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第十五話【スキル】

 二時間目の算数と三時間目の国語を終えたあと、アビスたち一年生は四時間目の体育を行うために体操服へと着替えて体育室に移動した。

 

 自己紹介も兼ねて全員でスキルを見せ合うらしい。

 

 床や壁が特殊な素材でできており頑丈な造りになっているため、ここであればスキルを行使しても問題ないだろう。

 

「ようし! 最初は【剣聖(けんせい)】のスキルを持っているフェイト=アブソリュートだ。スキルを使用して正面の的に攻撃してみろ」


 アニマが床に設置されている、特殊な粘土製の案山子(かかし)を指さしながら言った。

 

「ははんっ。後輩のアビスにオレのすごさを見せてやるぜ」


 フェイトは木刀を構えて目を閉じ、集中していく。

 

 徐々に身体から水色のオーラが纏い始めた。

 

 それが木刀の先までたどり着いた頃、一気に駆け出し、案山子の胴体を一刀両断した。

 

「ふぅ……。まあざっとこんなもんよ」とフェイト。


「すげぇ」


「あの案山子を破壊するのって、二年生でも難しいのに……」


 みんなからそんな声が漏れた。

 アニマは案山子の上半身を拾い、下半身と引っつける。

 

 そう言いながらアニマは案山子の上半身を拾い、下半身と引っつけた。

 

 この粘土は簡単に結合するくせに、一度集まるとなかなか分離させることができないという性質を持っている。

 

 そのため、軍や学校での訓練によく用いられているのだ。

 

「次は【賢者(けんじゃ)】のノエル=アイギス」


「はい」

 

 返事をして前に出たのは、黒髪ショートボブの女子。

 両手を案山子に向けて無言で集中していく。


「はぁぁぁぁぁ」


 直後、手のひらの前に氷の弾丸。

 頭上に炎の槍がニ本。

 身体の横に光と闇の弾丸が一つずつ。

 

 それらを同時に発射させ、見事に全て命中させた。

 しかし粘土をほんの少しへこませただけで、破壊するには程遠い威力だった。

 このことから、スキルを授かってわずか数日であれだけの能力を引き出せているフェイトの異常さがよくわかる。

 

「続いて【未来(みらい)予知(よち)】のカルマ=ローレライ」


「はい」

 

 緑髪で眼鏡をかけている秀才の男子がアニマの元へと向かっていく。

 

「今から俺が手加減して十秒間攻撃する。得意の先読みで躱してみろ」


「頑張ります」


 結果、カルマは最初の七秒は上手く躱せていたものの、途中で集中力が途切れたらしく、ボディブローをもろに食らってしまい、ダウンした。


「次は【空間(くうかん)魔法(まほう)】のシグマ=クリード。今日はそうだな……。ワープに挑戦してみろ」


「いや……、あれはまだ練習不足で」


 金髪でツンツン頭の男子が弱音を吐く。

 

「大丈夫だって。転入生にいいところ見せてやれ」


「は、はい」

 

 シグマは身体全身に力を入れる。

 直後、彼の姿が消えた。

 

「えっ!?」と今日一番の驚きを見せるアビス。


 その一秒後、シグマは数センチ先に現れた。

 

 膝に両手をついて「はぁ……はぁ……」と息を乱している。

 

 どうやらまだほとんど転移できないらしい。

 それでもこの年でワープを使いこなせること自体並大抵のことではない。

 毎日相当な練習をしているからこその技だった。

 

「さすがだ、シグマ。……さて、【歌姫(うたひめ)】のアリア=ディーバ。お前は、スキルを駆使して案山子に攻撃してみろ」


「……」


 恥ずかしそうに頷き、前へと出る白髪ロングヘアーの少女。

 彼女は顔を真っ赤に染めつつも、目を閉じた。

 

 最初に歌詞のないファルセットが鼻から流れていく。

 とても澄んでいて綺麗な声質。

 その効果なのだろう。

 アリアの足元から銀色の風が舞い始める。



泡沫(うたかた)の風が久遠(くおん)の記憶を呼び覚ます



 言霊(ことだま)()りどころを求めて彷徨(さまよ)い続ける」



 空中に光の刃が浮かび上がる。



(かす)かに染まった吐息(といき)終焉(しゅうえん)運命(うんめい)を書き換えて

 

 

 滅びよ(ことわり)



 生まれよ逆説(ぎゃくせつ)──」

 

 

 言葉が紡がれていくたびに複数の刃が出現して飛んでいく。

 しかし命中率があまり高くないようで、たまに案山子に当たっているものの、他は全て床や壁にそれていく。

 

 一分ほどして歌声が止まった。


 かわいい顔から大量の汗が垂れている。

 ただ歌うだけとは違い、相当な体力を消費するらしい。

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