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第十一話【朝食】

 翌日。

 

 アビスが目を覚ますと、ベッドの横には赤髪の男が立っていた。おぼんを両手で持っている。


 窓から眩しい朝日が差し込んでいるため、今は朝なのだろう。

 

「よう、アビス。おはよう」


「お、おはよう! ……えっと、その……ア、アニ? さん」


「アニマだ。一応お前の担任だから、アニマ先生とでも呼んでくれ」


「うん、わかった。アニマ先生」


「よし、じゃあ朝ごはんを食べろ。そのあとで施設内を案内するからな。それが終わったら教室に入ってもらう」


 そう言って彼はアビスにおぼんを手渡す。

 それを素直に受け取りつつ、首を傾げる。

 

「教室?」


「昨日、授業に参加してもらうって言っただろ? 今日から同じクラスの友達と一緒にお勉強だ」


「お友達!?」


「ああ。みんないい子だから、きっと仲良くなれると思うぞ」


「へぇ……。楽しみだなぁ」


 アビスはおぼんに視線をやる。


 朝食の献立は、柔らかそうな白パン。

 鶏の竜田揚げ。

 野菜のおひたし。

 瓶の牛乳。

 

 今回もすごくおいしそうだ。

 アビスはまず白パンを食べ始める。

 口に含んだ瞬間、パン独特の香ばしい香りとほんのり感じる甘さ。

 柔らかいおかげで噛んでも顎が疲れないため、いくらでも食べることができそうだ。

 

「さて、朝ごはんを食べながらこの施設について説明するから、適当に聞いてくれ」


「……うん」


「ここはリベリオン帝国にある、孤児を育成する施設だ」


「えっ……孤児院?」


「ああ。あまり言いたくはないんだが、お前は両親に捨てられてここへ運び込まれたんだ」


「お父さんとお母さんに……捨てられた?」


「それでお前……アビスはショックのあまり記憶を失っているみたいだな」


 アニマは平然と嘘をついた。

 アビスは両親に捨てられてなんかいないし、記憶も特殊な薬の投与によって意図的に消されている。


「けど安心しろ。ここはかわいそうな子を幸せする場所だ。いっぱい勉強しておいしいご飯を食べて、友達と仲良く遊べる」


「……うん」


 少し混乱しているようで、アビスの表情は優れない。

 

「で、その腕輪だけど、特別な才能を持ったお前だけに与えられた勲章みたいなもので、外れないようになっているから我慢してくれ」


 これは百パーセントの嘘ではないが、説明不足なのは事実だ。

 魔法系統のスキルは、魔力の代わりに体力のみを消費してヒッグス粒子に干渉し、事象を意図的に改変することによって能力を使用することができている。

 

 そしてそれは、先日アビスが見せた覚醒も同じだろうとこの施設の研究員が判断し、体力からヒッグス粒子に干渉するための回路を塞ぐリングを装着させている。

 

 万が一にもあんなスキルを発動させられた場合、無事では済まないからだ。

 

 そんな危険を冒してまで連れてくるほどの価値がアビスにはあると、組織の上の人間は判断したようだ。


「あーあと、あまり怖がらせるのは好きじゃないんだが、この施設内には子供の立ち入りを禁止していて、もし万が一入ってしまったら罰を受ける羽目になる場所がいくつかあってな。後ほど案内しよう」


「うん」


 そしてあっという間に完食したアビスは、アニマに連れられて施設内の散歩を始めた。

 

 最初の部屋を出ると、左右に真っ白な通路が広がっていた。


 アビスが目を覚ました部屋といい、病院のような造りだ。

 ここはわりと端っこに位置しているらしく、右側には二十メートル先に行き止まりが見える。


 逆に左側はかなり続いている。


 アニマは左に向かって歩き出しながら、

 

「ここは三階だ」


「へぇ……」


「ほら、左側にドアが見えるだろ? これは全部さっきの部屋と同じ造りになっている」


 行き止まりまで行くと、今までとは違う種類のドアと階段が見えてきた。

 

「このドアの向こうは医務室。体調が悪くなったり怪我をしたら、ここで診察や手当をしてもらえる」

 

 そう説明しつつも、アニマはドアを開けることなく反対側の階段を上がっていく。


 どうやら三階は医務室、男女別のトイレ、五つの病室があり、病院のような感じらしい。

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