73 真実を告げる時……
「ライナさん?」
「……」
サシャはライナの部屋を訪れていた。
ノックに返事はない。ただ、部屋に鍵も掛かってはいなかった。
──寝込んでいると聞いたけど、私がこの国から加護を消してしまったことによることからかしら?
サシャの考えている通りであった。
彼女は、サシャをハロルダ王子から引き離した後に起こったあらゆる不幸な事象を恐れ、部屋から出られなくなってしまったのである。
そして、それは一概に自業自得とは言えなかった。
──魔人の影響下にあったことで、秘めていた感情を暴走させられたのよね。女神である私には責められない。
サシャは知っている。
魔人の力がどれほど強力なのかということも、彼らに女神達がどれだけ疎まれていたのかも。魔人とは悪であり、人々の心を惑わしながら、世界を崩壊へと導く存在だ。
──まあ、例外もいるのだけどね。
サシャの頭には、ルイスの姿が思い浮かぶ。
出会った頃は、無礼な男くらいにしか思わなかったけれども、彼と一緒に国を渡り、それからミーナちゃんと出会って、気付けば大切な存在になっていた。
──失ったものもあったけれど、得たものだってある。だから、もう。
「……ライナさん、少し話したいことがあるの。いいかしら?」
だから、ライナ男爵令嬢の罪悪感を拭ってやろうと、シーラは考える。
元々嵌められた自分の責任も少なからずある。
ハロルダ王子の心を掌握しきれていなかったことも、あの場で強く否定して、確固たる証拠を出すように要求しなかったことも……。
サシャは意を決して、扉の先にいるであろう彼女の元へと向かう。扉の開く音が響き、大きなベットにくるまったままのライナ男爵令嬢と思しき膨らみがサシャの目に映る。
「ライナさん、サシャ・フリークです」
「……っ! 何ですか?」
レイナは怯えながら、震える声でサシャに尋ねる。
「和解しに来ました。顔を見せてください」
「そんなの嘘っ!」
「ええ……」
ヒステリックな叫びにサシャは、たじろぐ。
どうしてこんなにも追い詰められているのか、きっと彼女に多くの不幸が降りかかったからだろう。
──加護を取り払った時にもう彼女は十分な代償を受けたことでしょう。なら……。
サシャはゆっくりと布団を捲り上げる。
刺激の少ないように優しい手つきで、
サシャの瞳に映ったレイナは、目元が泣き腫らしたように赤く、髪はボサボサな状態であった。
「お久しぶりね」
声音は明るく。
それでいて、警戒心を説くようにサシャはライナの頭を撫でた。
「全部貴女が悪いわけじゃないのよ。今回のことを忘れることは出来ないけれども、それでももう、そこまで気にしなくてもいいから……」
「無理です……私は、取り返しのつかないことをしてしまいました。嫉妬に駆られて……償いきれない」
1人の人生を歪めたしまった後ろめたさもあるのだろう。けれども、今更何を言われたところで過去は変えられない。
「貴女が感情を抑えられないくらい、ハロルダ王子のことを想っていたことを私は知っているわ」
「えっ……」
「でも、それで貴女がこんなことをするまでには至らないはずだったの」
──きっと彼女は知らないだろう。自分が魔人の影響下にあったことなんて、だからこそ1人で抱え込んでしまった。それを今、断ち切る!
サシャは告げた。
贖罪の機会を与えるための言葉を。
「貴女は、ハロルダ王子へ寄せた好意を魔人に利用されたの。だから、私は貴女を責めたりしていないわ!」




