましょう?お互いタメで…。」
二人が打ち解けあってる中、未だに健在の刺客は二人を見るや飛びかかろうとした。すると…
「野暮なマネはよすんだな。」
素早く回り込んだ放龍が左のストレートで刺客をダウンさせた。
一同はミュナンの元に集まり、ミュナンが何故放龍達を追ってきたのか改めて訪ねた。
「何故わざわざ追ってきたのだ?」
「私もあなた達と共に行動したいから…。」
「何故だ、危険な事もわかっているだろう?」
「私だって、もう一度この国が分裂する前のビョリーになってほしいから…。6歳の朧げな記憶ではあれど、あの時は今より平和で皆が笑顔でいられてた。あの時のビョリーに戻ってほしいから…。」
放龍の聞くことにミュナンは、まっすぐな視線で一同を見つめながら自身の思いを伝えた。
彼女の意気込みを受け止めた放龍はクルオナ達に決断を任せることにした。
「よかろう、だがこれは知ってほしい。我々の征く道は正しいとは限らない。この先は地獄への片道切符かもしれない、それでも構わないならば止めはしない。あとは二人の意見次第だ。」
「わかりました。それは覚悟の上でついていきます。お二人方もよろしいでしょうか?」
「おどどどどどど…、俺は歓迎…っ…しまっ…あわあわあわあわ!」
かつてアイドルとして活動していたミュナンを推していたエデアは照れてたどたどしくなりつつも肯定的であった。
対してクルオナは恋敵ともなり得るミュナンの存在が気に入らず否定的な対応であった…。
「へー、アイドルだかなんだか知らないけど戦力になりまして?私は戦闘要因ではないわ。でも回復、防御、通訳、その他諸々…私いなきゃことが進まないほどよ。で、あなたは何ができるのかしら?」
クルオナは完全にお局様と化していた。ミュナンが加わったところで足手まといとなる、そう思わせるために自身の特技を自慢げに語りミュナンを威圧した。
「わ、私だって戦闘方法はあります。魔力でツメを生やしたりできますし、一定時間に俊敏な動きもできます。匂いで人を探知する事も可能です。あと雑用も手伝います…。」
「雑用なんて分担しているし、探知くらいなら私だってできるわ。他の事は本当に使い物になるのかしら?」
頑なにミュナンを認めたがらないクルオナを見て、流石にエデアも割り込むように口を挟んだ。
「そんな意地悪言うなよ!十分心強いスペックだし、クルオナにだって女の子同士でしかできない話しをする相手がいたら嬉しいだろ?」
「余計なお世話よ!そんなにその女と一緒にいたいなら私なんか抜いてその女と旅に出たらいいじゃない、もう知らない!」
「おい、クルオナ!」
クルオナは大声を上げてどこかへと走り去って言った…。
「なによ!あの女の前ではデレデレしちゃって、それでいて私は蚊帳の外。それなのに何が『女の子同士の話し相手』よ、人の気持ちも知らないで周りからいいように見られたいだけでいい一面しちゃって……。あれ、ここは一体…?」
感情的になりエデア達の元を離れたクルオナは、ただただ一人になりたいあまり目的もなく黙々とあらぬ方向へ歩いていた。
そのためか迷子になってしまい、街の方へ出る道を見失っていた…。
「どうしよう、私とした事が…。」
クルオナは感情に任せて特に考えもなく衝動的な行動をした自分自身を激しく憎んだ。
自分がもう少し冷静でいたら起こすことのなかった失態をしたのである。魔術師士官学校の成績はよく、自己評価を高くしても周りは文句を言わない、そんな彼女にとってはとても悔しい過ちをたった今犯してしまった。そんな自分に嫌気をさしていたのだ…。
曇り空が濃くなり、大粒の通り雨が降ってきた。このままでは風邪を引いてしまう。野ざらしで風邪を引いてしまっては命に関わることになる…。
クルオナは慌てて雨宿りできそうな場所を探した。そして野道の脇にある木々が生い茂る森林へと入った。
彼女は背が高い広葉樹の枝の下に座り雨が止むのを待つことにした。受ける雨は少ないが、屋根があるわけではない。枝の隙間から、ぽつりぽつりと滴る雫がクルオナの身体に溢れる。木の下に着いた頃には彼女の衣服はびしょびしょに濡れきっていた。
「寒い……このままじゃ私………。」
クルオナの体温が下がりうずくまった時、他にもいた共和国の刺客が彼女の元に忍び寄った。
