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地味姫ジェイミー

新連載です。よろしくお願いします

 北の端にあるエンハーランドには世界で一番地味だと言われるお姫様がいます。

 名前はジェイミー。

 御年18歳。明後日の成人パーティに参加予定の王女様です。


 ジェイミーはエンハーランド王の10人の子どもたちの中で6番目、4人の王女たちの3番目という、地味なポジションで生まれ、両親と祖父母の地味とこ取りな容貌でした。


 王家の金色の髪ではなく、大祖母の栗毛を。

 王家の紫色の目ではなく大叔父の榛色を。

 母の白い肌ではなく大伯母の少し焦げた肌を。

 ボンキュッボンの母や祖父のスタイルではなく大伯父のすっとんとんなスタイルを。

 くっきりした父の顔ではなく愛嬌のある伯母の顔を。


 王族は美形の者が多いのが一般的です。嫁いでくる他国の王子・王女もしかり。

 なぜなら、王族は美形同士の掛け合いが多いからです。そりゃ政略結婚だっていっても、不細工と美形だったら断然美形を取りますからね。性格なんて二の次です。国民に人気があれば問題なし。国民だって自国の象徴は自慢したい。すごく功績があるなら多少の不細工は愛嬌になりますが、何もない平凡な場合はやはり見た目が一番。結局のところ、人は見た目が100%なのです(一部誇張あり)。


 当然、兄弟たちはそれぞれが大変美しい上に、目立つ容姿をしていました。


 一の兄、28歳のジェイラスは王家の金色の髪と紫色の目のきりっとした見目麗しい王太子。

 二の兄、27歳のジョナサン王家の金色の髪と母の緑の目をした胸板が逞しい軍神。

 三の姉、25歳のジャクリーンは祖母の銀色の髪と叔母の青い目のはかなげな美姫で西の隣国の王太子妃。

 四の姉、22歳のジュリエットは王家の金色の髪と祖母の深緑の目の快活な美姫で南の隣国の王太子妃。

 五の兄、20歳のジャスパーは母の燃える赤毛と緑の目のイケメン天才魔術師。

 七の妹、16歳のジョセフィンは母の赤毛に伯母の水色の目の可愛らしい姫で宰相の息子の婚約者。

 八の弟、15歳のジュードは伯父の漆黒の髪と目をそのまま受け継いだおとなしくも神秘的な雰囲気を今から持つ美少年。

 九の弟、10歳のジェレマイアは王家の金色の髪と母の緑の目をした小悪魔系美少年。

 十の弟、6歳のジョエルは祖母の銀色の髪と叔父の金色の目をした子犬系愛され系王子。


 色彩溢れる家族の六番目である、地味姫ジェイミー。

 生まれが王家でなく中程度の貴族だったら何も問題がなかったのでしょう。一応王族なので地味とはいえ各パーツの配置は悪くなく、整っていると言える顔立ちはしています。

 ただ、この中に入ると、全体的な印象がとても薄い。それだけで残念度だけが極まっているのでした。


 と、これだけ見ればジェイミーだけが仲間外れにされているように思われるかもしれませんがそんなことはありません。

 ジェイミーは家族だけでなく王宮にいるすべての者からとても大事にされ、愛されて育ちました。人当たりの柔らかい性格、自己主張しすぎない穏やかな気性とさりげない気配りが多くの人を癒していたのです。


 ただ一人、8歳の時に一年ついた家庭教師だけがダメでした。そのせいで彼女の性格が決定したと言っても過言ではありません。


「どうして私が貴女のような地味な王女につかなくてはならないのでしょう」


 その家庭教師は王立学院で教鞭をとったこともある優秀な女性でしたが、ジェイミーと二人きりになるといつもこう言い、大きくため息を吐いていました。


「こんなこともできないのですか? ジャスパー様はすぐにおできになりましたよ」


「ほら、もっと機敏に!ジュリエット様は優雅に華麗に舞われましたのに」


「恥ずかしい。すぐに涙を見せないでくださいまし。ジャクリーン様はもっと多く課題をこなします」


「ああ情けない。何故私はジェイミー様付きになんてなったのかしら? 優秀な私には優秀な生徒が付くのが当たり前なのに、ふたを開けたら地味姫付き。愛らしいジョセフィン様か賢いジュード様付きだったらどんなに鼻が高かったか……」


「他もお子様はすべて素晴らしい才能と輝く美貌の方々ですのに、ジェイミー様だけが頭も性格も顔も冴えない。何をやらせても平均もしくはそれ以下。きっと王家の方々のよくない部分だけを受け継いだのでしょうね」


 事あるごとにちくちくと呟かれ、失敗した時には大仰なため息と失望の目を向けられ、王家の欠陥品と言われ続けた結果、ジェイミーは自分とその立ち位置を理解しました。


 王家として喜ばれないパーツのみを集めた容姿。

 努力してもよくならない頭脳。

 人前に出ると震える度胸のない性格。

 かかとの高い靴を履いて歩くと三歩で転ぶ運動神経。

 天才的に不器用な手先。


 それに比べて、兄弟姉妹のなんと立派なことか。

 姉たちと妹はとても可憐で百年後も男が恋焦がれると言われるし、兄と弟は笑ったら次々と令嬢が倒れるらしいです。両陛下がバルコニーで手を振るだけで様々な奇跡が起こると聞いたこともあります。


 横にいても気づかれない自分は王女には向かない人間なのだ、そのことを泣きながら理解した時、ジェイミーの視界は大きく変わったのです。


 この後すぐに家庭教師の言葉が侍女の耳に届き、驚きと怒りとともに執事長に伝えられ、激怒した王が家庭教師を国外追放したり、兄弟姉妹から親族にいたるまでが必死にジェイミーの良さを語ったのですが、後の祭りでした。

 ジェイミーは自分がいる場所は王家の裏方だと認識し、こんな自分が王族にいては申し訳ないと、どんどん目立たなく、地味になっていったのです。




読んでいただいてありがとうございます。


今朝、NHKでやっていたドラゴンとお姫様が出てくるアニメを見ていて思いついたお話です。内容は全く違うのですが、姫様の顔がすごい地味だったんですよ……。

地味顔だけど性格の良い姫様のまったりしたお話になります。恋愛は少し先ですが、気長に楽しんでいただけると嬉しいです。

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