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3 新たな生活に馴染み始めた頃

「んっ…」


意識が鮮明になってくると、思わず声が漏れる。

目の前には開かれたままの本が木製の机の上に無造作に置かれている、どうやら読書の途中で座ったまま眠ってしまっていたようだ。

固まった身体をほぐしながら、ゆっくりと立ち上がる。


僕がいるのは、見ただけで年季が入っていると分かる古びた書庫の中、その中央付近に置かれた机の前だ。

外の光の届かない書庫の中は天井からの小さな灯りで仄暗く保たれ、床には絨毯が敷かれている。

ここに通うようになってもう数年が経つ。

壁が見えなくなる程の数の本棚とそれに見合った蔵書量があるこの部屋は、専ら僕が調べものをするために占領している状態といえる。

最初は、風通しの悪い空気のこもったこの部屋に辟易していたが、さすがにもう慣れてしまった。


とはいえ、さすがに長時間こもり続けていれば気も滅入ってしまう。

机に置かれた時計を見れば、長針と短針が8時を告げていた。

僕が書庫へ入ったのが正午過ぎ頃だったので、開かれた本のページの進み具合から見ても3、4時間は眠ってしまっていたようだ。

気分転換がてら外の空気を吸おうと、微かに軋む音をたてながら木製の大きな扉を開ける。


書庫から出ると、書庫内よりも明るい灯りが天井から灯され、絨毯の敷かれた長い廊下が左右に続いている。

装飾等はあまり施されておらず、壁や天井の少し荒れている感じがこれまた年季を感じさせる。

廊下を挟んで書庫の扉と対面する窓から外を覗けば、既に日は沈み夜の闇がどこまでも広がっていた。


ふと思い至り足下を見れば、盆に載った食事が書庫の扉の横に置かれている。

いつも通りそれを拾い上げると、自室への道のりを歩く。


僕が住んでいるここは、見ての通りかなりの豪邸だ。

それこそ、()()住んでいた家とは比べ物にならない程だ。

そしてその広さに見合った部屋の数があり中の装飾はどこも似たようなものなので、ようやく覚えた書庫と自室を結ぶルートから外れてしまえば迷子になってしまうだろう。

しかし、広い豪邸にもかかわらず道中すれ違う人は1人もいない。

書庫の前に3食欠かさず食事が準備されていることからメイドのような人がいることは間違いないだろうが、如何せんその人達がどこでどのように過ごしているのかも僕は知らない。


そんなことを考えている間に自室に辿り着く。

木製の扉を軋ませながら開けると、中には机と椅子とベッドのみという必要最小限の家具のみが置かれた空間が広がっていた。

豪邸らしく間取りは広く、床の絨毯や天井の照明がほのかに高級感を出してはいるが、その広さが逆に部屋の質素さを助長している気さえする。


持っていた盆を机に置き、椅子を引いてそこに座るとまだ少し温かい食事を食べる。

この豪邸からは西洋をイメージさせる雰囲気が漂っているが、盆の上の食事は和食だ。

そういうギャップは多々あるので、この世界ではそういうものなのだと早々に割り切ったのを憶えている。


食事も量が少ないのですぐに済む。

以前の身体では満足出来なかっただろうが、この身体ではこの量で充分だった。


食べ終わった食事を部屋の外へ置き、部屋に備え付けられた浴室へ向かう。

脱衣所に入ると、安心感から思わずため息が漏れてしまう。

脱衣所の中は、鏡の付いた洗面台や入浴後に髪を乾かすドライヤー等、以前の生活で利用していたものと遜色ない設備が備わっていた。

脱衣所だけではない、手洗い場や浴室等そういった懐かしさを感じる設備はこの世界の所々に存在している。

そういった設備を見る度、この世界でも何度も利用しているにもかかわらず未だについ安心してしまうのだ。

やはり、知らず知らずここでの生活に緊張しているのは否めない。


服を脱ぎつつ、つい洗面台の鏡を視界の端に捉えてしまう。

そこに映るのは金髪碧眼の少女。

見た目は実年齢にふさわしく6、7歳程。

肩まで伸びた金髪は無造作に垂らされ、誰が見てもきちんと手入れされていないのが分かるだろう。

見ていると吸い込まれそうな碧い瞳も、僕の心情を表すように退屈そうに半眼を形作っている。


鏡を覗いてしまってから、しまったと思ったがもう遅い。

せっかくリラックス出来ていたのが台無しになってしまった。

この身体になってから、鏡が嫌いになった。

普段は、幼児ということもあって男女間の性差を感じることなく生活出来ている。

日常生活で僕が性差を感じるのは手洗いの時ぐらいだが、そこは生理現象なので妥協出来るし慣れてくると意識せず済ますことも出来るようになった。

しかし、鏡に映る少女はより如実に、直接的に僕に現実を突きつけてくるのだ。


僕はもう男ではないんだ。

日本で暮らしていたあの生活は終わったのだ。

もう、大好きだった幼馴染みには会えないのだ、と。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


沈んだ気持ちで入浴を終え、そのままベッドに仰向けに寝転ぶ。

そのまま目を閉じると、ゆっくりと意識が手放されていくのを感じる。

そのまま僕は、いつも通りの1日を終えた。


最低限の食事、睡眠、身体を洗うこと以外は、ずっと書庫にこもり本を漁る。

これが僕の数年間続けている日常生活だ。

現在書き終わっているのはここまでです。

ここからは、現状不定期での更新を予定しております。

よろしくお願いします。

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