「小娘、ヒャラオホが葬った家族の元に連れて行ってやろうか?」
「ひゃ、いやぁぁぁ!!!!!」
奇襲されたクルオナの悲鳴は、失踪した彼女を探すエデアの元に聞こえた…。
「この声は…クルオナ!?」
しかし、彼はクルオナの元から遠い場所にいた。走ったところでクルオナを助けることは絶望的なのであった…。
だが、彼女は無事であった。何者かが襲い来る刺客を物陰から攻撃し倒したのだ。
「以前も言いましたが、私は若い女の子が傷つけられる事が一番嫌なんですよ。」
その者はなんと、皇国参謀のコズミック=シンジェロであった。一般人に成り済まし共和国内に潜伏し、放龍達の動向を監視していたのだ。
「クルオナさん、今すぐ皆の元に戻りなさい。我々としても貴方に死なれては面白くないんです。」
「はぇ………。」
「これはいけない、風邪を引きかけですね。この先に洞窟があります、そこで暖を取り服を乾かしなさい。タオルと毛布を渡してあげましょう。」
シンジェロは防水性に富んだ布に包まれた状態の毛布とタオルを渡した。クルオナは素直にそれを受け取りながらシンジェロに訪ねた。
「どうして助けたのですか?」
「それは貴方が召喚獣の放龍にとって欠かせない存在だからですよ。」
「ならば余計、ここで助ける必要なんてありませんよね?」
「何をおっしゃります、我々は放龍の首を皇国で討つ事に意味があるのです。こんなところでくたばってもらっては困ります。」
「何故そこまで放龍さんに固執するのですか?連れのエデアの家族を殺そうとしているのに…。」
「それはタガキィ大佐が勝手に仰った事、私はそんな意図ございません。あくまで放龍を倒したらを報酬を8:2で分け合う事を条件に協力したばかりです。タガキィはどう思っているかは存じかねますがね。」
「何故手紙をセーバ達に渡したの?」
「彼への監視は共和国も厳しく行っております。近づくのもままならない中、共和国において皇国の重役の話を落ち着いて聞いてくれる方は限られてますので…。」
「両国を騒がせているのですね…。」
「ビョリー統一と言うのは、それ程に危険な目標なのです…。ですが私もそれを志す方々の活躍を見たいものです。健闘を祈りますよ。」
それを言い残して参謀は闇の中に消えていった。
残されたクルオナは参謀から聞かされた洞窟へと向かった。
その道中、悲鳴を聞いて駆けつけたエデアと遭遇した。エデアはクルオナに出会い次第、身元の安全を確認した。
「クルオナ、クルオナだよな?悲鳴聞こえたぞ、大丈夫だったのか!?」
「来るのが遅いよエデア、あなたの国の参謀が助けてくれましたよ。」
「シンジェロ参謀が?一体何しに…。」
「さぁ、でもいいじゃない。そこに洞窟があるから雨宿りしましょう、このままでは風邪を引いてしまいますよ。」
二人は洞窟に入り、暖を取りながら雨宿りをした。クルオナは濡れきった服を急に脱ぎ始めた、エデアはそれに気づき慌ててそっぽを向いた。
「ク、クルオナ!何やってるんだよいきなり…。」
「仕方ないでしょ、服が濡れてるんだよ。見て、絞ったらこんなに水が…」
クルオナは脱いだ服を絞りだすと、ペットボトルをひっくり返すかのように音を立てて溢れだした。
「やだ、びしょびしょ〜。ねぇエデア見て見て凄いよ!」
「いや、服を脱いだ女の子を見るなんてできるかよ!」
「もう、エデアはスケベだなぁ…。下着くらいつけてますよ〜。もしかして童貞くんは下着も見れないの?」
「下着でもダメだろ!」
エデアは恥ずかしがって目を合わそうともしない、クルオナはそんな彼を面白がって更にからからった。
「下着も濡れちゃってる…。脱いじゃえ!」
「………ッ!?」
普段はこのような事をしないクルオナだが、今は羞恥よりもエデアが完全にミュナンの方へ行くかもしれないという焦りのほうが勝っていた。
自分はたとえアイドルのように愛されなくても、せめて結ばれるのは自分であってほしい。そう思っていた。
エデアが劣情に負け、理性が効かなくなり一線を越える事になってもクルオナは受け止めるつもりでいたのだ…。
「エデア、あなたも服がびしょびしょじゃない…。」
「いや…俺は大丈夫…。」
「何馬鹿言ってんの、風邪引いたら誰が看病すると思ってんのよ?」
