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15 お出掛け

今回もよろしくお願いします。

 リビングへ向かうと、朝食を並べたリーシャさんが僕たちを待ってくれていた。シリウスさんを探すが、彼が普段座る位置には空の食器だけが置かれている。雑貨類を売る商人である彼は、週末であろうと関係なく仕事がある。お出掛けの準備で、普段僕たちが朝食を食べる時間よりも遅くなってしまったし、先に食べて出掛けてしまったのだろう。

 僕たちに気が付いたリーシャさんは驚いたように目を丸くし、特に僕のことを上から下まで凝視していた。それが数秒続くものだから、恥ずかしくなって思わずお姉ちゃんの後ろに隠れてしまう。


『わぁ、リリーがそういう格好をしているのは見たことあったけど、シシーのは初めてね。…うん、見たことない恰好だけど、ピンクと青の色合いも鮮やかで、可愛いシシーにとっても似合っていると思うわ』

「『あ、ありがとう…』」


 臆面もなく褒めてくるリーシャさんに、僕の身体は更に縮こまってしまう。『可愛い』なんて褒め言葉は嫌なはずなのに、彼女に言われると嬉しく感じてしまう。


『あ~!シシーだけずる~い!ママ、私は!?』

『ふふっ、リリーはそうねぇ、あなたの明るくて元気な性格に、女の子らしい服装がマッチしててすごく可愛いわよ』

『えへへ、ありがとー』


 リーシャさんの評価に、お姉ちゃんも満足気だ。

 お姉ちゃんの服装は、白い生地の上に黒のドットの入ったワンピース、その上に乳白色のコートを羽織ったものだ。腰まで伸びたストレートの銀の髪に、前髪に留めた花の髪飾りがよく映えている。

 僕も、お姉ちゃんの服装は可愛いと思う。リーシャさんのように褒めることは、恥ずかしくて出来ないけど。


『ママもきれいなんだから、もっといろんな服を着てみればいいのに』

『私はいいのよ、可愛い服を着たリリーとシシーを見られたら、それで満足なんだから』


 リーシャさんは、カートルという羊毛で出来た服を着て、髪も頭巾で覆っている。現代の服装とは気色の違うものだが、この辺りではよく見る服装だ。僕も普段は同じようなものを着ている。

 この辺りで、見慣れた現代衣装を着ても周りからはさぞ異質に思われることだろう。お姉ちゃんは、そんなもの気にも留めていないようだが。僕1人だったら到底外出など出来なかっただろう。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 煉瓦造りの2階建て一軒家、それが僕たちシルバ家の現在住まう住宅だ。これは、この辺りでは比較的大きな住居にあたる。僕がシシー・シルバとして産まれ育った豪邸に比べればその差は歴然だが、僕自身は前世の住居に近い生活環境のこちらの方が気に入っている。

 朝食を食べ終えた僕とお姉ちゃんは、少しの食休みの後に家を出る。外に出ると、家を横切る砂利道と奥に広がる田畑が目に入る。日本にいた頃、映画で見たような田舎の風景。違いを挙げるなら、ここでは等間隔に電柱が建ち並んでいることも、軽トラの走行音が聞こえてくることもない。代わりに、日に数回馬車が家の前を横切り、この世界の言葉を話す子どもたちがはしゃぐ声が聞こえてくる。


 穏やかな気候の中、目的地に向けてお姉ちゃんと2人、歩いていく。道中、畑仕事をする老人や、馬車を引く御者などともお姉ちゃんは親し気に挨拶を交わしていた。想像以上の交友範囲に驚きつつ、僕は彼女の陰に隠れてやり過ごす。覚悟はしていたつもりでも、実際に歩いてみると想像以上に恥ずかしい。『鏡の前では堂々としてるくせに』なんて呆れ声が聞こえた気もするが、気のせいだろう。とにかく、早く目的地に着いてほしい。

 僕が今まで外出していた距離は、せいぜいが家から数百メートル程度だった。だが、今日はお姉ちゃんと家を出てから既に20分近くが経っている。振り返っても家が視界に入らないことに不安を抱いていると、やがて目の前に大きな建物が見えてきた。

 田舎の領地で、大きな部類に入る僕たちの家よりもさらに大きい屋敷。周りを柵に囲まれたそこは、僕の産まれた豪邸を彷彿とさせる。

 僕が呆然と見上げていると、お姉ちゃんは慣れたように敷地の入り口にいるガタイの良い男性に話しかける。


『おはようございます。今日は妹と一緒に遊びに来たんですけど…』

『やあ、おはようリリーちゃん。今日は妹さんと一緒で、いつもより気合入ってるねぇ。ああ、ユーリ様ならお部屋にいらっしゃると思うから』


 見た目に反し気さくに話す男性は、快く僕たちを敷地内へと通してくれた。おそらく門番なのだろうが、警備が緩いと感じるのは田舎だからか、それともこの世界ではどこもこんなものなのか…。ともかく、すれ違う使用人と挨拶を交わすお姉ちゃんの後ろに隠れながら、生垣のそびえる庭を歩いていく。ここに、お姉ちゃんのクラスメイトが住んでいるのか。

 今朝お出掛けに誘われた時から、1つ疑問に思っていたことがある。何故、今まで1人で行っていた領主様の家に、突然僕を連れて来たのか?気まぐれだったのかもしれないが、それにしても、おしゃれに遠出に他人の家への訪問と、初めてのことを詰め込み過ぎているように感じる。普段のお姉ちゃんなら、1つ1つ試していってくれているはずだ。

 ここに、僕を連れて来る理由となる何かがあるのか?それとも、理由となる誰かがいるのか?


『おはよう、リリー』

『あ、おはよう!あれ?部屋にいるって聞いたんだけど…』

『ああ、さっきまでいたけど、窓から2人の姿が見えて迎えに来たんだ』


 お姉ちゃんと誰かの会話で、思考は中断される。前を見れば、1人の少年がこちらへ歩いてきている。お姉ちゃんと親しそうに話しているので、彼が例のクラスメイトなのだろう。予想はしていたが、やっぱり異性の友人だったようだ。思わず眉を寄せながら凝視してしまう。さらりと伸びた茶髪に、翠の瞳の少年だ。伸びた背筋にたれ目と爽やかな笑顔が、多くの人から好感を持たれるだろうことを伝えてくる。端的に言えばイケメンだった。

 と、少年の方を見ていると、その陰に隠れるようにもう1人誰かが立っているのに気付いた。少年よりも小さく、彼の背後にすっぽり隠れているので、彼の弟か妹でもいるのだろうか?


『ほら、ガイ。リリーとは何度も会っているだろう?今日は前に伝えた通り、妹のシシーちゃんも連れて来てくれてる』


 少年は、背後の誰かに話しかけ僕たちの前へと促す。


「え…?」


 驚きに、思わず声が漏れる。現れたのは、僕と同い年くらいの少年だった。警戒するようにこちらを観察する姿は、人付き合いに慣れていないように見えて、少し親近感が湧く。


『やあ、初めましてシシーちゃん。僕はユーリ、君のお姉ちゃんのクラスメイトだ。それで、こっちが弟のガイ。ガイは君と同い年だから、よかったら仲良くしてね』


 だが、僕が注目し驚いたのはそこではない。僕が驚いたのは、()()()()()()()()()()()()


 この世界で見てきた、どんな明るい髪や瞳の色とも違う。僕が前世で見慣れた、日本人のような容姿だった。

お読みいただきありがとうございます。

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