16話 追求!オプサホス発信所事故の真相
急な事情によりサブタイトルを変更しました。
長旅の末、共和国北東部の小さな町ツヴァリーフに辿り着いた放龍一行は隣町のオプサホスから来た移民がゾンビ化する現象を耳にする。2つの町の住民がお互いを警戒しあう中、共和国政府の関与を疑った放龍はすべての元凶であるカエンダ=バリンと遭遇する。当初は火炎魔法に手こずるも、駆けつけたクルオナとエデアの支援により形成逆転する。
風向きの悪くなったカエンダ=バリンはオプサホスへ慌てて逃げ帰るのであった。
オプサホスへ逃げ込んだカエンダ=バリンは立ち入り禁止区域となって数年間放置され廃墟と化したオプサホス市役所へ戻り作戦を練り直す事にした。
そこには様子を見に来たセーバ=ラマージとレポーンもいた。
セーバはカエンダが怖気づいた事に笑いながら言いつけた。
「ハハハ、やはり放龍は貴様ごときが手に負える程の者ではなかったな。粋がりながら怖気づくなど無様にもほどがある。」
「黙れ、貴様こそ何度でも作れる剣が折られた程度ですぐに退いたフヌケではないか!」
小馬鹿にされていることに憤るカエンダは、セーバがヒャラオホ=ダナンの件で戦闘放棄した事を言及した。
しかしながら、それはセーバ自身の持つポリシーの都合である。その為、カエンダが感情的になり撤退した事とは話が違うのだ。その発言にはセーバも黙るわけがないのだ。
「馬鹿め、俺は契約に沿ってポリシーを守っただけだ。貴様のようなビビって逃げ出した間抜けとは違う。」
セーバとの会話に苛立ち、カエンダが感情を爆発させそうな時に水を差すようにレポーンが口を挟んだ。
「やめろ、情けないぞカエンダ。男なら自分で言ったことをちゃんとやれ、男に二言はないだろ?」
女魔術師レポーンはミサンドリーの気質があり、すぐさまこのような口の聞き方をする。夫婦同姓を忌み嫌い、分裂前から義務付けられていた事に異を唱え夫婦別姓化を訴えてきた。その為にかつての夫を公の場にて名字で呼び捨てにした事があり、皇国の民から反感を買ったこともある。
常に上から目線の彼女もセーバ同様にカエンダを小馬鹿にする。
カエンダが頭に血がのぼらせ、言葉を詰まらせてしまった時に口論の中に何者かが割って入る。
「待ち給え、貴様らの出番がないからと八つ当たるでない。」
声の主はカナトーンである。市役所の窓をモニター代わりに映像化した通信魔法でカエンダ達に連絡しにきたのだ。
「冷やかしに来るなら帰ってくれ、ここはカエンダに任せてみないか?」
その頃、放龍は泊まっている民宿でクルオナにカエンダを討つべく一人でオプサホスに向かう事を伝えていた。
「クルオナ、俺はオプサホスへ向かう。奴を放っておいては大事になる。」
「何言ってるんですか、立ち入り禁止区域なんですよ?もう少し落ち着いてください!」
当然ながらクルオナは待ったをかける。彼女にとって仲間が危険区域に立ち入る事など、みすみす見逃せるような事ではなかった。
「しかし、俺が行かずして誰がやるというのだ?それに、あいつはもうこの町には来ないだろう。あれだけの数に顔を見られて再び顔を出すとは考えにくい。」
この放龍の問に対し、クルオナは衝撃な返答をする。
「どうしても行くというのであれば私も付いていきます。一応、あの辺一体に流出した危険物質の魔導エナジー専用防護魔法も用意できます。それも三人分!行くわよね、エデア?」
「おう!このエデア16歳、命に代えてでも付いていくぜ。ちなみに少年兵として、あのような危険区域を探索できるように防護魔法も使える訓練もしてあるぜ!」
二人が乗り気な事が放龍には想定外だったため、顕にはしない程度に少し驚いた。
「いいのか、自分らが危機にさらされるのだぞ?」
「気にしなくていいんです。そもそも一人で行くより安全だからついていくのですよ?」
「一人より二人、二人より三人だぜ兄貴!」
「ふっ、そうか…。」
またこの二人に助けられる、そう思いつつも心の底では心強く思っていた放龍であった。
