第二十七話【地下】
一瞬肩をビクンッと震わせるアビスだったが、怪しまれないように慌てることなく振り向く。
そこには──フェイトとシグマの姿。
「なんだ……お前たちか」と安心したようにアビス。
「こんな夜中に一人で何してんだ、お前」
そんなフェイトの問いかけに眉を顰め、
「それはこっちのセリフだって……。というか、二人は上手くいったのか?」
「ああ。お金がないから何も買えなかったけど、散歩するだけで面白かったぞ」
「フェイトのやつ、ずっとはしゃいでたぜ」と金髪のシグマが微笑む。
「なんだと!? シグマのほうが調子に乗ってたじゃねぇか! 水着みたいな恰好の女たちをガン見してたし」
「う、うるせぇ」
「おい、夜中なんだから静かにしろ。先生がくるぞ?」とアビス。
「あ……ああ、そうだな。というか質問を戻すけど、アビスのほうこそこんな時間に何してんだよ」
フェイトが再び尋ねた。
「それなんだけどさ……。なんていうか、どう伝えればいいんだ?」
「落ち着け」とシグマ。
「うん……。えっと、アリアと医者の先生が廊下を歩いている所をたまたま見つけてさ。なんとなくついてきたら、ついさっき二人が例の禁断の扉へ入っていった」
「「は?」」
わけがわからないといった様子の二人。
「まあそういう反応になるだろうな。けど、事実だから」
「生徒は立ち入り禁止のはずなのに……。なんでアリアが」
そんなシグマの言葉に返答するように、フェイトがつぶやく。
「行ってみればわかるんじゃねぇか? 今なら開いているかもしれないし」
三人は目を合わせて頷き、行動を開始した。
いかにも図書室へ行くかのような雰囲気で廊下を進んでいき、人がいないのを確認してからフェイトがドアノブを捻る。
「やっぱり開いてるぞ」
「マジか……」
「おい、誰かがこないうちに早く入れよ」と最後尾のシグマが急かす。
「わかってるって」
音を立てないようにドアを開けると、そこには階段があった。
地下へと続いている。
豆電球が一つあるだけのため、かなり薄暗い。
三人は緊張した面持ちで下へと進んでいく。
一分ほどして、広めの廊下に出た。
薄暗くて不気味だ。
「なんだここ……倉庫か何かか?」
アビスが首を傾げてつぶやいた。
歩きながらフェイトが口を開く。
「でも外に大きい倉庫があるだろ。そんなに必要なのか?」
「俺もよくわからないけど、授業で使う備品とかをしまっている可能性はあると思う」
「いや、それはないと思うぞ。あれだけ生徒を脅すような真似をしてまで立ち入り禁止にする理由がない」
「「……確かに」」
「となると……大人が悪いことをする場所とか」
「悪いことってなんだよ」
フェイトの質問にシグマは頬を少しだけ赤く染め、
「ほら、外の街でも男と女がいちゃいちゃして歩いてただろ? アリアと医者の先生も男と女だし……だから、な」
「ばっ……お前やっぱ変態だな」
「う、うるせぇ!」
「おい、お前ら静かにしろって」
「そんなこと言ってさ、アビスは嫌じゃないのか? アリアのこと好きなんだろ」
フェイトの言葉が図星だったようで、彼は慌てたように、
「な、な、なに言ってんだ。そんなことあるはずが…………ないだろ!」
「それ、答えを言っているようなもんだからな?」とシグマ。
「というかクラスのほぼ全員が知っているぞ? お互いが両想いなのに気づいてないのは、お前とアリアの二人だけだからな」
「おいフェイト。ノエルが、面白いから秘密にしておけって言ってただろ。何バラしてんだよ」
「あ、そうだった」
「俺とアリアが……両想い? ということはアリアも俺のことを……」
徐々に顔を赤く染めていくアビス。
そんなやり取りをしつつも廊下を進んでいくと、やがて行き止まりにたどり着いた。
大きな扉が一つだけある。




