ある日
畳が懐かしい香りを漂わせる夏の午後。
机の上には一日で終わらせようとしていた宿題たちが無造作に転がっている。
大切な夏休みの午前中を転寝でつぶしてしまうなんて。いつの間にかお腹にかけられたタオルケット慌ててどかし、居間へと向かう。
責めるように蝉が鳴く。
ご先祖の前ならと思い、仏間で宿題を開いたはいいが、普段から午前中に真面目な勉強などしたことがないものだから三十分も持たなかったように思える。
食卓の上には残されたメモの通り冷蔵庫の中には素麺があった。
おそらく母が出かける前に作ったのだろう。タオルケットの犯人もおそらくあの人だ。
午後から何をしようかと考えているうちに素麺は胃の中に消えていった。
もう一度仏間に向かい、散らかった玩具を片付けるように宿題をランドセルに放り込む。
母が立てた線香が煙を立てる。
祖父母共に私が長に頃に亡くなったが、とにかく優しい人たちということだけは覚えている。朧げに映る二人はやはり優しく微笑みかけている。
澄んだ硝子の音が響く部屋は夏が訪れたことに気付いたように室温を上げる。
知らぬ間に滲む汗を拭い縁側へと向かう。
庇に遮られた日差しはめげる事無く暑さを届けている。触らなくても伝わる石畳の温度はその上に揺らぐ陽炎が表している。
やけに鳴くなと思っていた蝉は庭にある松の木に止まっていた。
何をするでもなく放りだされた両足は退屈そうに揺れて、影がからかうように後をつける。