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13話 元アイドルの嘆き ヘムイ団の恐ろしい工作

この作品はフィクションであり実際の人物、団体、出来事とは一切関係ございません。また、作者の思想を表した訳でもありません。

 パヨン立憲共和国の東部にある人口30万人ほどの港町、その名もスワンパーバー。インフラもそこそこ整って繁華街も夜遅くまで営業する店舗があるほど賑わっている。元は地盤がゆるい湿地帯ではあり、徹底的に補強され今のような街並みになる程に開発も進んだ。農産物、水産物にも恵まれている。一次産業と三次産業が盛んな街である。


そんな街の片隅にある喫茶店のテラス席で、一人の少女が暗い表情で溜息をつきながらカフェオレを飲んでいた。


 その少女の名はミュナン、元アイドルである。国が魔術師共に分断される前に、国民的と言われるほど人気だったアイドルユニット"コリッテラス10"のメンバーだった。


コリッテラス10は10人のアイドルユニットである。ユニット名の由来は、この世界におけるある国の言語で少女を意味する「コリッチ」と怪物を意味する「テーラス」をかけて命名された。ちなみに放龍のいた世界ではギリシャ語である。偶然、それらの単語を同じニュアンスと発音で使用する言語がそれぞれあったのだ。


怪物少女と言えど、本物ではなくコスプレである。

ミュナンはツンデレ属性のケット・シーという設定で売っていた。


先述の通りユニットは大人気ではあったが、メンバーに薬物使用、恋愛騒動、全裸自撮りや行為中の写真流出、職業差別発言、ユニット内のいじめ発覚、無許可で同人誌朗読、不倫、過激派団体への関与、赤スパ怪文章…と問題が多発していきメンバー散り散りとなり解散した。


その中でミュナン自身はかなり健全な売り方をしていた。人気投票は5位以下ばかりであったが他のメンバーがべらぼうに人気だっただけでミュナン自身も安定した人気を誇っており、仕事依頼も向こうから近寄ってくる程だった。


そんな矢先、ミュナンの出身地でもあるスワンパーバーのマスカット農家からPRとしてのコラボ依頼を受けた。

スワンパーバーはマスカットの生産数が全国的に高く、上質な味わいで有名である。その事をさらに多くの人に知ってもらいたい。そんなマスカット農家の思いを叶えてくれる適役としてこの街の出身であり人気アイドルのミュナンが抜擢された。


 撮影日は風が強めだった。地元ある女子校のPRも兼ねていたため、その女子校の制服を着て撮影が行われた。

出来上がったポスターはファンから好評、可愛らしく街の元気さが伝わるとの住民からも温かい支持を得られた。


コラボポスターは街の大きめな建造物に堂々と掲示された。街のシンボルと言わんばかりと話題になり、観光名所としても扱われた。ミュナンの力で街は更に活気付いたのだった。


 ところが、たまたま一人の女がスワンパーバーの表通りを通りかかる。そのポスターを見かけた時、合成麻薬を吸引してハイになった中毒患者のように取り乱し始めながら叫んだ。


「環境型セクハラだ、性的搾取やめろ!」


逆上したその女は、その後警察に連行され事情聴取を受けた。どうやらミュナンのポスターが気に入らなかったらしい。

ミュナンがポスターに映ってる姿は、風に吹かれ股の形が浮き出てしまった状態だった。彼女にはそれがとても性的かつ女性差別に思えたようだ。当初は暴徒の戯言として扱われすべてが終わるかに思えた。


 だがその情報はまたたく間に拡散され、スワンパーバー市長にその女と同じような内容をする批判が相次いだ。やがて市長やマスカット農家、ついにはミュナンや所属事務所への嫌がらせにも発展した。


これはとんだ言いがかりであった、最初は問題のない事を説明し対処はしない方針でいた。

しかし真に受けた偽善者達の偏った正義感による攻撃は留まることを知らない。


事務所には毎日、ミュナンの人格を否定するような嫌がらせメールが殺到した。


「自らの性を売り物にした差別主義者」

「性的搾取を正当化する名誉男性」

「股を晒す変態」


心無い内容だった。ここまで来たらもはや誹謗中傷である。

度重なる嫌がらせに耐えかねミュナンは体調を崩し、活動休止に追い込まれた。多くあった仕事も全てキャンセル。長い間寝込む程に彼女の体は弱りきっていた。


 やがてほとぼりが冷めた頃であった。体調も良くなり活動も再開する事を発表した。しかし、それは眠りについた虎を起こす結果となったのだ。


静まりかえっていたクレーマーは水を得た魚がごとく活力を取り戻し再びミュナンへバッシングを始めたのだ。全盛期ほどではなかったものの、彼女への支障は大きかった。

長かった活動休止期間の頃、他のアイドルが勢力を伸ばしていた。そのため業界では古株となっていたミュナンへの仕事依頼は激減していた。そのような中で彼女を圧迫するようなことが起きてしまい、まさにストレス源に板挟みされた状態であった。


