第三十一話【仮拠点】
翌日。
四年生は軍用ヘリコプターに乗り込み、海を越えた先にあるクレセント大陸へと向かっていた。
今回の任務は砦にやってくる敵兵を撃退する役目だ。
大して重要な場所でもないため、さほど忙しくはないらしい。
初めてヘリコプターに乗り戦場へ赴くわけだが、四人の脳内は別のことでいっぱいだった。
どうやって脱走するか。
軍用ヘリコプターのなかには生徒たちのほかに、アニマを含む四人の教師やパイロット、医者の先生がいる。
このメンツから逃げ出すのは相当難しいだろう。
昨日の作戦会議の結果、全員で動き出したら目立ってバレる確率が高いため、夜視界が悪いタイミングで個別に逃げ出し、少し時間をおいてから最寄りの街で集合ということになっている。
他にも四人全員がバラバラの戦場に連れていかれたりなど、いろんなパターンを頭に叩き込んでいるため、ヘリコプターのなかで脱走についてのやり取りをすることはない。
かといって無言なのも怪しまれるだろうというノエルの提案により、ヘリコプターのなかではわざとアニマたちに聞こえるように馬鹿な会話をしている。
たまに「お前ら少しは集中しろ! 着くまでに一番うるさかったやつは俺が殺す」などとアニマが注意してくることから、怪しまれてはいないようだ。
◆ ◇ ◆
およそ七時間後。
向こうの大陸に到着する頃には、もうすっかり夕方になっていた。
増援として移動するのは明日の夜が明ける前ということで、今日は仮拠点で休む予定になっている。
そこには百人以上の兵士がいて、テントが数十個建てられている。
襲ってくる魔物を撃退するために、三交代で見張りをしている兵士が複数いるようだ。
近づいてくる存在を見つけるということは、離れていく存在を発見できるということ。
しかしこれはさして問題ではなく、死角はいくらでもある。
逃げるための環境としては悪くない。
四年生は戦況の説明を受けて夕食を食べたあと、アニマと同じテントで眠ることになった。
全員眠たくないようで、薄い掛布団をかけて目を開けている。
「はぁ……。なんであたしまでこのテントなのよ」とうんざりした様子のノエル。
「他のむさくるしい兵士のテントで寝るよりかは、俺たちのほうがマシだろ?」
アニマがにやけながら言った。
「それはそうだけど……。ここも男だらけなのに変わりはないし、なんか身の危険を感じるわ」
「ははっ、誰もお前みたいな生意気女──」
「──あぁ!?」
フェイトの声を遮ってノエルが大声を上げた。
「い、いや……なんでもねぇ」
「次言ったら殺すわよ」
それから三十秒ほど沈黙が続いたあと、ふいにアニマが「あっ!!」と起き上がる。
「どうしたんだ、アニマ先生」とシグマ。
「用事を思い出した。ちょっとアビスは俺についてきてくれ」
「えっ、俺?」
「ああ。やらないといけないことがあるんだ」
「……何?」
「ここじゃ言えない」
「…………わかりました。行きます」
「おい先生。俺たちにも言えないってのか?」
フェイトがしかめっ面で問いかけた。
アビスのことを守ろうとしているのだろう。
「悪いが極秘事項なんだ」
「フェイト……みんなも心配するな」
「けどよぉ」
「また……あとでな」
そうつぶやいてアビスは全員に向けて瞬きをした。
当然だが、アニマはそれに込められている意図に気づかない。
フェイトとシグマもわからなかったようだが、唯一ノエルには伝わったようで、彼女は瞬きを返し「またあとでね」と答えた。