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黒い鬼の同僚は上司に問いただされる

 そして幾日か過ぎたある日のこと。


「で、原因はわからないの?」


 夕食後の至福のひと時、のはずなのですがロードリック辺境伯代理のエドアルドは頭を抱えておりました。普段はともに演習中の騎士たちと国籍を気にしないのんびりしたティータイムを満喫している時間ですが、今夜は違います。


「昨日は騎竜に乗ろうとして落ちたと聞いたが」

「夜な夜な宿舎から奇妙な叫びが聞こえると聞いたぞ」

「俺は竜舎の隅で座り込んで何やら呪文を唱えていたと聞いている」

「なにそれ怖い……」


 国籍関係なくウィルフレッドを慕う騎士たちも彼の奇行に振り回され、いつになく慌てふためいているので、演習が滞っています。何か原因があるのではと探りを入れますが、全く返答がありません。逆に突然走り出したり、素振りを始めたり、竜たちに抱き着いたりと、周りを戸惑わせる言動を繰り返しているのでした。


「黒い鬼との異名を持つウィルフレッド様がだらけた顔で空を見てるのがあんなに恐怖を呼ぶものとは……」

「特に何もしてないのがよけいに、な」

「なんか悪いもんでも食ったんじゃないか?」

「最近口にしたものでいつもと違う、……、あっ!」


 レックスははポンと手を打ちました。やっと思い当たるものが見つかり、すっきりした気持ちです。


「こないだ行ったエンハーランドのデビュタントの夜会の時、なんか食ってた気がする!」

「それだ!」

「いや待て、あれは、私の記憶が確かなら、一人じゃなかったはずだ。確か隣に白いドレスの令嬢がいたと思う」

「令嬢……」


 全員が大きく目を開きました。あのウィルフレッドの隣に令嬢が!?


「まさか、休憩していた令嬢を気絶させて食事を強奪したとか?」

「馬鹿な!ウィルフレッド様がそんなことをするはずがない!」

「あの人は前しか見てないところがあるからな。気が付かないで座って令嬢に怯えられたのではないか?」


 パーティに参加していない竜騎士が言うと、ウィルフレッドを知る騎士たちは頷きながら「あり得る」と呟きました。怖い顔に怯えられて凹んでいるウィルフレッドの姿は竜騎士たちの間では周知されています。気の毒になあと思いながらも事実なので庇えずごめんねと、竜騎士団員全員が思ってしました。


 そこに。


「ところがな、団長、怯えられてなかったみたいなんだ」


 共にパーティに参加していた竜騎士のハンスが「ほんとだぞ」と前置きしたのち続けます。


「三回くらいお代わりしてたのを見た」

「マジか!!??」

「しかもな、令嬢は泣いてなかった。脅されたのかと思ってすぐに近くまで行ったんだが、なんか楽しそうに皿を運んでたよ」


 全員が絶句する中、一人の騎士が尋ねました。


「その令嬢、どんな感じだった?」

「うーん、実はあんまり顔は憶えてないんだ。なんというか、すごく地味な子だったんだよ」

「地味ってお前、失礼だなあ」

「いやだって、なんというか、目立たないと言うか。ああいうパーティで見ないタイプ?申し訳ないが地味だったんだ」


 それを聞いて、質問した騎士は右手で顔を覆いました。


「すまん、それ、俺の妹だ」


 エンハーランドの騎士ジョナサンは大きくため息を吐きました。


「妹のジェイミー。うちの国の第三王女だ」

「おおっ、王族だったのか」

「年は俺の9つ下の18だ」

「デビュタントの年か!それはまた可憐な盛りだな」

「顔、地味だったろう?」

「そうだったっけ? 憶えてないな」

「すごい空気感出してたろ?」

「そういえば最初は団長が一人で座ってるのかと思ってたくらいだからな。見つけたときはびっくりしてそれどころじゃなかったぜ」

「でもな、笑顔が凶悪なくらいかわいいんだ」

「なんだその妹バカ……。凶悪なのかは人の感性だから俺にはわからんが、まあ、ジョナサン様がそう言うんなら、まあ……」


 ジョナサンの言葉に背筋を冷や汗が流れたひと時が思い出されていきます。夜会は可愛い令嬢たちとたくさん話せて楽しかったけれどあのときはマジ国際問題かと思ったとハンスがしみじみしていると、エドアルドが爆弾を落としました。


「じゃあ、令嬢が自分の皿の料理を食べさせてたって噂は本当だったんだ?」


 かちゃーん!カランカランカラン……。

 ジョナサンが手にしていたグラスが大きな音を立てて落ちました。

 騎士たちが驚いて固まったのも気にせず、エドアルドに詰め寄ります。


「ちょ、そこ、詳しく!」

「お、落ち着いてください、ジョナサン殿!聞いたところだと『食べかけのローストビーフをあーんさせていた』とのことですよ」

「ななななな!!きょ、兄弟たちにするようなことを、あああ、あの鬼顔のウィルに!? ピックがついてて食べやすそうだったからって、あ、あーんとだとおおお!!!」

「落ち着いてください、ジョナサン様!!」

「初対面の見知らぬでかい熊顔の男にうちの可愛い妹が公衆の面前で「あーん」だとおおお!!俺もしてもらったことがないのに!!」


 激しく悶えているジョナサン。ベッドの上だったら転がっていたでしょう。

 え、ええと、何と言ったらいいんのだろう、と複雑な顔で生暖かく見つめる騎士たち。そういえばエンハーランドの王族ってやたらと仲が良かった、と全員が思い出していました。


 調査の結果、あの日、ウィルフレッドはジェイミー王女と楽しく歓談し、三回もお代わりしたのですが、最後の皿を食べている間にジェイミーが立ち去っていたのに気づかず、大変落ち込んでいるのだとわかりました。最後の皿を食べ終わる前に逃げたんだろうな、と全員が思いました。


「まあ、ジェイミーのことだから、思うところがあって立ち去ったんだろうが、それでウィルがああなっているのだったら、兄として話を聞いてこんといかんなあ……」


 ジョナサンは再び大きなため息を吐くのでした。






読んでいただいてありがとうございます。


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