数カ月もの間その状態が続き、とうとう彼女は引退する事を決断した。ただの個人の感想にすぎない事を偽善者が、こじつけで悪と判断してしまい彼女の人生は踏みにじられてしまったのであった。


 悲しい出来事から月日が流れ、トップアイドルグループに所属していたミュナンという少女を覚えている大衆は誰一人いなかった。引退後、変装せずに外出しても誰もミュナンの事を気に留めなかった。かつては変装しないと声かけられ騒ぎになるほどだった。もう、あの頃のように注目される事はなくなったのだ。


『前より荷は軽くなったわね…。』


良くなった事を思えば彼女の気は楽になる、そう思っていた。しかし、それでは拭えない悲しさや虚しさがのしかかる。

過去の事を思い出せば辛くなる、とはいえ簡単に忘れられるわけがない。彼女にとって一番輝けた理想の自分だったが、それを奪われてしまったのだ。


外野は振り切れ、切り替えろ、と無責任に言うが、そんな事が容易にできるのであれば苦労しない。そもそもそれができる程、世の中は甘くないのだ…。


 ミュナンが風に吹かれながら悲しみに耽っていた頃、彼女のいる喫茶店に放龍たちが入店した。


「いや〜たまにはこんなテラス席のある喫茶店も、いいよね!」


快晴の空、熱い日差しに照らされる中で潮風に当たりながらゆっくりコーヒーを飲めると思ったクルオナはとてもウキウキ気分だった。


「テラスビューか、海もきれいだしいいけどこの手の店あんまり安くないぞ…。」


対してエデアは乗り気でなかった。本人としては冷房の効いたファミレスで休みたかったのだ。


「またまた〜、そんなんだからエデアは彼女ができないんだぞ!女の子は、こーんな雰囲気の店でゆっくり過ごしたいの!」


「あーはいはい、元からクルオナは一度決めたら中々食い下がらないって事は知ってるから異論はありませんよ。」


「何よそれ、やな感じ!」


クルオナは軽くエデアの脛を蹴った。

痛さのあまり思わずエデアは声をあげる。


「あっ痛!」




 放龍たち3人は海が見えるテラス席で空き席を探した。人気な店だったようで空席も中々見当たらなかったが、やっと一つ見つけた。


そこは丁度ミュナンが座っている席の斜めに位置していた。放龍とクルオナは着席したが、エデアの席がない。


「すまんなエデア、この席は二人用なんだ!」


「おいおい、俺だけ立ち食いかよ勘弁してくれよ。」


クルオナは席がなかったエデアをおちょくるように煽っていた。二人がそんなやり取りをしている中、困っているエデアを気にかけたミュナンは声をかけた。


「あの…よろしければイスが余っでますので使ってください。」


ミュナンは二人分のテーブルを一人で使っていた。丁度余っていたイスを譲ることにしたのだ。


「助かります…。あれ?」


 エデアはあることに気がついた。そう、彼はかつて推していたアイドルであるミュナンがその席に座っていると言うことに気がついたのだ。


「コリッテラス10元メンバーのミュナンさんですよね…?」


ミュナンはそれを聞き、戸惑ったのか思わず持っているコップを落としてしまう。


「覚えてくれていたのですね…。」


ミュナンは瞳に小粒の涙を浮かべながら微笑み、エデアの顔を見つめた。


「卒業して、もうその顔を見れないと思っていたけど…。また見れて良かったです!」


「あなたは…よく握手会に来てくださった方ですよね?卒業ライブにも来てくれてましたよね?仕事でそっけない態度取らされていたのにも関わらず、いつも来てくれてありがとうございました。あなたの笑顔から元気をもらってました…。」


再開できた嬉しさのあまり、はしゃぐエデアにミュナンも慣れたようにファンサービス!


