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8 旅の始まり2



 話し合った結果、取り敢えず二人とも服がボロボロ過ぎて目立つので、新たに服を手に入れることになった。

 大体ドレスで長距離を歩いて旅するなんてことは、普通に考えて無いのだ。

 私の正体に気が付いた王国の人間が追いかけてくるかもしれないので、動きやすい服を着ようと思う。

 着替えればもしかしたらそういう人にもばれないかもしれないしね。


「問題はどうやって服を調達するかだな」


 深刻に顔に無数のしわを作りながら考え込んでいるのはルイス。年齢十九、誕生日は五の月、魔法は水魔法が少しだけ使えるらしい。


 我ながら実に必要ない情報まで聞き出したが、今更ながら前の二つ要らなかったと感じている。

 因みに私の年齢は──、いや、折角まだ二十代にもなっていない若い女の姿なのに夢を壊すようなことは言わないでおこう。

 ちょっとだけ話すとすれば、年齢は千から先は数えていない。本当は覚えているけど……。


 このような感じに彼が頭から煙が出そうな位に懸命に思考を巡らせている中で私は特に何も考えていない。

 この辺りは女神特有の余裕というやつだ。


「なぁ、サシャ様も考えてくれ。服を手に入れられ無いと、このボロボロのドレスと土汚れた服で出歩かなくちゃいけなくなる」


 ルイスからの救援要請が来たので、そろそろ助けてあげるとしよう。


「ええ、そんなことよりやっぱりサシャ()なんて呼ばないでくれるかしら?私は既に貴族の身分を剥奪されたのだから、ただのサシャ。呼び捨てで構わないわ」


 と思ったけど取り敢えず、呼び方があれだから躾るところから始めましょうか。先程から言っているが直す気配が無いのは、やはり遠慮しているからなのだろう。

 でも、直して貰うわ。覚悟なさい!


「そうか? なら遠慮なく言うぞ。サシャ、頼むからお前も真面目に考えてくれ」

「えっ!?」


 半ばやけっぱちにそう言うルイス。

 彼が案外簡単に受け入れたことに感心しつつ、その呼び方には異を唱えたい。

 ……しかし何だろうか。この体で家族以外の人から呼び捨てで呼ばれることなど滅多に無かった。

 だから、彼がそう呼んでくれた時、私はやっと公爵令嬢を辞めたのだと実感することが出来た。



「ルイス」

「何?」


 不審な感じに目を細めるルイスの方に一歩近付いた。


「その、ありがとね。呼び捨てで呼んでくれて」


 今日一番の笑みを彼に見せた。

 恐らく何が何だか分かっていないだろうけど、それでもこれは今伝えたくなった。

 今、女神としての私ではなくて、公爵令嬢サシャ・フリークが婚約破棄されてから、初めて精神的に救われたのだから──。


「お前ひょっとして、様付けが嫌いな感じか? だとしたら貴族として相当な変わり者だな」


 なんてことを考えていた私が馬鹿だった。

 やっぱりこの男は少しも分かっていない上に言葉のチョイスが最悪だ。変わり者って、森に居る時点で貴方も変わり者よ!!


「はぁ……もういいわ。服が有れば良いのでしょ。疲れた」

「いや、何怒ってんだよ。えっ? 俺が悪い感じ?」


 本当に理解出来ないといった感じのジェスチャーをしてくるが、完全に無視を決め込む。うざい。

 あれは彼が悪いし、そういう反応をされると色々怒りが収まらないもの。


「じゃあ、ルイスはどんな服が良いかしら? ピエロの服? 囚人の服? それとも幼女の着そうなフリフリのドレスかしら? て言うか、貴方は服要らないとか?」

「なんかすいませんでした。怒りを静めてくだされ……」


 サシャの低い声に怯えたルイスは、土下座をするかの勢いで彼女に頭を下げて謝った。釈然としないという表情をしていたが、サシャからは見えなかった。


「しょうがないわね。許してあげる。で? 結局どんな服が良いの?」


 サシャの緩まった声にここぞとばかりに頭を上げたルイスは暫くの間考え込む。

 やがて結論が出たようで、目線をサシャの目線と交差させる。


「そうだな。着たい服なら、強いて言えば騎士の鎧とかかな? 格好良いし、一度でも着てみたいんだよなぁ」


 その声色は少し冗談じみたような砕けた風で、恒久的に叶わない願いであるという感情が含まれていた。

 しかし、そんなことは私の知ったことではない。彼にそのことをわざわざ聞いたのは私が服を創造出来るからである。彼の望みがそれならば、私は厳つい鎧でも作ってやろう!


「クリエイト。え~と、スチールアーマー」


 手を頭の上に突き出すようにして魔法の呪文を唱える。

 すると、不思議なことに、小さな粒子が無数に付近に集り、たちまち物体を形成していく。

 数センチの無数の塊になったと思えば、今度はそれが更に融合。

 なんと立派な鉄の鎧がほんの数秒間で完成した。

 金属光沢がきらびやかに輝いて、それは正に新品そのもの。


「はい、鎧」


 ガション!!

 指を彼の方にふいと動かすと、浮かんでいた鎧は彼の付近に甲高い金属音を立てながら転がった。


「お、お前は一体……」


 今にも飛び上がりそうな格好になりながら恐る恐る鎧を触り、確認を行うルイス。


「ど、どうやって鎧を手に入れた?」

「あら、手に入れたのではなくて、作り出したのよ?」


 そんなに驚くことじゃないと思うのだけど。普通にこの世界に転移してきた転移者とかには、特典として聖剣とか与えていたし。


 ルイスはふるふる肩を震わせている。

 覗き込むように見入ると、彼はばっと顔を上に向けた。


「そんなこと出来るか~~~!!!」



 彼のその声は森中に木霊(こだま)した。






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