「あ、そうです。この天!才!魔法少女のクルオナは流出した魔導エナジーを感知する魔法も使えるんです!」
「感知魔法、なぁにそれぇ…?」
「エデアは16にもなって知らないんですか?流石は筋肉バカと言ったところですね。危険物質と言われる魔導エナジーと言えど、そもそも何もない場所でも身体には影響がない程度に溢れているんです。810MdBに達していなければ人体にほとんど影響はないと言われております。ちなみに危険値は1919MdBとされています。そこに到達すれば周辺一体を立ち入り禁止区域にされ、防護魔法を使わないと立ち入れなくなります。えーっと、ちなみにここは364MdBなので魔導エナジーに敏感な体質の人でも全く影響がありませんね!」
MdBとは危険物質でありながら発電などに使われる魔導エナジーの指数を表す単位である。クルオナの説明の通り多すぎては危険ではあるが完全に魔導エナジーが存在しない事はないため0になる事はまずない。主に810MdBに達したら警戒値とされる。過敏な体質ではない限り生身でも目立った影響はないとされている。1919MdBに達するといかなる人体でも悪影響を及ぼすとされ防護魔法を使用しない限りその空間にいてはいけないとウヨーとパヨンの両国では指定されている。
放龍達がツヴァリーフの北部にあるオプサホス市へ向かった頃、カエンダは瓦礫の上に座り作戦を考えていた。
オプサホスで魔導エナジー発信所が事故を起こしたのは6年も前の話である。魔導エナジー量が危険値に達していた事が発覚し、即座に立入禁止区域に指定されてから多くの建物は補強工事される事もなく放置されていた。その間、台風や地震なども襲い多くの建物は激しく劣化し民家の殆どは瓦礫になっていた。
そんなオプサホス市のかつて住宅街であった所でカエンダは一人、放龍攻略を考えていた。
そこにセーバが突然と姿を見せた。セーバは一人で過ごしているカエンダに声をかけた。
「一人になってそこで何をしている?」
「作戦を練っている、邪魔をしないでくれ。」
ひりついた表情を浮かべ、カエンダは返事をした。
その様子を見たセーバは目を閉じて呆れたようにカエンダに物申した。
「どうせ放龍の攻略でも考えていたのだろう。無駄だ小童、お前では奴に勝てん。今すぐカナトーンに頭下げて作戦の責任者から降りる方が身のためだ。」
「黙れ、奴はここには来れまい。どうせウジウジしながら何処かへ行くだろう、その隙を狙って…」
おちょくるような言われ方をされカエンダは青筋を立てながら怒鳴り散らした。
しかしまたセーバは完全に呆れきってため息をつき言い返した。
「甘いな、奴はここに来る。目標がいて立ち入るなと言われたら素直に聞くほどの男ではない。そしてカエンダ、そのすぐカッとなる癖を直さない限り先に隙を突かれるのはお前の方だ。まぁ待ってろ、時期に奴は来る。」
セーバそう言い残しどこかへ去った。
放龍達はオプサホスとツヴァリーフの境目へと到達した。辺り一面、芝で覆われた野原の中に立入禁止と書かれた看板が立っていた。その後ろには木製の柵が横にどこまでも続くかのよう立てられていた。
「クルオナ、ここの魔導エナジー量はどのくらいだ?」
「はい、只今334MdBです。先程より下がっていますがこの辺は一応、安全地帯なので…。ここから先は十分な注意が必要です。」
「そうか、防護魔法はもう付けた方がいいか?」
「ですね、放龍さんの分は私が付与します。エデアは自分で唱えますか?」
「当たり前だ、防護魔法発動!」
「すごい、あなたの様な人でもこんな精度の防護魔法を唱えられるなんて…!」
「一言多いぞクルオナ…。」
一同は防護魔法を唱えた後、柵を乗り越えて内部に侵入した。まずは草木が刈られ、人や馬車、牛車が通れるように整備をされた道路をひたすら走り抜く。そしてカエンダが潜伏しているであろうオプサホス中心部を目指すのであった。
柵が敷かれていた位置から約2キロ離ると、もはや森林とも言える程に草木が茂った場所があった。
