第二十話【図書室】
アビスがこの施設へとやってきて、一週間が経過した。
彼は大体フェイトやシグマと一緒に過ごしており、逆に【歌姫】のアリア、【未来予知】のカルマとは全く話す機会が訪れない。
アリアは恥ずかしがってそもそも女子以外と話さないし、カルマは常に本を読んでいて話しかけにくい雰囲気がある。
一応【賢者】のノエルとは魔法について会話をすることがあるが、さほど頻度が多いわけじゃない。
お互いに自分が見つけたコツを教えあったりしている感じだ。
とはいってもアビスがノエルから教わる割合のほうが圧倒的に多いのだが。
授業終わりの放課後。
アビスは今日、フェイトたちと遊ぶことなく図書室へと向かっていた。
なんとなく本を読みたくなったからだ。
なかに入ると、高い本棚が何列も並んでいる。
上のほうに関しては、子どもには到底届きそうもない。
脚立があるためそれを使って取るのだろう。
入り口カウンターにはパソコンが置いてあり、眼鏡をかけた先生が座っている。
この部屋にはもうすでに数人の生徒がいて、それぞれ机に向かって静かに読書や勉強をしている。
もちろん緑髪のカルマもいた。
「う~ん……」
アビスは数秒ほど入り口でキョロキョロと視線を動かしたあと、とりあえず図書室を見回ることにした。
数分後。
どのジャンルも数が多すぎて何から読めばいいのかわからず、アビスは何度も本を手に取っては戻していた。
とその時、カルマがこちらへとやってきた。
彼は本を棚にしまい、新しい本を探していく。
「……あの、カルマくん」
今が話しかけるチャンスだと思い、アビスは話しかけた。
「ん?」と眼鏡のズレを直しながら聞き返すカルマ。
「俺、本を読み慣れてないんだけど……面白くて読みやすい本ってないかな?」
「…………」
彼は返答することなく、踵を返して歩き出した。
「あれ?」
やっぱりカルマくんは人と関わろうとしないのかな? と少しがっかりするアビス。
そのまましばらくその場で落ち込んでいると、やがて彼が戻ってきた。
「……これ」
そう言ってカルマは手に持っている本を差し出す。
「えっ?」
「文章が簡単だから読みやすいし、面白いから」
どうやら無視して立ち去ったのではなく、アビスのために本を探してきたようだ。
冒険モノの小説で、鎧を着た少年が表紙に描かれている。
「あ、ありがとう」
アビスが本を受け取ると、彼は小さく頷いて自分の本を探し始めた。
無口なカルマとアビスが初めてかかわった瞬間だった。




