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19 いざ、王都へ(前編)

何度も遅れてすいません!

今回は丁度よく区切れなかったので、チェックしつつ今日中に3話投稿しようと思います。

安定した投稿にはまだ至れませんが、今回もよろしくお願いします。

 出来るだけ、みんなの前では笑顔でいるようにしよう。

 そう心の中で誓った日から、宣言(?)通り不安そうな様子をみんなの前で見せてはいない。


『シシー、これからユーリの家に行くけど、一緒にどう?』

「『あ、うん!すぐ準備するよ』」



「『お父さん、お母さんがお風呂沸かしといてだって!』」

『おお、分かった』


 最初は怪訝な表情を浮かべていた家族も、次第に慣れていったのか今では気にした様子もない。自惚れかもしれないが、僕が笑顔を心掛けてから家族の雰囲気が明るくなったような気がする。

 とはいえ問題がないわけではない。相変わらずお姉ちゃんとシリウスさんは顔を合わせれば険悪な空気を出しているし、僕自身、慣れない笑顔で大きな心労を感じている。最近は、1人の時にため息の回数が多くなったと思う。

 お姉ちゃんの思春期が事の発端だとしたら、彼女が成長することでこの事態は治まっていくだろう。しかしそれは短くても数年先のことになる。それを承知の上で、僕は2人の揉め事を止められるようになろうと決めた。だというのに、始めて数日で既に精神的に参ってしまいそうだった。

 こんなすぐに音を上げるわけにはいかない。リーシャさんの負担を減らすためにも、家族の関係を壊さないためにも、受けた恩を返すためにも…。


 新しく始めた生活は忙しなく、とても早く時間が過ぎていくように感じる。あっという間に数日が経過し、ついに僕たちは王都へと旅立つ日を迎えた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 朝の早い時間、辺りが昇り始めたばかりの太陽で薄明かりに照らされる中、荷物を抱えて外に出る。とはいえ小さな少女の身体では大きな荷物を持つことは出来ない。服など、大抵の日用品はシリウスさんに運び出してもらい、僕自身はリュックとポーチを1つずつ抱えるのみだ。

 外では、シリウスさんが御者の男と会話していた。よく家の前を通る馬車に乗っている人だ。直接面識があるわけではないが、時たま自室の窓から道を眺めていると見かけることがある。彼がこちらの視線に気付き会釈してきたので、こちらも同じように返す。シリウスさんも僕がいることに気付き振り返る。


『シシー、荷物はそれで全部か?忘れ物はないな?』

「『うん、大丈夫。お母さんたちもすぐ来るから』」


 しばらくしてお姉ちゃんとリーシャさんも荷物を持って家から出てくる。全員で馬車に乗り込み御者の合図を聞くと、身体の揺れる感覚とともに外の景色がゆっくりと動き出した。


『今から数時間は馬車に乗り続けることになる。シシーもリリーも、今日は早起きだったから町に着くまで寝ておけよ』


 事前に聞いた話では、今日の内に王都に辿り着くことは距離の都合上出来ないそうだ。馬の休憩も挟むため、昼前に街道沿いの町で滞在、その後昼の行程を経て王都近郊の町に宿泊するらしい。予定通り進めば明日の朝には王都に辿り着く日取りとなっている。

 シリウスさんには寝ておけと言われたが、荷台の激しい揺れの中ではとてもではないが寝れそうにない。毛布を数枚身体の下に敷いてはいるが、それでも寝て起きれば身体の節々が痛くなりそうで遠慮したい気持ちもあった。

 以前ガイとした話だと、このまま進めば道の途中でブラウン家の馬車と合流するはずだ。合流したら雑談でもしながら向かおうと約束しているので、それまでは外でも眺めて時間を潰そうかな。


 荷台は天井と側面が幌で覆われており、前後からでしか外の様子は見えない作りとなっている。前側は御者の邪魔になるかもしれないので、荷台の後ろ側まで移動すると横のしきりにもたれかかるように座る。背中から伝わる振動を感じながら、流れていく景色を呆けたように眺めていた。そこには小さくなっていく自宅も見える。

 明日王都へ着いてからは観光しつつ明後日の祭りに備え、それが終わればその翌日に王都を出発して家に帰る。帰りの行程も2日かかることを考えると、次にあそこを見るのは4日先のことになるんだな。そんなことを考えている内に、気付けば瞼も落ちていた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『…シー…!シシー!』

「ん…」


 身体を揺すられる感覚とお姉ちゃんの声を聞き、ゆっくりと瞼を開く。いつの間に眠ってしまったのか。気付けば身体の上から毛布が被さっており、床に丸まって横になった姿勢へ変わっていた。揺れも感じないので、馬車は止まっているようだ。


『みんなもう先に行っちゃったわよ。早く起きて一緒にお昼ご飯食べましょ』


 もうそんな時間なのか。なら、ガイたちと合流するのも町へ着くのも、既に済んでいるのだろう。寝転んだままでは幌の間からの青空しか見えないが、遠くから微かに人々の喧騒が聞こえてくる。