立入禁止区域にされ誰も手入れしなくなったため、草木に侵食され森林のようになってしまったのであろう。
エデアも思わず驚きの言葉を出してしまった。
「はえー。進めば進むほど草木の背が高くなっているから覚悟はしたものの、ここまでとはね…。」
「あぁ、まさに大自然の底力と言えるものだな。クルオナ、今の魔導エナジー量は?」
「514MdBです。いよいよ本格的に数値が上がってきましたね。」
放龍に数値を聞かれたクルオナも、上がりゆく数値を目の当たりにして張り詰めた固い表情を浮かべ頭から顔をつたった汗も垂らしていた。
放龍も彼女の様子を見て慎重になった。ここから先へ迷わず進むべきなのか、彼はクルオナの顔を鋭い目つきで見つめ無言で問いかけた。
クルオナは放龍の抱いた疑問を察し、深くコクリと頷いた。クルオナとしても、今は進むべきと言う考えであった。
一同は森林を通り抜けることにした。そして、改めて中心部を目指すのであった。
森は放龍たちの想像以上に生い茂っていた。まさに大自然の偉大さを思い知らされる程であった。
古来よりこの周辺に住んでいた人民は放っておいても木々が育ち、果実や山菜が豊富に取れるこの環境の中でシカやイノシシを狩り生活しており農業がなくとも食べ物を採取できる恵まれた土地だったという。それを裏付けるような光景であった。
「ほんの数年でここまでになるなんて…。大自然の力ってすげー!」
エデアは森を見て戸惑いつつも関心してしまう。
森の中を駆け抜けている道の途中、セーバが立っていた。放龍たちはセーバの様子を見て足を止めた。
「何用だ、セーバ?」
「これといった用はない。ただ忠告はしておく、この森にはカエンダの刺客がいる。まぁお前程の者には不要な忠告かもしれん。森を抜けて道なりに進めばカエンダはいる。それでは健闘を祈る。」
「待て、なぜ俺達にその事を教える?」
「それは簡単な話だ。お前の首はこの俺が取る、他の奴らの手柄にするわけに行かないからな。カエンダは腰抜けだが厄介だ、くれぐれも気をつける事だな。」
放龍からの問に答え、セーバはすれ違いざまにカエンダの刺客を斬り倒し去っていった。
その姿を見届けた放龍も背後から襲ってきた刺客の方を瞬時に振り返り左ストレートを決めて倒した。
「気をつけろ、刺客はゴロゴロいるようだ。」
一同の緊張は高まった。放龍達は進むに連れ刺客を一人、また一人と倒しつつ進んでいった。
オプサホス市街に転がる瓦礫の上に座っていたカエンダは森の方角を見つめ一人でせせら笑う。
「放龍は来るか?刺客をあれだけ忍ばせたんだ、もうくたばってるに違いない。」
しかし、彼の予想は外れたのだ。カエンダが見つめる先に三人の人影が見えた。
放龍たちだ。森を抜け行く道を進み、とうとうカエンダのもとまで辿り着いた。
「なに…!?」
自身の予想が外れ慌てるカエンダ。それも気にかけず放龍はクルオナに魔導エナジー数を聞いた。
「クルオナ、今の魔導エナジー数はいくらだ?」
「おかしいですね。514MdBからほとんど変動してません。これでは避難せずに生活できますけど…。」
「やはりか…カエンダがここでゾンビを生成するために危険区域とでっち上げたのだ。」
そう、元よりオプサホスは立入禁止区域になるほど有害物質は流出していなかったのだ。政府がでっち上げてここで人体改造実験を行っていたのだ。ツヴァリーフで起こったゾンビ騒動もその名残であった。
「来い、カエンダ。貴様の陰謀は暴かれたのだ。好き放題もここまでだ。」
「お、おのれぇ!!!!!」
ここで放龍とカエンダの一騎打ちが今始まった。
いよいよ始まる放龍とカエンダの一騎打ち。カエンダの灼熱魔法はアルミホイルも役に立たず、体もグリルにされてしまう。追い詰められた放龍が唯一見出した勝ち筋に、彼はすべてをかける。一か八か、果たして吉凶を占う賭けに出た放龍の運命はいかに…。
17話「振り切れ、反転カウンターストレート!」にご期待ください。