表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

青色の恋

作者: セカンドオニオン

ニ千字程度のショートショートです。たぶん五分くらいで読めます。


五年前の夏。

 ぼくは出勤中の電車で、隣に座っている女性がずっと気になっていた。

 これには二つ理由があって、一つは単純に一目惚れしていたから。もう一つは、具合が悪そうにうなだれていたからだ。

 そんな彼女に、声をかけたらワンチャンなんてことを妄想したりしたけど、結局ビビって話かけられずにいる。

 すると、幸いと言っていいのかわからないが、急に彼女がぼくの肩にだらんともたれ掛かってきた。

 ぼくはその突然のチャンスを逃さない。すぐに様態を確認して、車掌さんを呼んだ。

 もしかしたら本当にワンチャンあるんじゃないか? このあと、彼女とくっつくなんてことが、あるんじゃないか? そんな期待を膨らませていると、ふと彼女の腕に巻き付いている端末が目に入った。

 携帯型人格色別装置。通称、カラーパーソナリティー。

 十年前くらいだろうか、心理学の発展で個人の性格を見える化できる端末が開発された。

 その端末を腕にはめると、軽い性格診断と血圧測定などで、自分の性格を「色」にして識別してくれる。しかも、その「色」を使えば、人間関係における自分と相手との「相性」も分かるという、画期的な端末だ。

 言うまでもなく、その端末は爆発的に普及し、現在では世界全員が身につけている。

 そして彼女もそれを付けていた。

 ぼくはその端末を前に、彼女との相性はどうなんだろう、とつい魔が差して電源ボタンを押してしまった。

 ――青色? 見たことない色だ。 

 調べてみると、どうやら僕との相性は最悪らしい。

 それを知ったぼくは、相性なんてくそくらえと思った。

 相性なんてたかが知れている。冷静に考えて、そんなもの性格診断で決められるわけがない。

 絶対に、彼女と付き合う資格はぼくにもある。

 しかし、あの時はアタックする勇気もなく、もじもじしている間に彼女は車掌さんと電車から降りてしまった。

 非常に情けないが、これが彼女との出合いだった。


 翌日、またぼくは彼女と同じ電車に乗っていた。

 ぼくは勇気を出して話しかける。昨日の一件があったおかげで彼女とは普通に会話出来た。

 意外と上手くいったぞ、と自信がついたぼくは、翌日、また翌日と話しかけていくうち、いつの間にか彼女と毎日話すようになっていた。

 相性最悪のはずなのに、彼女とは趣味、音楽、映画など、結構僕と好みが似ていた。

 だから彼女と話すのはすごく楽しかった。

 これで相性最悪だなんてとうてい思えない。

 そうしてすっかり仲良くなったぼくらは、遊園地へ行ったり、一緒に映画館にも行ったりと、たくさんデートした。

 その間、ぼくは相性が良いと診断された何人もの女性にアプローチされたけど、もちろん全て断った。中にはちょっと可愛い娘や、びっくりするほど頭が良い娘もいたけど、彼女はそれ以上に完璧で魅力的だったし、相性診断で選ばれるのが個人的に嫌だったからだ。

 彼女との交際は順調に進み、出会ってから二年後くらいに恋人の関係になった。

 ぼくの告白に、彼女はひどく悩みながらも「恋人なら」と、言ってくれたのを今でもよく覚えている。良い思い出だ。

 そうして、今日まで三年間恋人としてやってきたのだが、ここである問題が生じる。

 それは、彼女は同棲どころか、ぼくを家にすら入れさせてくれないというもの。しかし、ぼくにはなんとなくその理由が分かっている。

 彼女はもともと男性と関わりが無さそうな性格だから、そういうのには抵抗があるんだろう。

 むしろ、相性最悪の彼女とここまで順調にこれているだけ、ぼくは幸せものなのだ。

 しかし、そんなぼくにもさすがに限界がきてしまった。

 やっぱり彼女の心を開かせたい。同棲したい。

 ぼくはその願いを胸に、このあと彼女にプロポーズをする。

 結婚となればさすがに同棲してくれるだろう。そういう狙いだ。それに、そろそろ子どもが欲しいなと思っていたのもある。心を開いてくれると信じて、ぼくは彼女の家へ向かった。

 

 インターホンを鳴らすと彼女が出てきた。ぼくはそのまま無理矢理なかに入る。

「勝手にあがらないで」

「大事な話があるんだ」

 ぼくは彼女の要望を無視して切りだす。プロポーズのインパクトを強める為に、敢えて怒ってるふうに演技するという作戦だ。

「五年間付き合ってる彼氏を、なんで家にあげようとすらしないんだ?」

「それは……」

「どうせ、後ろめたい気持ちでもあんだろ?」

「…………」

「他に男でもいるんだろ!」

 もちろん、これは本心ではない。だがいい感じに彼女はびびっている。我ながら見事な演技だ。

「お願い落ち着いて。浮気なんて︙︙してないの」

 泣いてしまった。罪悪感を感じながらも、チャンスだとも思った。初めてあったときからそうだが、基本的に彼女の不幸はぼくにとってはチャンスになる。

「ごめん。言い過ぎた。でも、ぼくは一緒にいたいだけなんだ」

 すぐにあめを投入する。

 そして、ぼくは彼女の身体をゆっくりと壁に押し倒した。

 彼女はふっと泣きやみぼくの顔を見つめる。ぼくは両手の指を交差し、顔を近づけ。

「だから、結婚しよう」

 ぼくは右手の指をほどき、密かに薬指に付けていた指輪を見せた。

 ちょっと落差が激しすぎたか、彼女はかなり戸惑っている。

「ご、ごめんなさい」

「え?」

「わたし、子ども作れないの」

 彼女の腕についている何かが、左腕に当たった。

 青色。そういえば相性最悪だったんだっけ。

「別に子ども作れなくても、何とかなるよ」

 ぼくは彼女の身体にぴたりと身を寄せる。

「そういう意味じゃないの」

 彼女の下半身の真ん中あたりに、ごつい何かがあった。

 そのときぼくは初めて、子どもを作れない、の本当の理由を知った。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

今作が初投稿なので、是非ご意見いただけると嬉しいです。よろしくお願いします。まじで。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