「いや…」
「いいから脱ぎなさい!」
エデアは下着のみ、クルオナはタオル一枚だけ巻いてデリケートな部分を隠している。両者とも妥協を際どい姿であった。
「このタオル、少し小さめだけど恥ずかしい所を丁度隠せるわ!」
「丁度ってギリギリじゃねえか!恥じらいて物はないのか?」
ここに来て観念したのか、極部が見えなければいいかとエデアはクルオナを見つめるが、彼には刺激的であった。
「……恥ずかしいよ。でも今はそんな事、言ってられないから…。」
エデアは服を脱ぎ暖で乾かさないと風邪を引いてしまうからかと思ったが、クルオナはそのような程ではない想いを込めていた。
「ねぇ、毛布あるから一緒に入ろう?これで体を温めて…ギュってして?人の体温を上げるには、人の温もりで温める事が一番効果的なの…。」
「え?」
「ねぇ…寒いよ…。」
「わかった…。」
言われるがままに毛布で自身とクルオナをくるみ、火の近くで彼女を抱きしめてエデアはうずくまった。
「エデア、あなたはバカだし頼りないしおっちょこちょいだけど…誰よりもあなたは温かい。」
「良かった。そのあたりの強さ、雨にうたれて頭が冷えたのか?いつものクルオナに戻ってるじゃねぇか。」
「何よそれ、ふふっ。あなたがそばにいる時はいつも心が温まるの…。なのにミュナンといる時、あなたは私をはみ出し者にして…辛かったんだからね…。」
「そうか、だからあんなに取り乱して…すまない。でもクルオナ、俺から見たらあんたが急に殻に閉じこもって見えるんだ。蚊帳の外になりたくなければ、あんたも俺やミュナンにあわせてくれ…。」
「わかってるわよ、でも難しくて…。」
洞窟の外は相変わらず雨が強く、雷も鳴っていた…。雨により探知が難航していたミュナンは一度放龍の元に戻り現状を伝えた。
「放龍、二人とも見つからないわ…。」
「安心しろ、あいつらは必ず戻ってくる。」
エデアとクルオナは、まだ寒さに怯え洞窟から動いてなかった。
「ねぇ、もっと強く抱きしめてよ。すきま風が寒いの…。」
「………あぁ。」
しばらくして通り雨は過ぎてゆき、外は次第に晴れてきた。ミュナンは捜索を再開して、ついに泥濘んだ地面にあるクルオナの足跡を見つけた。
その頃、クルオナは顔を赤らめてエデアに顔を近づけた。エデアは戸惑うばかり…。
「ち、近い…。」
エデアの様子を気にも止めず、ただ真っ直ぐクルオナは顔を近づける…。
「二人とも、何をしてるの?」
ミュナンが洞窟を見つけ入ってきた。クルオナは羞恥心を取り戻し急いで顔を毛布にうずくまらせる。
「いや…キャッ!」
エデアも慌てて弁明をする…。
「ち、違うんだ…クルオナが風邪引くと悪いから…そう…。」
ミュナンはくすりと笑い、二人に早く帰るよう諭した。
「放龍が待っているわ、外も晴れたし待っているから服を着てきなさい。」
放龍は座るには程よい岩に腰掛け、皆の帰りを待っていた。クルオナは戻ると信じていた。
そのうち、放龍の思った通り3人は戻ってきた。クルオナは放龍を見かけるや駆け寄り頭を下げて謝った。
「私の一時の感情でご心配かけてごめんなさい。ミュナンの探索能力により無事に帰れました。私も彼女の同行を認めます。」
一同は歓迎ムードに包まれた。そんな中、ミュナンはクルオナに小声で囁いた。
「あなたって結構、積極的なのね。」
クルオナはこれをツンとした素振りでそっぽを向いた。
そしてエデアは洞窟の中の事で頭が一杯だった。
「まさか、クルオナが俺に…?ないない!」
三人の様子を見た放龍は何か進展があった事を察した。
だが具体的には触れない事にしたのだ。放龍にとって、これはお手上げな話である。
なんせそこには、どんなボクサーや魔術師でも敵わない強敵がいるからである。流石の彼も歯が立たない、そう思い生暖かく見守る放龍であった…。
コズミック=シンジェロからの手紙により急いで皇国にあるエデアの実家へと向う放龍一行、しかし路中の都市セムデイルに放龍を待ち受けていた共和国の魔術師グーンブック=パインドラが行く手を阻む!パインドラは放龍と戦う中で突然と姿を変えた!?
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