地味姫と黒い鬼
ウィルフレッドが正気を取り戻した!
と、しばらく周囲は大騒ぎでしたが、ジェイミーはウィルフレッドの手の甲に額をつけたまま固まっておりました。
『あああ、またやらかしてしまったああ!』
ジョナサンに肩をたたかれたジェイミーは『求められていた以上の愛情を公衆の面前でウィルフレッドにしていた』のに気づいたのです。
誰もいなかったらきっと天幕内を隅から隅まで転がっていたでしょう。さすがにしっかりとしつけられた王女様、内心はともかく、表面上は極めて静かで、天幕内では一番地味な存在となっています。
『嬉しかったとは言え、会ったばかりの男性の指先を握り、あまつさえ唇をつけるなんて! しかも、ジョナサン兄様と竜騎士様方の目の前で!』
恥ずかしすぎて辛い、と心で呟いたジェイミーは、両手で顔を覆ってへたへたとしゃがみ込んでしまいました。パーティ会場で騎士様にあーんさせた以上に恥ずかしくて、全身から湯気が出そうです。誰もいなかったら先ほどまでのウィルフレッドのように半廃人になったかもしれません。
膝を抱えて呻くジェイミー。
幸いにして天幕の中にいる竜騎士たちの気持ちはすべてウィルフレッドに向けられているため目立っていません。
地味でよかった、ジェイミーはしみじみと感謝しました。
「がんばったな、ジェイミー」
そんなジェイミーをいたわるジョナサン、正直内心複雑です。可愛い妹に彼氏ができそうなのもありますが、相手は黒い鬼と呼ばれるウィルフレッド。信頼する友達だけど、いろいろ複雑な問題を抱える相手に大事な妹を任せてよいものか大変悩ましい。
さらに言うと、ジェイミーは家族全員からめちゃくちゃ愛されていますので、怒りの矛先がこちらに向きそうなのも悩みどころです。
「と、とりあえず今日はこれで帰るか」
今のうちにそっと抜け出してジェイミーを送っていこう。それから作戦会議だな。
いまだに頭から湯気を出してうなっている妹の頭を軽く叩き、抱き上げようとしたその時。
「俺と結婚してくれ! ジェイミー姫!」
見たこともない速さで近づいたウィルフレッドがジョナサンからひったくるようにジェイミーを奪い、横抱きに抱え上げると、ぎゅっと抱きしめて叫びました。
「あ、はい、私でよければ」
即答するジェイミー。
はっとして口を押え、顔を上げた時、目の前には世にも恐ろしい笑顔が視界いっぱいに広がっていました。
二人の言動で固まっていたジョナサンと騎士たちがこれ以上ない叫び声をあげるまで、あと5秒……。
こうして、ジェイミーはウィルフレッドの婚約者になりました。
いろいろあって結婚まで2年ほどかかるのですが、それはまた別の話。
めでたしめでたし
読んでいただいてありがとうございます。
ずいぶん間が開きましたが、とりあえず完結です。最後、エピローグ的な感じでサクっと終わらせてしまいましたので、間を開けすぎた感が否めずなんだか申し訳ない。
この文体で書く物語の習作でしたが、少し大変なので後日談を書くとしたらいつものに戻したいと思います。
というか、いつもの文体で書き直しするかもしれません。その時は新しい物語として始められたらいいな。
実はジェイミーはウィルフレッドが顔も体も声もドストライク、ウィルフレッドも同じという、割れ鍋に綴じ蓋みたいなカップルでした。