 とりあえず早くみんなの所へ向かおう。そう思って手足に力を込めるが、不意にジーンとした痺れが襲ってきた。


「『お、お姉ちゃん、ちょっと待って』」

『どうしたの?早く降りなよ』

「『し、痺れちゃって…』」


 感覚がなくなる程強いものではないが、身体の下敷きになっていた右の手足から波のように痛みが伝わってくる。いつから今の姿勢で眠っていたのかは定かではないが、ガイたちと合流する前からだとすると結構な時間にはなるだろう。


『ああ、シシーずっと横になってたもんね~。…ツンツン』

「『っっ、~~~!お、お姉ちゃんっ、今足触らないでって!』」

『あはは、ごめんね~』


 お姉ちゃんが人差し指で僕の足に触れ、僕はその痛みに悶絶する。こういうのはよくない。彼女にとっては出来心であったとしても、当人である僕にとっては切実な問題なのだ。

 僕の見立てではそろそろ立ち上がれそうだったので、お姉ちゃんから距離を取るように急いで立ち上がる。しかし、バランスが保てずふらついてしまった。


「『ひゃっ』」

『おっと』


 倒れそうになった僕を、すぐにお姉ちゃんが支えてくれる。その際、彼女の顔が吐息がかかりそうな距離まで接近してきた。お姉ちゃんの顔は、中学生ながらにあどけなさの残らない大人びた魅力を感じさせる。その長い睫毛や艶のある唇を間近で見て、顔に熱がこもっていく。

 彼女は僕の視線に気付いたのかこちらに視線を動かし、目が合うとにやっと笑いかけてきた。


『「ひゃっ、だってね、()()()()()?か~わいい」』

「っ!」


 今度こそ僕の顔は真っ赤に茹で上がってしまった。その様子に満足したのか彼女は楽しそうに笑いながら、ゆっくり僕から身体を離していく。僕が1人で立てるのを確認すると、先に荷台から飛び降りていった。

 お姉ちゃんは、僕に使うなと言っておきながら2人きりの時にこっそり日本語を使うことがある。それ自体は問題ないことだが、彼女は日本語で話す時何故か僕のことを「お兄ちゃん」と呼ぶのだ。精神的なことを考慮するならそれが正しい呼称ではあるのだが、彼女は決まって僕が少女のような振る舞いをしてしまった時にそう呼んでくる。だから僕は「お兄ちゃん」呼びが無性に恥ずかしくなってくるのだ。


 僕は既に少女の姿になったことを受け入れると決めた。それでも、まだ本当の少女のように振る舞うことには抵抗がある。それは、恥ずかしさとか後ろめたさとか、そういった感情からくるものなんだけど。それ以外にも、男としての自分を失ってしまったら、前世の感情も失ってしまうんじゃないかという恐れもあった。例え戻れないのだとしても、元の自分が持っていた、家族や幼馴染みの少女と過ごしてきた時の感情や思い出はなくすことなく持ち続けていたかった。


 荷台から地面に降りて周囲を見渡せば、辺りには木でできた2階建ての建物がぽつぽつと並んでいた。決して栄えているわけではない。それでも、自宅から見える田んぼばかりの田園風景とは違う。ここは、確かにたくさんの人が暮らす町の只中だった。

 すぐ近くの建物の入り口で手を振るお姉ちゃんを見つけたので、慌てて駆け寄る。一緒に中へ入っていくと、そこには広い部屋にたくさんの丸テーブルが並び、奥にカウンターのある酒場の風景が広がっていた。お昼時だからだろう、それなりの人が座り、食事を口にしている。その中にリーシャさんたちを見つけたのでそちらへ向かって進んでいく。


『あら。あなた、シシーたちが来たわよ?』

『おお!シシー、調子はどうだ?ずっと荷台の中で丸まってたが、寝違えたりしなかったか?』

「『う、うん。普通に起きれたよ…?』」


 さっきのことはあえて言う必要もないだろう。僕が何も言わなければ、お姉ちゃんから伝わることもないだろうし。

 一先ず両親との会話を打ち切り、僕は隣の丸テーブルに座るもう2人の顔見知りに声を掛ける。


「『おはようございます、ユーリさん。合流した時に挨拶が出来なくてすいません』」

『おはよう、シシーちゃん。気にしなくてもいいよ。朝早かったんだって聞いたよ。早起きして偉いね』


 年上であるユーリにまずは挨拶をする。相も変わらず爽やかな少年で、中学生とは思えない落ち着いた雰囲気を醸し出している。

 そして、その彼と向かい合うように座っている少年が1人。


「『ガイ君もおはよう。馬車の中で話す約束だったのに、寝ちゃってごめんなさい』」

『おはよ。いいよ別に。暇でも潰そうかってだけの約束だったんだし、大したことじゃない』

『シシーちゃん、気にしなくていいよ。こんなこと言ってるけど、ガイも馬車に乗ってすぐ眠ってたんだから』

『兄ちゃん!』


 僕にこっそり告げ口してくるユーリと、それを慌てて止めようとするガイ。仲が良いのは相変わらずのようだった。

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