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1 懐かしい思い出(前編)

初投稿となります。

拙い文章ですが、どうぞよろしくお願いします。

16歳の、高校に入って最初の夏。

明日から夏休みが始まると、皆が浮かれる時間。

既に午後7時を回っているというのに、空は夕暮れに赤く染まっている。


そんな夕日に向かって、僕の前を少女は楽しそうに歩いている。


彼女とは幼馴染みだが、別々の中学へ行くようになってからは音信不通となり、偶然同じ高校へ通うようになった、久方ぶりの再会である。

僕は正直、何を話せばいいか見当もつかないが、彼女にそういった気負いや気まずさは感じられない。


「小学校以来よね。

元気だった?」


「う、うん…

元気だった、よ?」


昔は散々仲良く話していた思い出があるが、久しぶりすぎてつい、たどたどしくなってしまう。

しかし、彼女は僕のそんな返答にも、笑顔を浮かべてくれている。


彼女は昔から何も変わっていない、思い出に残る優しい彼女のままだ。

変わったのは僕の方だ。

元々内気だった性格はより顕著になり、何事にも消極的な人間になってしまっていた。


「…いつからなの?」


彼女は優しい顔のまま、やや真剣みの増した顔で問いかけてくる。


「…いつからかはちゃんと覚えてないけど、中学にいる内、気が付いたら…って感じかな…」


…正直言うと、彼女には知られたくなかった。

僕がいじめられていることなんて、優しい彼女に言っても、ただの負担になるだけだと思った。

久しぶりに会った幼馴染みがいじめの対象になっているなんて、聞いて嬉しい話でもないだろう。


でも結局、彼女に助けられた現状を考えると、僕の悩みは杞憂だったのかもしれない。

彼女は優しさの他にも、男にも劣らない力強い精神も持っていた。

僕が同級生にいじめられている現場を偶然目撃し、何も状況を理解できていなかったろうに、そこから僕を救い出してくれた。


「そりゃ、偶然見かけただけだから最初は混乱したけど、明らかに大人数に囲まれてたし、良い状況じゃないのは分かるでしょ」


彼女は苦笑しながら答える。

良い状況じゃないと分かっても、実際にその大人数の中から連れ出すのは、並大抵のことではないだろう。

それが出来るのが彼女のすごい所で、僕が持ち合わせていない能力でもある。


彼女は僕にとって、目指すべき目標なのだ。


「また何かあったら、すぐに私に相談してね」


僕は男なのに、女である幼馴染みに心配されてしまうのが、悔しく思う。


「…ありがとう」


必要ないとは言えないのが、また悔しい。

言ったところで、彼女は僕を助けようとするだろう。

僕が1人でも大丈夫だと、証明できないのだから当然だ。


それでも…


「…そっちも」


「うん?」


「そっちも…何かあったら、すぐ相談、してほしい…」


幼馴染み故なのか、彼女が何かに悩んでいるのは分かるから、大したことは出来ないと分かっていても、力になりたいと思ってしまう。


だって、彼女は僕にとって、目指すべき目標であり、初めて好きになった女の子なのだ。


「…ありがとう」


彼女は僕の言葉に、嬉しそうにそう言った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


彼女の発した言葉は僕と同じものだったが、うじうじと相談出来ない僕と違い、彼女は翌日から少しずつ悩みを打ち明けてくれた。


曰く、彼女の悩みは家族関係に関してのものだった。


彼女は父親の仕事の都合で、中学へ上がる際生まれ育ったこの町から遠くへ引っ越すことになったらしい。

彼女の母親は既に他界しており、父親は男手一つで育てて来た一人娘を1人この町に残すことは出来なかったのだろう。

そして新しく住み始めた町で、彼女の父親は再婚することになった。


突然紹介された新しい母親に彼女が困惑する中、予てより相談していた生まれ故郷に戻りたいという希望が叶うこととなった。

それは、再婚した母親とこの町で二人暮らしをするというものであった。


未だ新しい家族を受け入れ切れていない状態での二人暮らしで、彼女は家で落ち着ける場所を見つけられないでいるということらしい。


「お母さん、は、優しい人よ?

私にも優しく愛情を注いでくれてるって分かるし、早く私との間の壁を取り除きたいんだって伝わってくる。

でも、こういうことって初めてだから、私から一体どう接すればいいのか分からないのよ」


まあ、親の再婚を経験するっていうのは、そう何度もあることではないだろう。

僕もそういった経験は皆無なので、何か助言をすることは出来そうにない。


ただ、彼女が前妻の子だと、新しい母親から邪険にされているといったことはなさそうで安心する。

母親の方からもコミュニケーションを取ろうとしてくれているようだし、後は時間が解決してくれる問題のような気もする。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


そんな風に相談を聞いたり、一緒に遊んだりして過ごしている内、気付けば夏休みも終わりに近づいてきていた。

そんな僕の彼女へのたどたどしさがなくなってきた頃、彼女は母親と食事に行くことになったらしい。


「ありがとう、きっと私1人じゃお母さんを食事になんて誘えなかったと思う」

「そんなことないでしょ。

僕はただ話を聞いてただけだし。

それに僕がいなくても、一緒に過ごしてればこういう機会はいずれ来てたよ」


彼女も彼女の新しい母親も、決してお互いが嫌いな訳ではないのだ。

互いに距離感が掴めず、試行錯誤していただけ。

距離が近づくのが時間の問題だったというのは、妥当な推測だった。


それに、本当にお礼を言うべきなのは僕の方だ。


夏休みに入り彼女と過ごすことが多くなってから、僕がいじめを受けることはなくなっていた。

彼女が裏で何かしていたのか、それとも彼女の人望ゆえなのかは分からないが、少なくとも彼女が原因であることは間違いないだろう。


本当は僕も彼女に感謝の言葉を伝えたいけど、彼女が表立って何かをしていない以上、直接的には伝えづらい。

こんな時、消極的な自分が嫌になってしまうのだ。

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