第二十六話【外の街】
アビスたちは順調に成長していき、もう四年生となっていた。
今現在15歳である。
幸か不幸か同級生が増えることはなかったが、後輩はいる。
しかし年々施設にやってくる子どもの数が少なくなっており、生徒数はどんどん減ってきていた。
いいスキルを授かった子どもがあまりいないからだ。
そのため、アビスの学年は黄金世代と言われている。
季節は夏でかなり蒸し暑い。
「なぁ、アビス。ここだけの話だけど」と小声でフェイト。
「どうした?」
軍用車両の陰にて。
彼は周りを見渡し、誰もいないことを確認した後、
「実は昨日の夜、シグマが壁の外へ脱出したらしい」
「えっ!? 施設の外へ出るのは禁止されているはずだよな? ……まさか、空間魔法で?」
「しっ、声が大きい。誰かに聞かれたらどうするんだ」
「お……おう」
「その通り、あいつは空間魔法で転移したんだ。それでシグマが言うには、外は夜なのにすごく明るかったんだってさ。いろんなお店があったり、綺麗な美女がいやらしい格好でうろついていたり、他にも興味深いものがたくさんあったらしいけど、帰り道がわからなくなって迷ったら大変だからすぐに戻ってきたんだと」
「へぇ……」
「それで、今日の夜はオレも一緒に連れていってもらう予定なんだが、アビスもどうだ?」
「う~ん……。いや、俺はやめとくよ。バレるのが怖いし」
「そうか」
「黙っててやるから、絶対に見つかるなよ? アニマ先生にバレたらどうなるかわからないぞ?」
「安心しろ。オレたちがそんなヘマをするはずないだろ」
「どうだか」
「はぁ? どういう意味だ」
「お前は施設内で最強の生徒だけど、どこか抜けているところがあるからな」
「おい! どこが抜けてるってんだ」
「この前の試験も名前を書き忘れてゼロ点になっただろ? 他にも下級生に剣術を教えようとして力加減を間違えて吹っ飛ばしたり……」
「は、はは! 大丈夫だって」
「ま、気をつけろ」
「りょーかい」と敬礼の真似をするフェイト。
◆ ◇ ◆
その日の夜。
フェイトから変な話を聞いたからか、アビスは深夜の二時頃に目を覚ました。
「……あいつら、上手くやってるといいけど」
そう言いつつベッドから下りる。
トイレへ行くためだ。
静かにドアを開けて廊下へと出ると、複数の足音。
視線を向けると、白衣を着たおじさんと白髪ロングヘアーのアリアが通路を歩いていた。
アビスは反射的に部屋のなかへ入り、こっそりと陰から二人の様子をうかがう。
「……なんだろう?」
バレないよう慎重にあとを追っていく。
階段を下りて一階へ。
「図書室で勉強でも教えてもらうのか? いや、でも……こんな時間だし」
そう疑問に思いながらも尾行を続けていると、おじさんがふいにこちらを振り向いた。
その様子をアビスは玄関の壁に隠れて見ている。
おじさんは少しの間周囲を警戒し、誰もいないことを入念に確認した後、図書室の正面にあるドアを開けた。
彼はアリアを連れてなかへと入っていく。
そしてドアが閉められたタイミングで、
「──おい」
背後から話しかけられた。




