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第八話【汚い大人】

 兵士は金髪とノヴァの姿を見るなり、


「そ、その服装……あんたらは」


「おう、お勤めご苦労さん」と手を挙げる金髪。


 やけに親し気な様子だ。

 

「へ、兵士ざんっ! お父さんがぁ……お母さんがぁぁぁ」


 アビスが兵士の足元にしがみついた。


 しかし彼はまるでアビスが見えていないかのように、

 

「死体の処理は俺たちに任せて、あんたたちはもう行っていいぞ。これ以上目立つとまずいだろ」


「任せた」


 金髪とノヴァは人を殺したにもかかわらず、特に咎められることもなく、正門のある方向へと歩き出した。

 

 兵士たちはそんな二人の姿を見送りながら、

 

「あーあ。また厄介ごとが増えたな」


「面倒くせぇ……。俺、死体の処理なんてしたくねぇよ。……きったねぇ」


「好き好んでやりたいやつなんかいないって」


「まあ、仕方ねぇか。あいつらに逆らったら俺たちまでどうなるか」


 とそこで、金髪の男がこちらへと引き返してくる。


 一瞬陰口が聞こえてしまったのかと思い顔を強張らせる二人だったが、彼の目線が下を向いているのに気づく。

 

 その視線の先にいるのは、大量の涙と鼻水を流している少年の姿。

 

「あぶねぇあぶねぇ。予想以上にこいつらが強敵だったせいで、本来の目的を忘れかけていた」


 金髪はそう言って、兵士の足にしがみついているアビスの身体を両手で掴み、

 

「この坊主を持って帰らないと任務達成にならねぇ」


「兵士さんっ!! 兵士ざんっ!」


 と兵士の足に抱きついて必死に抵抗するアビス。

 

「だすけて……お願い!」

 

 しかし、ただの子どもが力比べで勝てるはずがなかった。

 

 アビスはいとも簡単に引き剥がされ、彼に抱っこされる。


 金髪はそのままノヴァの元に向かって歩き出した。

 

「なん、で……」

 

「ハハッ、親が汚いだけあって、その子どもも汚ないな」


「帰ったらしっかりと洗っとけよ」


 後ろからそんな兵士のやり取りが聞こえる。

 

「どう……して……」



 兵士は民を守るものだと思っていた。

 

 

 でも、現実は違った。



 強い者に巻かれ、陰で悪口を言い、あまつさえ死体や自分を汚い者呼ばわり。

 

 

 他の野次馬だってそうだ。

 

 

 誰も助けてくれない。

 

 

 誰も解決しようとしない。

 

 

 目の前で行われていた殺人を、心の底から楽しんでいた。

 

 

 なかでも一番気に食わないのは、この軍服の男たちだ。

 

 

 

 

 こいつらがお父さんを……お母さんを殺した。

 

 

 

 

「さ、仕事に戻ろうぜ」


「そうね。久しぶりに面白いものが見られたわ」



 周囲の一般人が放った言葉。

 

 本人たちからすると、何気ない一言だろう。

 

 しかし、アビスを傷つけるのには絶大な効果を秘めていた。



「……うわぁ、きったねぇ」



 たった今この現場を見つけたであろう男性のそんな言葉が背後から聞こえてきた瞬間のことだった。

 

 

 

 

 アビスのなかで何かが切れた。

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほどなぁ...... これは......俺なら記憶無くすレベル。
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