第十話【施設】
目を覚ますと、真っ白な天井が視界に入ってきた。
点滴用のパックと透明な管も見える。
目でその管をゆっくり追っていくと、自分の右腕にたどり着いた。
白いテープで固定されている。
反対にも同じ物があるのかな? と疑問に思い左腕を見てみると、見おぼえのない白色のリングが装着されていた。
そして自分が清潔感のある白い半そでの服を着用していることに気づく。
窓が暗いため今は夜らしい。
部屋に電気がついているようだ。
何も聞こえず、ほんの少しだけ薬の匂いがする。
とそこで、ガチャッというドアの開く音が聞こえた。
ぼんやりとした意識のままじっとしていると、やがて男性の姿が見えてきた。
赤い髪。
鋭い双眸。
黒い軍服を着用している。
年齢は二十代前半だろう。
「目が覚めたようだな」
赤髪の男が話しかけてきた。
「俺の名前はアニマ=グングニル、二十二歳。お前の担任だ」
「……」
「お前の名前はなんだ? 言ってみろ」
「アビス……。アビス=ラグナロク」
「年齢は?」
「……八歳」
「好きな食べ物は?」
「? ……わからない」
「親の名前は?」
「…………?」
「意味のわからないことばかり聞いて悪いな。確認しないといけないからもう少しだけ我慢してくれ」
「……」
「お前が住んでいた国の名前は?」
「わからない」
「じゃあ最後に、お前のスキルはなんだ?」
「…………スキル……あれ、なんだっけ?」
「なるほど、良好だ。……さっそく明日から授業に参加してもらうから、楽しみにしておけ。勉強は楽しいぞ」
「? ……うん」
「それじゃあ点滴が終わるまで、ここでじっとしていてくれ。そのあとでご飯を食べられるから頑張るんだ」
「ご飯!? 俺、お腹空いた」
「ははっ、元気な証拠だ。ここの飯はマジでうまいぞ」
「この点滴……あとどのくらいかかる?」
「う~ん。この量だと大体一時間はかかるはずだ。天井をじっと眺めていても暇だろうから、体力回復も兼ねてもう少し寝ておけ」
「…………どこかで遊びたい」
「だめだ。点滴が終わる前にその管を外したら死ぬぞ」
「えっ……」
アビスは眉を顰めて口を噤む。
「ははっ、噓だよ……。でも、それを全部終わらせないと身体に良くないのは事実だ」
「わ、わかった」
「それじゃあ俺は仕事に戻らないといけないから、またな」
そう言ってアニマは踵を返し、この部屋をあとにする。
その後、浅い眠りについて大人しく点滴を終えたアビスの元に、白衣を着たメガネのおっさんが料理を乗せた四角いおぼんを運んできた。
献立は柔らかそうな白パン。
目玉焼きが乗ったハンバーグ。
野菜炒め。
瓶の牛乳。
栄養バランスが整っているだけでなく、香ばしい香りが漂ってきて、とてもおいしそうだ。
白衣のおっさんからよく噛んで食べるようにと言われたにもかかわらず、アビスはあっという間に完食してしまった。
それから白衣のおっさんから朝まで眠るようにと言われたのだが、すでにたくさん寝ていたためアビスはなかなか眠ることができなかった。
それでも無理して目を瞑り、なんとか眠りについたのだった。




