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第九話【大破壊】

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 絶叫とともにアビスの内側から急激に何かが溢れ出してくる。


 両目が真っ赤に染まり、身体に黒いオーラが纏い始めた。

 

 気圧と重力が変動し、雲が渦巻き状に捻じ曲がっていく。


 晴れだったにもかかわらず辺り一面が真っ暗になって雨が降り、落雷が発生。

 

 その直後、アビスを中心とした直径三十キロの地盤に亀裂が入った。

 

 数秒と経たずにバラバラに砕け散り、アスファルトの床や建物、お城、人間など、範囲内の物質全てがアビスと同時に空中へと浮かび上がっていく。

 

 やがて五十メートルほどの高さまでたどり着くと、アビスを中心として回転し始めた。


 最初はゆったりとしたスピードだが、徐々に加速していく。

 


 その様子はまるで【メリーゴーランド】

 


 範囲外にいた王都の人間たちは、上空を唖然とした様子で見つめていたり、逃げ出していたりと様々だ。


 感情が抜け落ちた表情でアビスが手を振り下ろした瞬間、被害のなかった区域にガラスの破片や、人間の血肉、建物などが等しく雨のように降り注ぎ始めた。

 

 それによって王都中の建築物や民間人が次々と押し潰されていく。



 響く破壊音。

 


 聞こえる叫び声。

 

 

 地獄絵図という言葉がこれ以上似合う光景は、過去はもちろん未来にすら存在しないだろう。

 

 

 とその時、身体に纏っていた黒いオーラが消え、アビスが地面へと落下した。

 

 偶然にも死体が密集している場所に落ちたことにより死に至るほどの衝撃は緩和されたようだが、先ほどの暴走によって力を使い果たしたらしく動かない。

 

 

 先ほどとは打って変わり、周囲は静寂に包まれていた。



 総死者数は百万人超え。

 

 後にこれは【大破壊(カタストロフィ)】と呼ばれ、史上最悪の大事件として語り継がれていくことになる。

 

 そして【覚醒】というスキルが出現したために、長年最強と(うた)われていた【勇者】と【魔王】のSランクを超える、SSランクが追加された。

 

  ◆ ◇ ◆

 

 数時間後。

 

 すっかり滅んでしまった王都の上空に、一機のヘリコプターがやってきた。

 窓以外が全て黒色でできており不気味だ。

 

 そのヘリコプターはある一点で進行をやめ、ゆっくりと高度を落とし始める。

 しかし、ぐちゃぐちゃな地上に着陸できそうな場所はない。


 結局残り十メートルというところで、落下をやめた。

 とそこで、内部から声が聞こえる。

 

「目標は見えるか? アニマ」

 

「……はい、見えました。死体が密集しているなかにいます」


「なら回収してこい」


「了解です!」


「決して傷つけるんじゃねぇぞ? あいつは貴重な新種の実験体だ」


 どこから情報を聞きつけたのか、低い声の主はアビスが【覚醒】のスキルを授かったという事実を知っているようだ。

 

「わかっていますよ……。じゃ、行ってきます」


 そう言ってアニマと呼ばれた赤髪の男は、勢いよくヘリコプターから飛び降りた。

 

 十メートル以上の高さがあったにも関わらず、男は軽々しく着地をし、立ち止まることなく歩いていく。


 それから死体をためらいなく踏んで移動し、気絶しているアビスを持ち上げた。

 

「……これからよろしくな、少年」


 もちろんアビスからの返答はない。

 

 赤髪の男は一瞬だけ微笑み、踵を返してヘリコプターへと戻っていく。

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