第十二話【屋上】
「ここは屋上。俺なら全然問題ないが、お前は落ちたら確実に死ぬだろうから気をつけろよ」
巨大な貯水タンクが二つあり、周りが鉄の柵で囲まれていた。
アビスは走ってその柵の目の前に移動し、外の景色を一望する。
「うわぁぁぁ~」
建物の周りは広範囲に緑色の芝が生えており、三百六十度巨大な壁に囲まれていた。
百メートル以上の高さがあるため、外の様子が全く見えない。
遠くに見える壁の端辺りに大量の太陽光パネルが設置されていたり、隣に大きな倉庫が建てられている。
今アビスたちがいる施設は、非常識なほど巨大な建物なのだが、それがちっぽけに見えるほど敷地が広い。
停まっている数台のヘリコプターや軍用車両が小さく見えるほどだ。
それでも余りある芝の土地。
周りを囲んでいる鉄の壁にたどり着くだけで一苦労だろう。
「あの壁の向こうには何があるの?」とアビス。
「巨大な街があるんだ」
「へぇ、街かぁ。……どんなところなんだろ。行ってみたいなぁ~」
「…………いずれな」
少しの間が空いたあと、アニマは浮かない顔でそう返答した。
それから表情を入れ替えて、
「この土地は馬鹿みたいに広いからなぁ。放課後に友達と遊ぶのには持ってこいだぞ」
「うん、そうだね……。俺も友達ができるといいんだけど……」
「できるさ。ここのみんなはいい子ばかりだからな」
「そうかな?」
「もちろんだ……。さ、なかに戻るぞ! まだまだ案内する場所が残っているんだ」
「うん」
二人は屋上をあとにし、四階を素通りして三階に移動した。
「ここは寮になっている。生徒の部屋だけじゃなくて、俺たち教師の部屋もあるんだ」
「一人一部屋あるの?」
「正解。お前くらいの年齢の子は寂しかったりすると思うが、すぐに慣れてくるだろ」
「俺は一人でも別に大丈夫だよ」
「それが強がりじゃなければいいけどな。お漏らししてベッドに世界地図を描かないように気をつけろよ?」
「しないよっ!」
そんなやり取りのあと、階段を下りて二階に移動した。
「二階には生徒の教室があるんだ。一年生から四年生まであって、八歳のお前は一年生に所属してもらう。今の生徒数は九人だから、アビスが入ることによってちょうど十人になる」
そう言いながらアニマは廊下を進み始める。
「結構少ないんだね」
「まあ、この施設は孤児を集めているといっても、特別な子どもしか入れないからな」
「えっ……特別って、どういうこと?」
「なんて言えばいいんだろう……。偉い人たちが優秀だと判断した子どもしか拾われないんだよ。だからアビスは選ばれた子ってことだ」
そう言ってアニマはアビスの頭を撫でる。
「ふふっ。なんか嬉しいなぁ」
「ま、かといって真面目に勉学に励まなければ、他の子どもに追い抜かれるから一生懸命頑張るんだぞ」
「う、うん」
「さて、説明に戻るぞ。この施設内に学年は四つあるわけだが、普通の学校とは違って年齢に応じて次の学級に上がれるんだ」
「どういうこと?」
「一年生は八歳から九歳まで。二年生は十歳から十一歳まで。三年生は十二歳から十三歳まで。四年生は十四歳から十五歳まで」
「あー、なるほど」
「で、四年生を卒業したらそのあとは仕事を始めてもらう」
「お仕事? ……って、どんなこと?」
「えっと、人によって違う。けどまあ、大体軍隊として働くことになるかな」
「ふぅん」
「軍隊に入れば実力に応じてお金をたくさんもらえるし、偉くなれるし、女の子からもモテるからな。きっと幸せになれるぞ」
「俺、お金は欲しい! けど別に女の子からモテたくなんて、ないし」
「ははっ。そのうちわかるようになるさ」
「な、ならないよ」
「おっ、着いたぞ」
アニマは一番奥にあった扉を横に開いた。
そこに広がっていたのは大きな部屋。
頑丈そうな床にいろんな色のビニールテープが貼られており、バスケットゴールが左右に二つ設置されている。
「ここは体育の屋内授業を行う場所だ。近いうちに使用する時がくるだろ」
そう言って扉を閉め、踵を返すアニマ。
アビスはそのあとをついていく。




