9 旅の始まり3
いくら魔法で服を作り出せるからって、血相変えて飛び退いたりするのは失礼だと思う。しかも、怯えた目でだ。
魔法は人それぞれだし、そういう魔法があっても不思議なことではない。この世界ではオリジナルの魔法もあるので、そういう風潮もあるはずだった。
にも関わらず、前方にいる男は、後方に飛び退き、その拍子に木に頭をぶつけて踞っている。馬鹿としか言いようが無い。
「大丈夫かしら? 良い音がしたのだけれど」
「誰のせいだよ!」
「貴方のせいでしょ」
「俺のせいか……いや、サシャのせいだろうが!!」
頭を擦りながら顔を真っ赤にしているのはルイス。
嗜めるように、やれやれと首を振っているのは、女神こと私はサシャ。
私達の横には、立派な鎧が一着、ごろりと転がっていた。
二人の間には、数メートル程の間隔があり、私の髪が風に吹かれてゆらりと揺れる度に、風がより一層強くなるような感じがした。
「はぁ、私の使った魔法は生成魔法。文字通り日用品から危険物まで、生命で無い限りは作り出すことが出来るのよ」
サシャは至って当然かのように告げるが、ルイスは首を振って否定する。
「いや、そういうことを言ってるんじゃない。元々魔法はただの物質を作り出して、相手にぶつけたり空間に干渉したりするのが通常」
「そんなの当たり前でしょ?」
「だからだよ! お前の魔法はおかしい! 魔法なのに形のある、それも立派な鎧を作り出した。そんな品物を作り出す魔法なんて聞いたことが無い!」
そうだろうか?そんなにこの魔法は珍しいものなのだろうか?どの女神も普通に使えていたから、珍しくも無い魔法かと思っていたけど、確かに人に生まれ変わってからは使っている人を見たことは無い。
「そうなのですか。これは私のオリジナルですのよ」
「いや、そうは言ってもさぁ……」
まあ、こう言っておくと彼も反論出来ないようで、唸りながら渋々納得したようだった。
さっさと納得させたところで、私は自分用に動きやすい冒険者風の服をすぐに作成。彼は呆れたように「人前ではやるなよ」なんて注意をした。その後は特にこの魔法については触れてこなかった。
禁忌の魔法、というものがある。
その魔法は別名、神の祝福と言われ、それを生まれ持った存在は文字通り特別な力を持つ。それ故に金銭目的の人間に利用されることが世の常だ!みたいに言い伝えられている。
そんな災いを呼ぶような魔法だからこそ、それは禁忌の魔法と呼ばれる。
禁忌の魔法はオリジナルの魔法、利用価値に見合うからこそ、そのような危険もまた伴う。
大方そのことを懸念した発言であろうと推測出来た。
彼の気遣いに感心しつつ、先程作り出した服を摘み上げて、彼に見せつけた。
「さて、服も調達できたことだし、早々に着替えて頂戴。出来ればすぐに出発したいわ」
「え、ちょっ」
そう言ってから、ルイスに着替えが見えないように草が高く成長している草むらの方へとすたすた歩こうと足を踏み出す。
しかし、向かおうとした途端にルイスに腕を掴まれた。
しょうがなく振り返ると困惑の表情をした彼がそこに佇んでいた。
「何かしら?」
「いや、俺は本当にあの鎧を着るのか?自慢じゃ無いが似合わない」
なんだか、あたふたした動きで問うてくる。
自分で着たいと言っておきながら、今更何を戸惑っているのだろうかと、疑問に思っていると、小さく呟いたその言葉は「つまり、今は鎧って気分じゃないんだ。出来れば普通に冒険者風の服を俺にも作ってほしい」という、割と真面目なトーンの言葉であった。
着てみたいと言ったから折角作ったのに、これでは骨折り損というものだ。
我が儘はいけないと親に教わらなかったのだろうか? 貴族の私は教わらなかったけど。
仕方無く一着、冒険者風の布で出来た服を作成し、頭を下げる彼に手渡した。
鎧の方は、勿体無いので私の方で回収した。回収の際に使用した収納魔法も彼にはオリジナル魔法と説明し、白い目で見られた気がしたが、きっと気のせいだろう。
目的その一、服の調達が完了した。
私とルイスは服が手にはいると、無言で反対側に歩きだして、そそくさと着替えを終らせた。
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