エデアはファンサービスと知りつつも推しから言われたら嬉しすぎる言葉を言われ、つい照れてしまう。


そんな中、彼は表情を変えながらミュナンに話した。


「あの…嫌な思い出かもしれませんけど、言いがかりで大変な思いしましたよね。心中お察し致します。」


ミュナンは微笑を浮かべながら気前よく返す。


「お気になさらず、ファンの方からも心配されて嬉しいです。そうですね…少し胸の内を話した方が私の少し荷を軽くできる気がします。」


 ミュナンはこれ機に一連の流れをエデア達に伝えた。当時の辛さを思い出しミュナンは耐えられず涙を溢していた。しかしこれで、ミュナンは今まで自分が一人で抱えていた悔やしさや悲しさも少し和らいだ気がしたのだ。


「おかしい批判で尚かつ理不尽な事と思っていたのに、ここまで陰湿だったなんて…。」


「女の人でもAVに出ろとか言ってしまうの?それを言われる事がどれだけ辛い事か自分達もわかるはずなのに…。酷いセクハラしてるのはどっちよ!」


あまりの胸糞悪さに話を聞いていたエデアとクルオナの二人ももらい泣きしてしまった。


「二人とも、泣かないで。気持ちを知ってもらえただけでもう嬉しいから…ありがとう、こんなに同情してくれるなんて。」


 ここで放龍、三人が悲しんでいる中ある事に引っかかった。それは、かつて自分が生まれ育った世界でも似たような話があったのだ。


男女差別に結びつけ成功者を貶め、そうして男女分断工作を企む組織が放龍達の世界にいた。秘密結社の尖兵として現代社会に潜みアフィブログを利用してネットユーザーを洗脳、おまけに広告費稼ぎをしていた救いようもないクズ集団だ。


連中は作戦遂行のためなら平気で嘘をつき、都合の良い部分のみ抜粋し拡散し、意に沿わぬ者の言い分を曲解して悪者にするもはや血も涙もない…。


被害者は多数、ミュナンのように仕事が減らされたり精神的にも追い詰められた者もいた…。


「そうか、そのような連中がこんな所にもいたのか…。これはとても厄介な事になりそうだ。」


 放龍が口ずさんだその時、周りから数名の客が放龍達の方向を向く。


「君のようなカンのいい人は嫌いだよ。」


真ん中に厚化粧でも誤魔化せない程に凶悪な表情の50代くらいのおばさんが立っていた。取り囲むようになんか口うるさそうなオッサンが集まってきた。


「そうさ、そこの小娘は我々ヘムイ団のシャクに触るから落とし込んだのさ。勘ぐられちゃ面倒だからね、野郎共やっちゃいな!」


「不合格だ!」

「謝れい!」

「▼お前さんは#通報」


オッサン三人がかりで放龍に襲いかかる。しかしながら世界チャンピオンを下した放龍にとっては敵でもない。左手のジャブだけで見事に余裕の三タテだった。


「あはん!」

「いやん!」

「うふんー!」


関係のない喫茶店の客や店員は皆揃ってざわつきながら逃げ出した。その声すらも聞こえなくなるほどにオバサンは叫んだ。


「不甲斐ないやっちゃねぇ、つぎゃアタシが行くよ!」


そいつが爪を立てて放龍に飛びかかるも、放龍は避けるようにしゃがみ込み…そして、


「隙ありだ。行くぞ、アッパーカット!」


敵を流すように攻撃をかわし、一瞬の間にアッパーカットを放龍は打ち込んだ。


アッパーカットはKOを取りやすい、しかしやみくもに打っても効果は薄い。このように相手の体勢が不安定の頃合いを見計らい打ち込む事で多大なる威力を発揮するのだ。


「俺は世を乱す無法者なら女であろうとも問答無用。それが本当の意味の平等だからだ!」


放龍がその言葉を呟き終えた頃にはヘムイ団の端くれは場外一発KO、完全ノックアウトのまま海へ転落し絶命した。




しかし、ヘムイ団の恐怖は今始まったばかりなのだ。

唸れ、龍の拳!巻け、アルミホイル!ミュナンのような苦しみを味わう市民をなくすためにも、この過酷な戦いに身を投じなければならない…それでも負けるな、放龍!!

ミュナンとエデアは、かつてのアイドルとファンだった頃の思い出を振り返る。その頃、ヘムイ団の毒牙が新米アイドルを蝕む。行け、放龍!ヘムイ団の重役マスカダ=オルバーのワガママを止めろ!


次回、「守れ、市民とローカルアイドルの絆」にご期待ください。


君は、真のポリコレを見たか?

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