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第五話【島案内】

 食事を終えたあと、少年はイデアと二人で島を散歩することになった。


 ここがどういうところなのか案内してもらうためだ。



 まず最初に居住区。


 島の住人はいつでも水が使えるように、全員川のそばに家を建てている。


 水は川上にある湖から永遠に湧き続けているんだとか。


 なぜ周りが海なのに地下から真水が出てくるのかと少年が質問したのだが、イデアは「ごめんわからない。村長とかおばあちゃんなら、もしかしたら知ってるかも」と申し訳なさそうに返答した。


 それから島の人たちとあいさつを交わしていき、最後にひと際大きな家に住んでいる村長の元を訪れたのだが、不在だったため後回しとなった。

 



 続いて、川を二分ほど下った先に見える海岸へと移動。


 真っ白な砂浜。


 居住区にいた時よりも濃い潮の香り。


 心地よい波の音。


 ヤシの木が所々に生えており、立派な実がなっている。

 

「ここが君が倒れていた場所だよ」と押し寄せる波を指差すイデア。


「へぇ、ここに……」


「最初は息をしていなかったの」


「へぇ……」


 少年は視線を上げて水平線を眺める。


 別の島や人工物どころか、何も見えない。


 本当に綺麗な青一色。

 

「ねぇ、あそこ」


「ん?」


「あの遠くの岩場で釣りをしている二人が、アンガスおじさんとレーズンおじさん。ほぼ一年中釣りばかりやってるの」


「えーっと……」


 少年は彼女が指差す先に視線を向け、人間の姿を探していく。


「あ、いた」

 

「ちなみにさっき食べた焼き魚も、あの二人からおすそ分けしてもらったやつなんだよ」


「そうだったんだ」


「さ、次いこっか」


「うん」




 二人は海岸の横にある森へと入っていく。

 

 森のなかには不思議な植物がたくさんあり、少年の目を奪う。

 

 ぐるぐる巻きに伸びている青いつぼみ。


 ずっと左右に揺れているピンクの花。


 バナナ、りんご、みかんなどの木。

 


 少し歩いた辺りで、鋭い牙が生えている大きな猪が目の前にやってきた。


「……っ!?」


 少年は反射的に身構える。


 とても素人の反応速度とは思えない彼の動きに一瞬びっくりするも、イデアはすぐに微笑む。

 

「ふふっ、警戒しなくても大丈夫だよ」


「?」


 魔物が人間を襲うという常識はこの世界の共通認識だからか、記憶喪失の少年でも知っていた。

 

 一般的な例を挙げると、水色で丸い形のスライムや人型のゴブリンなどの魔物は、空気中を漂っている魔力や魂のかけらが自然と一か所に集まることによって、その濃度と密度に応じて誕生する。

 

 つまり弱い魔物が生息している場所には、基本的に弱い魔物しか生まれない。

 

 逆に魔力濃度が濃い地帯では、強い魔物が生まれやすい。


 たまに例外として変異種が誕生する場合もあるが、それらは冒険者ギルドにいる強者たちによって早急に駆除されるのである。

 

 話がそれてしまったが、魔物は人を襲う。


 それは間違えようのない事実だ。


 だからこそ、彼女の言っている意味がわからない。

 

「猪くん、こんにちは!」


 そう話しかけながらイデアは魔物に近づき、背中を撫で始めた。


 猪は嫌がることなく、目を細めて気持ちよさそうにしている。


「ほらね、かわいいでしょ?」


「あ……うん」


「もちろん猪が特別人懐っこいわけじゃなくて、この島にいる魔物はみんな、絶対に人間を襲わないの」


「どうして?」


「う~ん。村長が言うには、この島は特別だからって……。私も昔、軽く教えてもらっただけだから、よく知らないんだ」


「そっか……」


 そういうものなんだなと言うことで、少年は無理やり納得することにした。





 それからしばらく森を進んでいくと、温泉が見えてきた。


 岩に囲まれていて、透明なお湯が沸いている。


 湯気によって辺りが白く染まっていた。

 

「ここは露天風呂。一年中温かいお湯が沸いてるの。入るとポカポカして気持ちいいんだよ」


「すごいね」


「みんな普段は近くの川や湖で水浴びをするだけだからあんまりこないんだけど、お年寄りの人はよく夕方に浸かりにきてるかも」


「……入ってみたい」


 少年が目を輝かせて言った。

 

「えっ!? ……いや、今は私がいるし」


「イデアさんがいたら問題あるの?」


「あ、あるよぉ……」


 そう言われても、彼には理解ができないらしい。

 頭に疑問符を浮かべて首を傾げている。


「とにかくっ。まだ島の案内が終わってないから、またあとで入りにきたらどう? これからまだまだ歩くし、温泉に入ったあとで汗をかくのも嫌でしょ?」


「う、うん」


 少年は不承不承ながらも頷いた。

 よほど温泉に興味があったのだろう。

 

「じゃあ次はこっちね」


 そう言ってイデアは歩き出す。


 同じような植物がいろんなところにあるため、見た感じ方向がわからない。


 しかし迷いもなく進んでいくことから、彼女を含む島の住人にとっては庭のようなものなのだろう。

 

 二人は途中で果物を採取して食べたりしながらも、順調に森のなかを進んでいく。




 その後、少年はイデアにいろんなところを案内してもらった。

 

 お花畑。


 粘土が取れる洞窟。


 居住区とは真反対に位置する海岸など。

 

  ◆ ◇ ◆

 

「はい、ここが最後ね」


 辺りはもうすっかり夕暮れ。


 島の中心に位置する遺跡を前にして、イデアが言った。


 石造りでかなり古いらしく、所々に亀裂が入っていたりツタが生えている。


 さっそくなかへ入ってみると、何もない正方形の部屋だった。


 窓が存在しておらず全体的に薄暗い。


「ここは?」


「島の中央にある特別な遺跡」


「特別?」


「うん。何もないように見えて実は隠し通路があるの」


 そう言われて少年は内部を見渡す。


 しかし見当がつかない。


「探しても無駄だと思うよ。長いこと暮らしてる私ですら知らないから」


「えっ……」


「外に情報を漏らさないために一部の人しか伝えられてないんだって……。少なくとも村長と私のおばあちゃんは知っているみたい」


「へぇ」


「地下に何かあるらしいんだけど……。まあそれは置いといて、あの壁画……すごいでしょ」


 彼女が指さした正面の壁には、剣を持った人間が巨大な怪物と向かい合っている様子が描かれていた。


 所々ひび割れていて見にくいが、全体的に見ると戦っているのだろうということがわかる。

 

「はるか昔にね、この島で魔王と勇者が死闘を繰り広げたと言われているの。長きに渡った戦いは結局勇者が勝ったんだけど、そのまま力尽きちゃったらしくて、実質引き分けみたいなものなんだってさ」


「そうなんだ」


 少年は近づき、見上げるようにしてその絵をじっと見つめる。

 よく見ると勇者の身体からはオーラのようなものが出ていた。

 

「私が思うに、この島には何かがあるんだと思う。だって綺麗な真水が沸き続けていたり、魔物が襲ってこなかったり……普通じゃないもん。ま、暮らしやすいし、なんでもいいんだけどね」


「……うん」


「さ、そろそろ帰ろっか。戻ったらお仕事をしなきゃ」


「僕も手伝うよ」


「ありがと」

読んでくださりありがとうございます。


次回、変化点です!

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― 新着の感想 ―
[一言] 変化点か…いい方向にいってほしいけど、なんか嫌なことが起きそうで怖いなぁ
[一言] イデアちゃん嫌な予感しかしない...... 変化点とか......
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