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地味姫、夜会の支度をする

「まあ、そこにいたのね、ジェイミー!」


 朝食後、家庭教師が休みの日だったので王の執務室で書類を片付けていると、里帰り中のジュリエットが飛び込んできました。王の執務室に入るには許可が必要なのですが、そこは王女なので問題なし。執務室の護衛の騎士も姿勢を正して王女を迎え入れます。


「あら、ジュリエット姉様。夜会の準備はよろしいのですか?」


 ジェイミーはにこりと笑って答えました。ジェイミーは王宮のいろいろな場所で地味に手伝いをするのが趣味なのでどこにいるのか探すのが難しいのです。おかげでジュリエットは肩でハアハアと息をしています。


「夜会の準備はむしろ貴女でしょう!?」

「私、ですか?」

「そうよ!今日は貴女の成人パーティなんだから!」


 ジェイミーは首を斜めにしました。


「私のではありませんよ。今日の夜会はこの国の18歳の貴族令嬢・令息のデビュタントです」

「それはそうだけど! 王女の貴女の参加は絶対条件なんだからね!」

「そうでしたっけ?」


 ジェイミーは心の中で舌打ちしました。


「いなくてもわかんないと思うんだけどなあ……」


 正直行きたくない、と思っていても言えない悲しさ。

 地味姫が着飾ったところで無様なだけなんだけど、と口に出したくても出せません。すぐ上の姉のジュリエットはゴージャスな美しさなので性格も派手に見えるのですが、実はとても繊細。ジェイミーが自分のことを地味だと言うと眉尻を下げて悲しい顔になるのです。


 ということで、しぶしぶ(本当にしぶしぶ)執務室を出て、自室に戻りました。自分が戻らないとジュリエットの侍女たちまで困らせてしまいます。昼前から始めてもぎりぎりになるほど、夜会の準備は大変なのです。


 とはいえ、ジェイミーの場合は違いました。


「もともと地味なんだから無駄に時間かけなくていいわよ。ゆっくり初めて早く終わらせましょう」


 そう言うと、執事から取り上げた、夜会で使う銀食器を磨き始めます。もちろんグラスも磨きます。こういう地味な仕事が好きなのです。

 侍女たちもわかっているので、手際よく支度ができるように準備を整え、ジェイミーの仕事を手伝います。銀食器磨きの他、ナフキンを畳んだりデビュタントの令嬢を飾るコサージュを作ったり、細かな仕事はいくつもあるのです。夜会後、署名するだけの礼状作成まで担当しています。そんなパーティの裏方がする地味な作業に時間いっぱい取り組みます。


 簡単な昼食をみんなで楽しくいただいたら、やっと夜会の支度です。


 ささっと湯に入り、体を拭いて、香油を塗り込みます。他の姫や令嬢のように時間をかけて磨きません。侍女たちは時間をかけて手入れしたいと常々思っているのですが、ジェイミーは自分の肌はどんなに磨いても白くならないから無駄だし、普段からきちんと手入れしてもらっているので時間をかけて磨くことはないと言ってさせないのです。そんな時間があるなら仕事を丁寧にをモットーにしています。


 そんなジェイミーなのでコルセットも他に比べたらゆるゆる、ただついているだけです。締め上げて美しいラインを作る苦しみよりも苦労して作ってくれた食事をおいしく頂きます、といつも言ってますが、こちらは単に締められたくないだけなのは内緒です。

 締め付けないドレスもシンプルな作り。フリルやリボンはなく、すとんとした柔らかなラインです。古代の聖女が着たのに似た野暮ったくない美しいドレスで、体の線が出ない分、布は大目に使っていますが、レースや宝石が付かないリーズナブルさは王族っぽくありません。今日はデビュタントなので白いドレス。デビュタントを迎える新成人は全員白と決まっているのです。


 その分、首周りと耳元を大き目の宝石で飾るのが通例ですが、ジェイミーはもったいないからと季節の花で大き目なコサージュを作ったり、髪に花を編み込んで飾っていました。手がかかりますが前もって作っておけるので時間短縮にもなっています。ちなみに花も豪華なバラや百合ではなく、色鮮やかだけど可愛らしいガーベラやカスミソウなどが多いです。ただ今回はデビュタント用のコサージュが白いバラメインでしたので、それを大きくしたものをつけることにしています。


 腰まである髪はまっすぐすぎて引っかからないために結い上げるのが大変なのでそこだけ少し時間がかかりますが、難しい編み込み等はしないですっきりとまとめました。


 化粧は薄目がモットーです。元の顔が変わるほどの化粧も世の中にはあると聞き、意気込んだ侍女に試されたことがあったのですが、なんとも言えない結果になりました。少し期待していた侍女が涙目になって謝ったのもいい思い出です。そんなこともあって、ジェイミーの化粧はいつも素顔に少しプラスしたくらいのうっすらしたものなので地味感は変わりません。


 耳の側だけ少し残した髪にきらきら光る魔石の粉をつけたら完成。この間2時間です。


 侍女たちの仕事は素晴らしく、隙のない仕上がりですが、なんというか、全体的に地味目でした。王子様が「見違えるように美しい」と言ったらそれは完全なお世辞です。


「地味な私に何しても地味なのにねえ」


 しかし地味だけどきちんとした、清らかな美しさがあります。

 短時間でこれだけの仕事をしてくれる侍女たちにはいつも感謝です。

 短いと言っても夜会に出る準備の時間はジェイミーにとっては苦行でしかなく、2時間もかかったと言いたいところなのですが、他の姫君は6時間以上かかるのが当たり前なので文句は言えないのでした。






読んでいただいてありがとうございます。

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